会社を辞めて「ぷらぷらする」期間が良い投資である4つのワケ
かつて多くの業界に、3日連続で徹夜したとか、朝5時退社で9時出社のようなハードワークを吹聴するカルチャーがありました。同様に、転職に際して、退職する側の仕事を金曜日の深夜までやり、「月曜日から新しい職場で仕事です!」と、少しも休まないことを苦笑いしながら明るくいう文化があったように思います。
この2つにはハードワークをこなす責任感の強さや、現職で任されている仕事と、今後の活躍が期待される仕事の重要さを示すシグナル効果があるのだと思います。実際、転職に成功する人であれば、たいていは新しい職場からは1日も早く来てほしいと言われているでしょうし、現職のほうでは1日でも長くいてほしいとなりますから、間髪をいれずに新しいチャレンジに向き合うことになるケースが多いのでしょう。
これはこれで立派なプロ意識だと思います。
ただ、転職が珍しかった時代と変わって、いまはもう少し柔軟なフェーズ移行というのもあるのではないかと思います。行き先や、やることを決めずに「充電期間」を数か月とか半年、場合によっては1年くらい設けてもいいのではないかと思うのです。そういう充電期間を設ける人を見かけることも、年々増えています。もちろん国内外の学校に戻って学位を取得するという人も多いです。
この記事では充電期間を設けるメリットを4つ書いてみたいと思います。
読書や旅行、勉強などして文字通り、充電ができる
個人のバーンレートや貯蓄具合によってはフルタイムの仕事に就かずに、あまり長く充電期間を取るのは難しいかもしれません。一方で、まとめて読書や勉強をしたり、人に会ったり、旅行をしたり(コロナ収束後になりますが)といった自分の人的資本への先行投資ができる期間でもあります。
どんなふうに過ごしても、長い人生の中では、貴重な経験になるのではないでしょうか。転職が珍しかった時代には履歴書に空白期間があるとマイナスに見られることもあったかもしれませんが、今の時代は違います。さすがに半年や1年程度でスキルや知識がそこまで古びることはありません。
事実上のFA宣言ができる
進路について何も決めずに退職だけをしてしまうのは、ちょっと昔なら勇気のいることだったかもしれません。しかし、今はソーシャル上で「退職しました。今後のことはまだ決めていません」と言えば、それが事実上のFA宣言となって、新しい仕事のお誘いが来ることも多いでしょう。人材エージェントと会って話をするのもいいと思います。
今後、人材の流動性が高まる中で大切なのは、ゆるくつながった状態の人脈を広めに保つこと。自分が何に取り組んできて、何ができるのか、何がしたいのかを発信しておくことです。さらに、仕事ができる・できないという話だけではなく、「また一緒に仕事がしたいよね」と言い合えるような関係性を作っていくことも、個人的には非常に重要だと思います。
「手伝って」に応えて、いろいろな会社・人と仕事ができる
友人・知人に「暇にしてるなら手伝って」と言われることもあるでしょう。そういう業界ばかりではないと思いますが、私が認識しているIT系やスタートアップ・メガベンチャー界隈の良さは、こうしたフットワークの軽さと、2、3ホップで多くの人が繋がり、紹介や繋がりで人材が流動しているという、そのあり方にもあります。もし、そうした繋がりがないのであれば、副業プラットフォームと言えるサイトに登録するのもありです(Coral Careersも、そんな場の1つです)。業務委託などで仕事を手伝う中で、フルタイムで入りたいと思うようになるかもしれません。
そうして「充電期間中です」「ぷらぷらしています」「知り合いのスタートアップを手伝ったりしています」という中で、徐々に本命を絞っていくという転職方法を(結果的に)実践している人が増えているように思います。
意思決定するタイミングに幅をもたせられる
最後に書く理由は、実はスタートアップ文脈ではいちばん重要かもしれません。それは意思決定するタイミングに幅をもたせられることです。
ここまで転職の前提で書いて来ましたが、自ら起業するとか、創業メンバーとしてスタートアップ創業に参画するといった場合、タイミングは重要です。誰かと「やろう」と決めるタイミングや、ちょうど良いアイデアで起業して走り出した友人に誘われるタイミングというのは、そんなに待ってくれません。現メルカリ会長の小泉文明氏が、ミクシィの取締役を退任した後の1年の充電期間中に、創業者の山田進太郎氏に誘われた、というのが典型です。あるいは、かつて私が何度か取材やイベント登壇で話をした米Gusto共同創業者のエドワード・キム氏は、Androidアプリで十分すぎるほど儲かった後に、それを続けることに飽きてしまい、1年ほどふらふら。なんとなく参加した市民マラソン大会で、かつての同級生と再会し、その出会いがきっかけでGustoを創業したと話していました。2019年時点で4,000億円超のバリュエーションとなるユニコーン創業のきっかけも、充電期間中のセレンディピティだったということです。
起業、創業メンバーが出会ったきっかけを聞くと、誰それが退職したタイミングでとか、誰かがプロジェクトで一区切りついたタイミングだったので、ということが多いように思います。優秀な人であれば、現業にコミットして多忙なはずなので、結果的にタイミングがうまく重なったと口にする人が多いのだと思います。
「タイミング」というのは、いつやってくるか自分でコントロールできません。だとすると、チャンスがあれば、すぐに動ける状態というのを意図的に少し長めに取ってみる、そんな「ぷらぷらする期間」というのは、その期間の経済的損失を補ってあまりある合理的な投資になり得るのではないでしょうか。
Partner @ Coral Capital