ECサイト事業者にとって返品は頭痛のタネですが、米国では返品をポジティブにとらえ、売上につなげる企業が少なくありません。
例えばAmazonは出品者に対して返品無料を義務づけたり、ZARAは30日以内の返品無料を掲げたりと、返品ポリシーを緩めることで安心して買い物をしてもらう環境を整えています。
2020年1月に日本上陸したAllbirdsも、使用済み商品であっても無条件で返品を受け付ける、ユーザーフレンドリーな返品体験が爆発的な成長につながりました。
1,000億ドル市場を狙う「返品スタートアップ」
返品体験に目をつけているのは、大手企業だけではありません。
米国ではShopifyを利用するEC事業者などに対して、返品効率化ツールを提供する「返品スタートアップ」が登場しています。これらのスタートアップに共通しているのは、返品を「顧客接点」ととらえ、次の購買につなげようとしていることです。
例えばReturnlyは、返品希望者に対して即座に(商品返品前でも)返金するサービスを提供。それと同時に、別商品への交換を提案することで、EC事業者のアップセルを実現しています。同社は今年5月、後払いサービスBNPL(Buy Now, Pay Later)の代表格であるAffirmに3億ドルで買収されました。返品スタートアップとしてはこのほか、NarvarやHappy Returnsなどがあります。
全米小売業協会(NRF)の調査によれば、2020年におけるECの売上高5,650億ドルのうち、2割弱の1,020億ドル相当が返品されていたことがわかりました。NRFは、コロナ禍でEC利用が急増したことを受け、オンラインの返品が昨年から倍増したことも指摘しており、「返品ビジネス」はますます盛況になることが予想されます。
返品を売上ロスではなく、再購入につなげる
日本で返品ビジネスに商機を見出したのが、Coral Capitalが出資している「Recustomer」の柴田康弘さんです。
もともとはShopifyを利用する小売事業者向けのコンサルを手がけていましたが、「顧客のペインポイントのど真ん中が返品だった」ことに可能性を感じ、返品ビジネスへのピボットを決断。今年6月、小売事業者の返品・返金業務を自動化するSaaS「Recustomer」のベータ版をリリースしました。
Recustomerを導入したECサイトの利用者は、注文番号といくつかの質問(返品理由や使用状況など)に答えるだけで返品を申請できるようになります。申請内容がECサイトの返品ポリシーに沿っていれば即座に承認され、その場で商品集荷の依頼や、コンビニで発送するためのQRコード発行が可能です。
ECサイトはあらかじめ商品交換や返金の条件を設定しておくことで、購入者からの返品リクエストに対して、システムで自動対応できるようになります。倉庫とも連携し、注文番号や顧客情報、検品の結果、商品配送ステータスなどをRecustomer上で管理できるようにしています。
返品にあたっては、商品交換や返金のほかに、購入金額と同等の「リカスタマークーポン」を即時付与する選択肢も用意しています。返金希望者に対して、クーポンで購入可能な別商品への交換を促すことで、ECサイトの売上損失を防ぐだけでなく、返品を再購入につなげるためです。
「例えばTシャツの返品理由がサイズであれば、別サイズとの交換で問題ありません。ただ、シルエットが気に入らない場合は、いったん返金した上で、別の商品を買い直してもらう必要があります。返金には時間がかかるので購入意欲が冷めてしまいますが、返品と同時にストアクレジットを付与することで、再購入いただける可能性は高くなります」
返品文化に馴染みがない日本で「返品ビジネス」は成立するのか
2017年と少し古いデータになりますが、Forbesによれば、米国のECサイトの返品率は25%〜40%に上るそうです。日本は米国と比べるとECサイトの返品条件が厳しく、そもそも「気に入らなかったら返品する」スタイルは日本人に馴染みが薄いように思えますが、「日本の返品事情は変わりつつある」と柴田さんは見ています。
「日本のEC返品率が低いのは、クーリングオフが通販に適用されなかった名残りで、EC事業者が返品ポリシーを緩めてこなかったためです。一方で、こうした事情と無関係のAmazonやロコンドなどの海外企業が日本に上陸し、柔軟な返品ポリシーを掲げて成功しています。日本でもこの動きに追随する小売事業者が徐々に増えているので、欧米並みに返品率が上がる可能性は高いと予想しています」
現在は、新興アパレルD2Cブランドを中心に試験導入が進んでいるほか、実店舗を運営する大手ブランドとの実証実験も行っています。「米国では返品ポリシーを緩めれば売上が伸びることが証明されています。日本でも同じことを証明していけば、一気に返品ポリシーを緩める方向に進むと確信しています」。
柴田さんによれば、一般的なECサイトで返品を受け付ける際は、メールで購入者とやりとりしたり、Excelで返品商品を管理したりと、アナログな方法が採用されているのが現状だといいます。
「ECサイトは今後、返品を嫌がるのではなく、いかにロスを抑えて、売上拡大につなげるかが重要になってきます。ECサイトがスマートな返品対応をできれば、返品はコストセンターではなく、利益を生み出すプロフィットセンターになるはずです」
Content Lead @ Coral Capital