本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」の投稿、「Nothing Is “Standard”」を翻訳したものです。Fred Wilson氏による過去の翻訳記事の一覧は、こちら。
昨夜、ディナーで投資の仕事をしている友人2人と妻に対して、この話をしたところ(妻は何度も同じ話を聞いてますが)面白がってくれました。
以前にもブログに書いたのですが、最後に紹介したのは10年近く前のことです。
なのでここでもう一度皆さんにこの話をしようと思います。
今朝、目が覚めてモーティのことを思い出しました。彼とはもう10年以上会っていないし、連絡も取っていませんが、モーティは交渉において最も重要なことを私に教えてくれました。
モーティは、アイザックが立ち上げたMultexのパートナーでした。彼らがMultexの資金を出資したのです。ただ、モーティはベンチャー気質の人間ではありませんでした。不動産業界の弁護士をしていて、たまに不動産に投資していました。とても保守的な性格で、スタートアップやベンチャービジネスも好きではなかったようです。とはいえ、それでもアイザックのパートナーです。アイザックはあるときモーティにシードラウンドのためのタームシートを私と交渉するよう言いました。
1992年の終盤のことです。私はベンチャービジネスに5年ほど携わり、自分ですでに2、3件のディールをまとめていました。タームシートの交渉もたくさんしてきましたが、モーティの時のような交渉は他にありませんでした。あれほど荒れた交渉は後にも先にもなかったと思います。
モーティはベンチャー業界のタームシートの内容に馴染みがありませんでした。彼にはどの条項も意味不明に見えたのです。そこで私は空港の公衆電話越しに(携帯電話がない時代です)、タームシートの内容を1行づつモーティに説明しました。
償還条項のところまで来たとき、彼はこう言いました。「フレッド、なぜこの条項が必要なんだ?」 。私は説明の度に異論を唱えてくる彼にうんざりし、思わず言ってしまいました。「それがスタンダードだからだよ。いつもこの条項が入っている。いつもそうだったし、これからもずっとそうだ」。
モーティはこれに腹を立て、電話口で声を張り上げました。
「いつもこの条項が入っているなんてオレの知ったことっちゃない。そんなことどうでもいい。なぜ必要なのか説明しないのなら、これが君にとってこの条項が入らなかった最初のディールになる」
そこで私はハッとして、ディールが何年もうまく行かなかった場合、ディールから抜け出す方法を確保する必要があり、償還条項でそれができると弱々しく説明しました。モーティが私の説明に納得したかどうかは覚えていません。ただ、MultexのシリーズAラウンドの時も、私がこれまで行ってきたほぼすべてのディールにも償還条項が入っていたのは確かです。
モーティの指摘は正しく、それ以来、私は彼の考え方を採用しています。どの条項に対してもそれが「スタンダード」であるとは決して言いません。スタンダードなんてないのです。必要なのか、必要ではないのか、ただそれだけです。双方が本当に取引したいと思っているのなら、必要な理由を説明することで、ほとんどのケースで条件が受け入れられるか、それに似た条件が付けられるでしょう。
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Editorial Team / 編集部