Coral Capitalは6月、出資先7社のプロダクトマネージャー(PdM)が抱える課題を赤裸々に語るトークイベントを開催。現役もしくは今後PdMへの転身を考えている人など約150人が参加し、登壇者が語るリアルな実情に耳を傾けました。
本記事では、ハルモニア株式会社の布川悠介氏による、「値決めはデータでどこまで助けられるのか?」と題したライトニングトークの内容をお伝えします。
※2021年8月24日より「株式会社空」は「ハルモニア株式会社」へ社名変更しました。登壇時は社名変更前のため、キャプチャ画像では旧社名で表記されています。
ハルモニアがやっている事業をわかりやすく言うと、ダイナミックプライシングという領域です。
これは、商品やサービスの価格を、需要と供給の条件に合わせて変動させる価格戦略のことを言います。
みなさんに馴染みがあるのは、航空券だったりホテルを予約する際に、「出発や宿泊する直前になると高くなった!」といった経験があるかもしれません。
ダイナミックプライシングにはレベル感があり、月や曜日、もっと細かいと時間帯で変えたり、さらには購入のタイミングによって変えたりすることもあります。
そうなると企業側は、「価格をいくらにするか」という意思決定の量と頻度がかなり膨大になってくるのが大きな課題になります。
ダイナミックプライシングは収益性にも効いてきます。
新しい商品や店舗を作らなくても、価格を動かすだけで収益性を高められるところがメリットかなと思っています。
規模の成長が難しい時代においては、収益力が今まで以上に重要になってきます。人口減少やコロナ対応などで販売量が落ちていく状況を踏まえ、今のアセットを活用しつつ、収益を高めていく必要があります。
その課題に対する1つのソリューションとして、ダイナミックプライシングが注目されている背景があるのです。
具体的にハルモニアでは「MagicPrice」というプロダクトを通して、顧客の需要に合わせたプライシングを実現しています。「タイムリーな価格変動」と「直感的な運用」はユーザーに喜ばれている特徴です。
基本的な機能としては、過去の販売実績や需要変動、需要の先行指標などのデータをもとに価格を変更するモデルを作り、その企業ごとの機会損失を見つけて防いでいきます。
この作業をある程度自動化することで、効率的に価格を変えられるようになります。
PdMの悩み①「期待値がずれやすい」
プロダクトが抱える課題の1つ目は、「期待値がずれやすい」ということです。
ダイナミックプライシングというと、「AIがなんとかしてくれるんでしょ?」と思われがちなのです。
実際には、導入企業がどういう条件で、どんな価格付けをしたいかをソフトウェアにインプットして、あとは機械的に判定させています。そのため、AIというよりは、ホワイトボックスなモデルを採用しているんです。
「これを導入したらAIが勝手に何とかしてくれるでしょ」と想像が膨らみやすいテーマなので、誤解がないように丁寧にコミュニケーションをするようにしています。
PdMの悩み②「データ分析の説明コストが高い」
2つ目の課題は、データ分析の説明コストが高いことです。
1つ目の課題にもつながるんですが、ユーザーさんに統計値を出したり、データのばらつきを表現したりすると、「見た目すごい」と思われるのですが、実際にそれらの機能をユーザーさんが使いこなせないこともあります。
ですので、いかにユーザーフレンドリーな分析機能を提供するかが、チャレンジになっています。
この課題を解決するためにハルモニアでは、データサイエンティストとか、ビジネスサイド、UXデザインと協調して進めていて、それがハルモニアの強みになってきています。
PdMの悩み③「効果証明が難しい」
3つ目の課題は、効果証明が難しいということです。
財務諸表に近いレイヤーで効果証明が必要になるので、売上にどれだけコミットできたかを証明するための答えを模索しています。
ユーザーと一緒にどうやって効果を証明していくかというポジションを取れるかが鍵になってくると思います。
これまで挙げてきた課題を解決するためには、
・より小さく早く試せる環境を作り、適切な期待値を一緒に作ってくこと
・認知負荷が低く、解釈性が高いアプローチで顧客に寄り添うこと
・ベストプラクティスを発見して、業界の知識として展開すること
がヒントになると考えています。
データやテクノロジーを活用した値付けはまだまだ黎明期なので、企業さんには「ベストプラクティスを一緒に作るパートナー」として認識してもらうことが大事だと日々感じています。
【プロダクトマネージャーが抱える課題トーク、全記事一覧】
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- AIが勝手にやってくれるんでしょ?→誤解されないための「期待値合わせ」はクライアントと一緒に(ハルモニア)
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Content Lead @ Coral Capital