SaaSの「値付け」ってどうすればいいの? その道のプロに聞いてみた

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Written by 増田 覚
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SaaSやサブスクを手がけるスタートアップが頭を悩ませる問題の一つが「値付け」です。そこでCoral Capitalは、投資先のスタートアップからプライシングにまつわる疑問を募集し、「その道のプロ」に答えてもらうオンライン勉強会を開催しました。

質問に答えてくれたのは、今年12月に著書『新しい「価格」の教科書 値づけの基本からプライステックの最前線まで』を出すハルモニア株式会社CEOの松村大貴さん。Coral Capitalの投資先でもある同社は、需要と供給の条件に合わせて商品やサービスの価格を変動させる「ダイナミックプライシング」を手がけています。

慶應義塾大学法学部卒業後、ヤフー株式会社へ入社しアドテク事業に従事。2015年にハルモニア株式会社(旧:株式会社空)を創業し、データ分析・価格決定を高速化するダイナミックプライシングシステム「MagicPrice」をホテル業界へ提供開始。現在はBtoC業界へ拡げ提供。著書に『新しい「価格」の教科書 値付けの基本からプライステックの最前線まで』(ダイヤモンド社)がある。

以下、松村さんのアドバイスをまとめました。

プライシングの大前提:「価格差別」をうまく使いましょう

プライシング戦略のキモとして最初にお伝えしたいのは、「価格差別をうまく使いましょう」ということです。

価格差別というのは、同じ商品やサービスを買い手ごとに異なる価格で販売する手法になります。SaaSスタートアップであればライトプラン、ミディアムプラン、プレミアムプランなどと、複数のプランを用意するイメージです。そうすることで、単一プランでは逸してしまっていた利益を獲得できる可能性が上がります。

各社のSaaSにはいろんな機能があり、顧客によってニーズや困り具合は異なりますよね。なので、まずはどんな機能がよく使われているのかを分析した上で、単価を設定するのが値付けの基本とされています。絶対にやるべきことですし、必ずインパクトが出てくるはずです。

Q:料金を設定するときのポイントは?

まずは、自社プロダクトがなかったとしたら、顧客はどんな手段を使って課題を解決するのかに着目します。そしてそれらの手段と比べて、自社プロダクトで削減可能な金額を算出し、その金額を顧客と半々で分配する。例えば、自社プロダクトのおかげで2万円分のコストを削減できるのであれば、1万円をいただくようなイメージですね。

ところがSaaSのプライシングでは、半々で分配するよりも大きな割引が求められていて、半々の金額からさらに20〜30%程度の割引をするのが、成約につながりやすい「スイートスポット」と言われています。

自社プロダクトで削減できたコストの半分からどれぐらい割り引くかについては、スタートアップの戦略によって変わります。契約後により高いプランに移行してもらいやすいSaaSであれば割引率を高くすることがありますし、競合プロダクトにスイッチされにくくするために安い価格に設定することもあります。

Q:値上げするときに気をつけることは?

毎年プロダクト改善を繰り返しているSaaSであれば、既存プランの提供価値も向上しているはずです。

それに合わせて定期的に価格を見直すことは大切ですが、下の図のように、縦軸のSaaSの提供価値(≒解決できるペイン)を横軸のコストが上回ってしまうとチャーンの恐れが出てきます。

ですので、値上げするにあたっては提供価値と価格のバランスの取れた「フェアバリュー」のラインに乗り続けることを意識してください。今の金額よりは高いけれど、自社プロダクトの代替手段よりも安い範囲に設定することが重要です。

Q:価格に敏感な消費者向けのサービスの値上げで意識すべきことは?

法人よりも個人の方が値上げに敏感と言われています。法人でSaaSを契約する担当者は「会社の予算」から支払うのに対して、個人は「自分の財布」から支払うためです。だからこそ、個人向けのサービスはわずかな値上げでも敏感な反応が起こる可能性があります。

とはいえ、個人向けのサービスではチャーンを覚悟した上で、フェアバリューの範囲内であれば強気の値上げに踏み切ってもいいと思います。実際にNetflixも2021年に月額料金の値上げを実施しました。

わずかな値上げだとしても一定の解約が発生すると予測されるなら、継続してくれる顧客から十分な利潤が取れるところまで値上げしないと意味がありません。例えば、値上げ金額が50円でも200円でも解約率がさほど変わらないこともあるので、顧客の値上げに対する敏感さを踏まえた上で判断することがおすすめです。

Q:競合が価格競争を仕掛けてきたときはどう対応する?

いきなり正論なのですが、価格競争はしないのが正解です。適正価格を崩してまで価格競争をすると、資金力が物をいう体力勝負になりかねません。競合が価格破壊を仕掛けてきても、自分たちが正しいと考える「フェアバリュー」に位置し続けるのが、プライシングの王道とされています。

もちろん、顧客の満足度が低ければ値下げも視野に入れるべきです。ですが、満足度が高ければ安さで抵抗するのではなく、適切な価格を設定しながら利益を取り続け、競合が撤退するのを待つのが良いでしょう。PayPayのように何百億円もかけて、かなり長期にわたり初期費用を無料にするキャンペーンに投資できる確証があれば別ですが、スタートアップは価格以外の訴求力を作るほうが大事だと思います。

Q:新規顧客獲得で「無料お試し」はどこまで有効?

類似サービスが存在しないSaaSは、プロダクトのメリットが伝わりにくく、新規ユーザー獲得に苦戦することがあります。そうしたSaaSでも、自社プロダクトの使い方を理解してもらうためのオンボーディングのコストが低ければ、1カ月無料体験のような取り組みは有効だと思います。そうでない場合は、顧客の説明に時間とコストをかけるべきでしょう。

BtoBのSaaSに注意してもらいたいのが、フリーミアムプランは避けるべきということです。

フリーミアムのビジネスモデルが機能するのはユーザー数がかなり大きい市場だけと言われていて、1件1件営業するようなBtoB市場ではコストが合わないとされています。ですので、BtoBのSaaSはずっと無料で使えるライトプランを用意するのではなく、フル機能を一定期間だけ無償で使ってもらうべきです。

まとめ:レイターステージまでは値付けを試行錯誤してみよう

レイターステージ未満のスタートアップは、いろんな値付けを試してみるべきだと考えています。試行錯誤を重ねることで、売れやすい金額や効果的な値引きの条件がわかるようになってくるからです。そうした試行錯誤は、営業をシステマティックに回していくために必要なことでもあります。

逆に言うと、レイターステージで顧客が増えてきてからは、価格の見直しをするのが難しくなりますし、効率も悪くなります。だからこそ、1社1社に対して見積もりや割引率を変えられるのはアーリーステージの特権と割り切って、値付けを試行錯誤してみてはいかがでしょうか。

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