スマホで注文から会計まで完結するモバイルオーダーが、コロナをきっかけに飲食業界で広まりつつあります。飲食店にとっては人件費削減が見込めること、さらには非接触で注文できる衛生面での安心感も普及を後押ししています。そんなモバイルオーダーに着目し、「飲食店のDX」を加速させようとしているのがCoral Capital投資先でもあるダイニーです。
ダイニーが手がけるのは、飲食店向けのモバイルオーダーPOS。テーブルにあるQRコードをLINEアプリで読み取るだけで注文ページが立ち上がり、自分のスマホから注文できるのが特徴です。
来店客が使うモバイルオーダーのほかにも、店舗スタッフ向けのPOSや、本部スタッフ向けの管理ツールなど、合計11個のプロダクトを開発しています。
モバイルオーダーはLINE上で動く「ミニアプリ」を利用しています。ダイニーによれば、専用アプリのダウンロードや会員登録が不要なことから、導入店舗では8割近くの来店客がモバイルオーダーを利用しているそう。この割合はLINEの利用率とほぼ同じであるため、導入店舗ではほとんどの来店客がモバイルオーダーを利用していると言えそうです。
現在は居酒屋や焼肉屋など、注文回数が多い飲食店で導入。ダイニーによれば、3人以上のホールスタッフがいる導入店舗では、注文が簡素化することで最低でも1人分の稼働を減らせるため、人件費を約30%削減できると言います。さらに、リモコン感覚でオーダーできる気軽さから注文が増える傾向があり、客単価は15%増えたそうです。
人件費削減や客単価向上じゃない、モバイルオーダーの本質
利益率が決して高いと言えない飲食業界にとって、モバイルオーダーで人件費削減や客単価向上が見込めるのは大きなメリットになりそうですが、「モバイルオーダーの本質はお客様をオンライン化し、どれだけ会員として囲い込めるかに尽きる」とダイニー代表取締役の山田真央さんは言い切ります。
「お客様をオンライン化する」とはどういうことなのでしょうか。
ダイニーのモバイルオーダーは、QRコードを読み取る際にLINEの認証ログインを求められます。利用規約に同意した来店客は、LINEで1タップ認証するだけでメニューページが表示されますが、それと同時にダイニーの会員化も完了しています。山田さんによれば、この仕組みが「お客様のオンライン化」なのだそう。
「店舗のオペレーションと顧客体験の双方を損なわない形でIDを取得しているので、お客様をなめらかにオンライン化できるのが強みと言えます」
飲食店は来店客のLINE IDに紐づくユーザーデータを取得できるため、自店舗のLINE公式アカウントの登録も促せます。過去には、わずか1カ月で1,000人が会員登録した店舗もあったそうです。
推しスタッフに投げ銭も
「お客様のオンライン化」を推し進めるダイニーが2021年1月、一部の店舗で実験的に始めたのがホールスタッフへの投げ銭サービスです。「推しエール」という名称で、スマホの画面に出勤中のスタッフと投げ銭ボタンが表示され、スタッフへの感謝や応援の気持ちとしてチップを送ることができます。
チップの金額は店舗が8種類(0円〜上限なし)を設定し、どのスタッフにどのくらいのチップが送られたのかがわかります。導入店舗ではスタッフのモチベーションや接客の質の向上につなげるだけでなく、接客の評価・貢献度を可視化する指標としても活用できます。人気のスタッフともなると、1日で15,000円分のチップが集まることもあるそうです。
推しエールのボタンは注文画面に常時表示されるため、来店客はスマホで注文するたびに投げ銭を意識することになります。山田さんによれば、導入店舗では来店客の1割が推しエールを使っていて、そのほとんどが次回来店時も利用しているそう。「今まで日本にはチップ文化が根付きませんでしたが、UI/UXの力でチップの習慣を広めていきたいですね」。
飲食業界のOMOインフラを制したい
ダイニーが目指しているのは、モバイルオーダーPOSを通して飲食業界の「OMO」インフラになることです。OMOとはオンラインとオフラインの体験を融合するという意味のマーケティング用語。ダイニーは顧客をオンライン化することを起点に、店舗でのエンゲージメントを高める施策を打っています。
ダイニーの競合となりうるのはPOSです。一般的にPOSは「いつ・何を・どれだけ」注文したかというデータを集計していますが、LINE IDと紐づくダイニーはPOSデータに加えて「誰が」までを分析することが可能です。これにより、LINE公式アカウントからクーポンで再来店を促したり、優良顧客に新商品や裏メニューを案内したりと、「ファンの濃度を上げるための施策が打てるのが強み」と山田さんは言います。
「これまで飲食店は『どんなお客様が来ていて、何を食べているのか』を知るのは不可能でした。さらにはそのお客様と1対1でつながり、店外で接客することも難しかった。一方、ダイニーはお客様をオンライン化することでCRMが可能になり、ファンを囲い込むことができる。POSの上位互換のような位置づけです」
ダイニーは現在(2021年9月末時点)、24万人以上が利用しています。コロナ禍では衛生面の安心感も後押しし、自分のスマホから注文できるモバイルオーダーが一般化すると山田さんは見ています。店舗の導入数も2020年のリリースから右肩上がりで、緊急事態宣言が解除されてからの引き合いが急増しているそうです。
2021年6月には、Coral Capitalなどを引受先として3.5億円の資金調達を行いました。このシリーズAラウンドでは採用に積極投資。具体的には飲食店の導入を進めるカスタマーサクセスチーム、ブランディングを行うマーケティングチーム、プロダクト開発を行うエンジニアチームの組織を強化しているので、興味のある方は同社の採用ページをご覧ください。
Content Lead @ Coral Capital