店舗にとって地図アプリや口コミサイト上の情報は顧客との大事な接点であり、集客の生命線といってもいいでしょう。口コミ情報の一括管理サービス「口コミコム」を運営しているmovによれば、今や消費者の70.1%が口コミサイトを重要な情報源と見なし、お店探しに活用しています。こうした市場を背景に、Googleマップなどの口コミ情報を最適化し、表示順位を高める「MEO」(Map Engine Optimization)が活況を呈すようになりました。
参考記事:「ここが変だよ日本のMEO」マップ最適化の問題点を専門家に聞いた
そんななか、Coral Capitalの出資先企業でもあるmovが運営する「口コミコム」では、Googleマップをはじめ12種類の地図アプリや口コミサイトに掲載されている店舗の情報を一括して管理するサービスを提供しています。ただし、mov代表取締役の渡邊誠氏は口コミコムをMEOではなく、口コミサイト上の情報を売り上げに変えていく「ローカルSEOサービス」と定義しています。
新型コロナ対策の自粛要請に従い、急遽営業時間の変更を余儀なくされた店舗は少なくありません。もし口コミサイト上の情報がそのままでは、「営業中だと思って来たのに閉まっていた」といったクレームが生じる恐れがあります。口コミコムでは主要なアーンドサイト上の店舗情報を一括して更新することで、そうした問題を未然に防止します。「Googleマップという1つのアプリだけでなく、12の主要な口コミサイトを対象に一括して管理できることが口コミコムの特徴です」(渡邊氏)
もう1つの重要な機能が、登録された口コミ情報の分析です。口コミには顧客の生の声や重要な示唆が含まれています。
口コミコムでは、店舗に星がいくつ付けられており、何が評価され、何に対するクレームが多いのかをAIを用いて分析できます。さらに、競合ブランドと比較することによって、問題点を浮き彫りにし、売上向上に向けた効果的な改善策まで立てられます。
口コミコムはリリースしてからわずか10カ月で、約2万8,000店舗に導入されています。サブウェイやピザハットといった誰もが知る大手飲食チェーンにはじまり、アパレルやドラッグストア、携帯電話キャリア、さらには自動車のディーラーに至るまで幅広い業種が口コミコムを採用し、店舗情報管理の効率化だけでなく、実際の売上につなげてきました。
たとえばチェーン展開している約400店舗に導入したピザハットでは、それまで8時間かけていたGoogleマップへの投稿作業を5分と約100分の1に短縮すると同時に、店舗情報の改ざんを防いで、常に正確な情報を反映させるようにしました。そして、口コミをもとに店舗単位でどのような問題が発生しているか、逆に競合と比べてどのような優位性があるかを見える化し、オペレーションを改善しました。
その結果、口コミコム導入からわずか4カ月でGoogleマップ経由の売上を4,400万円上昇させることに成功したそうです。
サービスの原型は手作業で行った口コミ分析
そんな口コミコムの原型は、渡邊氏が関西のある大手ホテルに対して行ったコンサルティングにあります。
「このホテルでは日本人と比べて客単価が高い外国人客の比率を上げ、元々高かった稼働率をさらに高めたいと考えていました。そこでまず何をしたかというと、TripAdvisorに載っていたそのホテルと競合するホテルの口コミを全部Excelのシートにコピー&ペーストして整形し、いつ投稿されたか、評価はいくつで、どんな内容が投稿され、ホテル側の返信はいつ行われたかを、形態素解析などを加えて分析していきました」(渡邊氏)
結果として、競合ホテルでは建物や施設といった設備投資が必要な部分でネガティブな口コミが多かったのに対し、渡邊さんがコンサルティングしていたホテルでは、レストラン周りなど手を付けやすい部分に対するネガティブ評価が多いことがわかってきたそうです。この結果をもとに改善案を提案したところ、稼働率はそれまでの91%から94%に上がり、インバウンド比率は5%から30%に上昇。結果として売上も大きく増加しました。
「このケースから、口コミをもとに店舗の業務改善をすると、売り上げを大きく上げられるという実感がありました。そこで、私が手動でやっていたこのノウハウをツールにして提供できないかと考えて始めたのが口コミコムの原型です」(渡邊氏)
サービスのローンチ以降、ピッチイベントなどには参加せず、スタートアップ業界で目立たないようにしてきたというmov。むしろ「目先の売上を重視しての焼き畑農業はやらない」「顧客にきちんと価値を提供する」という、どちらかといえば地道な方針で事業を展開してきた結果、口コミコムの売り上げも順調に伸びてきたそうです。
中でも驚くのはチャーンレートで、わずか0.28%という水準です。贅沢なことに、「それ以前から提供してきた訪日外国人向けのインバウンドニュースサイト『訪日ラボ』など他のサービスも含め、事業を伸ばしていく上で、数字が積み上がらなくて困った経験はほとんどありません」と渡邊氏は言います。
こうした実績を背景に、2021年7月にはCoral CapitalおよびSMBCベンチャーキャピタルから3.3億円の資金調達を実施。マーケティング活動の強化や営業・開発部門とカスタマーサクセスを中心とした人材採用を進めて、事業展開を加速させる方針を示しました。
2021年11月には、日本にまだ2人しかいない「Googleマイビジネス プラチナプロダクトエキスパート」の永山卓也氏をアドバイザーとして招き、口コミサイト上の情報を売上に変えていく「ローカルSEOサービス」を実行する体制をさらに強化しています。(その後、永山氏はさらに上位の、ダイヤモンドプロダクトエキスパートに日本人で初めて昇進しました)
自らも、また、ともに働く仲間も「口先の空中戦は苦手ですが、地上戦での突破力や戦闘力に自信を持つ野武士タイプが多い」というmov。効果を出すにはある程度時間のかかるローカルSEOという分野でカスタマーサクセスを実現するべく、「長く続くサービスとして提供していくため、今後も王道のやり方を継続していきます」と渡邊氏は話しています。
Contributing Writer @ Coral Capital