ブロックチェーンを活用したソリューションに取り組むスタートアップ、G.U. Technologies。その創業メンバーには、代表取締役CTO近藤秀和氏の名前があります。一世を風靡した日本のウェブブラウザ「Lunascape」の創始者が、現在はブロックチェーン分野に取り組んでいるのです。どのような可能性をブロックチェーンに見いだしているのか? 話を聞きました。
Ethererumでブロックチェーンビジネスをやりたい個人と企業を支援したい
「ブロックチェーン領域には以前から注目していた。その中でもEthereumは『抜けている』ように見えた」
——近藤氏はそう話します。近藤氏が注目し、G.U.Technologiesが取り組んでいる領域は、Ethereum(イーサリアム)のブロックチェーンを個人だけではなく法人でも安心して利用できるようにすることです。
同社は3月8日にCoral Capitalと自然キャピタル合同会社から2億6,000万円の資金を調達したことを発表しています。今後は調達した資金で人材採用を強化し、プロダクト開発と事業開発を進め、NFT(非代替トークン)を始めとするWeb3領域、エンタープライズブロックチェーン領域、ステーブルコインをはじめとするフィンテック領域に向けたソリューション開発を強化していく予定です。
プロダクト/サービスとして、Ethereum互換の自前のブロックチェーンを手軽に構築できるサービス「G.U.Blockchain Cloud」、Ethereum互換テストネットの「G.U. Sandbox Chain」、Ethereumウォレット「Lunascape Wallet Extension」を提供中です。4月5日には日本発のEVM互換パブリックチェーンの「Japan Open Chain」を発表しています。プロダクト/サービスの提供だけでなく、ブロックチェーンを活用したソリューションのコンサルティングも手がけています。
Ethereum互換の自前のブロックチェーンを手軽に構築できるサービス「G.U.Blockchain Cloud」
G.U.Technologiesが解こうとしている問題とは何なのでしょうか。詳細は後述しますが、ざっくり言うと企業がブロックチェーンを活用したビジネスに参入するとき——、例えば「NFTを発行し、マーケットプレースを立ち上げる」「独自通貨を発行する」など場合に発生する諸々の技術的、法律的な課題をまとめて解決するためのソリューションを提供することを目指しています。
Ethereumの可能性
近藤氏が、他の技術に比べ「抜けている」と感じたEthereumを企業で利用する取り組みはすでに多数あります。事情を近藤氏に聞きました。
まず、暗号通貨(あるいは仮想通貨、暗号資産)としてのEthreumはBitcoinに次ぐ時価総額2位の大型銘柄です。そしてブロックチェーン技術としてのEthreumは、スマートコントラクト(ブロックチェーン上にデプロイして自動執行するプログラム)やLayer 2技術(ブロックチェーンの上に別の層=Layerを設けることで処理能力をスケールさせる技術)などブロックチェーン分野の新たな技術トレンドの発生源となっています。
近藤氏は、Bitcoinが登場した2009年頃に、すでにBitcoinに注目していたといいます。Ethereumは2013年に初期構想を発表、2015年に最初のバージョンをローンチしています。近藤氏はEthereumの開発者会議であるDevcon(2018年11月にチェコ・プラハで開催のDevcon4、2019年10月に大阪で開かれたDevcon5)にも参加し、Ethereumの開発者コミュニティの実像を見ています。
そうした経験を踏まえ、近藤氏は「コミュニティも大きく、技術的にも思想的にも素晴らしいメンバーが揃っている。一言では言い尽くせないが、間違いなくEthereumは革新的な分散コンピューティング環境であり、ITのみならず金融や労働のあり方などに対して革命的なインパクトをもたらすだろう」と話します。
スケーラビリティ問題により独自チェーンが必要に
ただし、ビジネスとして取り組むことを考えたとき、Ethereumにはいくつかの制約があります。大きな問題の1つはスケーラビリティ、つまり処理性能の制約です。
ブロックチェーン技術は全般に、処理性能を犠牲にしてまで分権性(decentralization)とセキュリティを追求するアプローチを取ります。Ethereumも例外ではありません。Ethereumのメインネットでは毎秒15トランザクションという性能の上限があります。関連して、ブロックチェーンを利用する手数料は当初の想定をはるかに越えて高騰し、単純な送金で数千円、複雑なプログラムの実行では数十万円の手数料が発生する場合もあります。
このEthereumのスケーラビリティ問題の抜本的な解決に向けて、コミュニティはここ何年もの間取り組みを続けてきました。しかし、問題解決はそれほど簡単ではありません。
「トラストレスなLayer2(注:別の「層」に処理を分散させることで、信頼できる第三者抜きに処理性能をスケールさせる手法)の理想はすばらしいが、すぐには完成しない。そこで現実解となるのが『自分たちのチェーンを立てる』やり方だ」(近藤氏)
Ethereumでよく使われるクライアントソフト「Geth」を使い、合意形成アルゴリズムとして中央制御型のPoA(Proof of Authority)を用いて独自ブロックチェーンを立ち上げる——このやり方は「多くのプロジェクトで実績がある」と近藤氏は言います。Gethはオープンソースソフトウェアのプロジェクトとして規模が大きく、独自拡張を施したクライアントソフトよりも信頼できると近藤氏は言います。処理性能も毎秒1000トランザクション以上は出せるといいます。
ただし、Ethereum互換の自前ブロックチェーンをきちんと運用管理することは簡単ではありません。「Gethをプロダクションレベルで運用することは難しい。それにバージョンアップへの対応など、運用のために発生する作業も多い。企業はアプリケーションを運用したいので、こうした作業は誰かにやってほしいと思っている」。
この問題への解決策が、同社が提供するサービス「G.U.Blockchain Cloud」ということになります。
「私たちは、自前のブロックチェーンを『オウンドチェーン』と呼んでいる」と近藤氏はいいます。オウンドチェーンの使い道の1つは、バイナンススマートチェーン(BSC)のような、所有者がいる(分権化されていない)が公開された(パブリックな)ブロックチェーンです。
そして、インターネットが普及してもイントラネット(閉域のネットワーク)がたくさん存在するように、ブロックチェーンが普及すればするだけ「オウンドチェーン」の需要も増えると近藤氏は見ています。
リーガル面からもエンタープライズ用途にはオウンドチェーンが必要
オウンドチェーンが必要となる理由の1つはスケーラビリティ問題ですが、もう1つの大きな問題はリーガル(法律)です。
「誰でもノードを立てられる世界観では、責任を取る人がいない。エンタープライズ領域で使うには責任の所在が明らかである必要がある」と近藤氏は言います。自分たちで運用管理するオウンドチェーンであれば、クラウド上の情報システムと同様に責任の所在が明確になります。
データ管理主体や、データの著作権が問題となる場合もあります。GDPR(EU一般データ保護規則)を守る必要がある場合に、誰でもノードを立てることができ、すべてのデータが公開されるパブリックブロックチェーンでは「リーガル面の要請に対応できない」と近藤氏は指摘します。「例えばEU圏にだけサーバーを置くべき場合、パブリックブロックチェーンではコントロールできない。どの国にデータを置いたサーバーがあるかをコントロールできない」と言います。
NFT関連ビジネスでも、誰でもノードを建てられるパブリックブロックチェーン(同社はこれを「Open Node型パブリックチェーン」と呼んでいます)を使うべき場合と、著作権などを考慮してデータの置き場所を考慮すべき場合とで、違いが出てきます。
G.U.Technologiesが提供するプロダクト/サービス、そしてコンサルティングにより、どのようなシステムが作られているのでしょうか。
その1つの事例が「Japan Open Chain」です。これはEthereumクライアントとして実績があるGethを使い、ノードのすべてを日本国内で運用することで、技術的にも法的にも安心して使えることを目指したパブリックブロックチェーンです。共同運営企業として、電通、みんなの銀行、ピクシブ、京都芸術大学、コーギアの各社が参加します。
そして名前はまだ出せないものの、海外企業も含めて多くの引き合いがあると言います。「サプライチェーンのトレーサビリティ向上や、複数の会社の監査性の向上などが1つのユースケース。それにポイントシステムも有力なユースケース」と近藤氏は話します。
G.U.Technologiesが提供するサービスは、最も有力なブロックチェーンでありスマートコントラクトプラットフォームであるEthereumを活用する企業向けソリューションのインフラ構築から、事業へのコンサルティングまで含んでいます。2021年にNFTは一大ムーブメントになりましたが、今後もWeb3領域では新しい試み、挑戦が続々と出てくるでしょう。近藤氏は、G.U.Technologiesがこうした新しい領域で挑戦する企業の心強いパートナーになることを目指していると言います。
そして、同社は法人ユーザーだけでなく、個人ユーザーも視野に入れています。近藤氏は次のように語ります。
「今後はWeb3に興味がある個人も、しっかりと支援していきたい。実は、Japan Open Chainを公開したところ、予想に反して参加希望の個人の申込みが殺到している。Web3の世界に興味がある個人も現状には困っており、個人向けのニーズがたくさんあることに気付かされた」
「Ethererumの世界は個人・法人問わず世界中の数多くの素晴らしいEthererumコミュニティが作り出したもので、彼らには尊敬と感謝しかない。ただし、その一方でEthererumを社会実装していく上ではまだまだ努力が必要。この領域で我々はコミュニティに貢献できると考えている」
実際、同社がGethでノードを運営しPoAを検証する過程で見つかった不具合などは「逐次コミュニティに伝え、修正してもらったりもしている」といいます。このように、Ethereumオープンソースコミュニティに貢献する姿勢を近藤氏は強調します。
最後に、近藤氏は次のように力強く話してくれました。
「Ethereumの素晴らしい技術を誰でも簡単に利用できる世界を作り出すことができれば、誰もがより自由で平和に暮らせる、全く新しい革新的な社会が出現すると信じている」
Editorial Team / 編集部