ウェブページのアーカイブを記録するサービスとして長く愛されている「ウェブ魚拓」をご存じでしょうか。ネット上のあるページが、「そのURLで、その日時に公開されていた」ことを証拠として残すためのサービスです。
ネットの(炎上の)歴史とともにじわじわとユーザー数を伸ばしてきたというウェブ魚拓は、今年でオープンから17周年。創業者の新沼大樹さんに、長年の運営経験から出てきた哲学や、新沼さんのメディア観・スタートアップ観について聞きました。(取材場所は愛知県内にある、新沼さんの奥さんのご実家が経営されているレストラン)
ーー前回、新沼さんにお話をお伺いしたときはちょうど魚拓が10周年を迎えたタイミングでした。あれから7年、何かアップデートはありましたか?
新沼さん:細かいアップデートはしていますけれど、基本的にはサービスの内容を変えないようにしています。バックエンド側で、ユーザーが気がつかないところは入れ替わっています。
たとえばバックエンドは基本的にはクラウドに移しているので、余程の破局的な災害がない限りデータは飛ばないだろう、と思います。
利用者も使われ方も変わらず、やっぱりクラシックな使われ方をされています。昔から、たとえば「論文を全部保存したい」というマニアックな要望はあったんですけれど、そういった要望は、まあ今でもちょくちょく来ています。
ーーそもそもウェブ魚拓というサービスは、どう使うのが一般的なんですか。
新沼さん:本当にいろいろです。ものすごく長いロングテール。炎上じゃなくても、「昔の情報を見たいと思っていたときに、魚拓のURLが貼ってありました」というところから来る人がすごく多いです。
ただ、やっぱり炎上のときは、アクセスがものすごく増えますけどね。
ーーここ最近で記憶に残っている事件はありますか。アクセスが多かったものは。
新沼さん:知床の事故ですね。知床遊覧船の社長と著名なコンサルタントの関わりについて触れたウェブメディアの記事が消えたんですけど、あれが魚拓に残っているということで、リンクがたくさん貼られたみたいです。直近だとあの事件が目立っていますね。
ーーメディアの記事が消えると、「元データを魚拓で見たい」というニーズが出てくるわけですね。最近ウェブ媒体の閉鎖が続いていて、そこの記事が見れなくなることが起きています。そういったときは魚拓で見る人が増えるものなのでしょうか。
新沼さん:間違いなくあります。やっぱり、そういうメディアの魚拓には定期的にアクセスがあります。
特に閉じた直後のメディアはかなり多いです。僕のところにも「(あのニュースサイトを)丸ごと保存できないか」とか問い合わせがあったりして、そういう需要はあるようです。一応、それは技術的には可能なんです。
ただし、そうなると魚拓ではない、何か別なものといいますか、もっと便利なものをつくりたいですよね。たとえばサイト丸ごとページのスクリーンショットを撮ることができて、かなり自由なライセンスで使えるオープンソースソフトウェアがあるんです。
ーーそういうソフトウェアがあるんですね。
新沼さん:そうです。国立国会図書館はそれを使ってデジタルメディアをアーカイブしています。そこで使っているソフトウェアも全部載せて詳しく紹介してくれてますが、あれを使うとサイト丸ごときれいに撮れるんです。
魚拓の場合、ヘッダーの画像等も毎回撮るので、容量とかも莫大な量になってしまうじゃないですか。なので、サイト丸ごとのスクリーンショットを手軽に撮れる機能もいいな、と思ったりします。
ウェブメディアだって終わるんです。どんなサイトも絶対に終わります。だから実はアーカイブサービスがとらわれている権利関係を回避しながらバックアップを撮るための構想をずっと前から持っていました。
つまり、ピアツーピアでバックアップを共有する形で、協力しているユーザーのストレージを借りて全体保存をして、いつでもダウンロードできるようにできないか、とか。そういったことを考えていました。
流石に壮大すぎて手を付けていなかったのですが、今ならできるのかもしれないなと、ちょっと思いました。
ーー新沼さんは魚拓の運営者として、おそらく「保存すること」について、すごくこだわりを持っていますよね。
新沼さん:そうですね。誰もが消せないデータとして、協力者のストレージを少しずつ保存して、内容を証明できるようにしていく。それって本当の情報の自由ですよね。サイトの閉鎖が続くと、もしかしたら、どこかでそんな構想が出てくるかもしれません。
ーー権利の問題がありますし、更新しないサイトを持っておくといろんなリスクがメディア運営側には残りますよね。
新沼さん:そうなんです。特に大きいサイトを運営していると、仮に完全な静的ページにしてセキュリティリスクを排除できたとしても、やっぱり少なからず来るクレームが一番コスト的に怖いんです。いうなれば、更新が止まったあともサイトを維持するって、ただの善意じゃないですか。それでもクレームへの対応は続けなければならないなら、「閉じようかな」となってしまいますよね。しかたないことですが、もったいないと思います。
だから僕も大事な情報ほど魚拓に残しています。開発で参考にした技術情報とか、閲覧した技術サイトとか、参照したものを撮っておくと、あとから「なんで自分はこの開発にこの技術を使ったんだろう?」と、見返すことができるんです。
ーーそれはメモみたいなものとして。
新沼さん:そうです。個人の技術ブログだって意外とすぐ消えることはあります。何となくやめた、とかも普通にありますからね。
ウェブは“生もの”だと思います。基本的には消えるものなんです。
みなさんどこかで、「ここまで大きいものは消えないだろう」って思っていますが、そういうことではないんです。あなたがいま見ているウェブページは“消えるもの”ですよ、として接するべきなんだと思います。
—次回に続く
後編は「筋トレが好きだから、ずっと無借金経営なんです」と語る新沼さん。ウェブ魚拓の創業者はスタートアップ業界をどう見ているのか。お楽しみに。
後編記事:「筋トレが好きだから、ずっと無借金経営なんです」ウェブ魚拓の創業者、スタートアップを語る
Contributing Writer @ Coral Capital