テック関連投資が低迷する中、AI(人工知能)が希望の光として注目を集めています。「ChatGPT」や「DALL·E 2」などの革新的なAIプロダクトの開発に成功しているOpenAIについては、このブログをご覧の皆さまであればご存じかと思います。すでにMiscrosoft社はOpenAIとのパートナー提携に真っ先に飛びつき、自社製品への導入などを進めています。今後GoogleやFacebook、Amazon、Apple、Baiduなど他の巨大AI企業たちからもさらなるAIの進歩が披露されるのも時間の問題でしょう。これらの巨大企業は膨大なデータや巨大なバランスシート、豊富な人材、流通チャネルなど、AI開発に明らかに有利な強みを持っているのです。
非常に悔やまれるのが、このAI革命の競争に日本のプレイヤーが加わっていない点です。しかもスケールやデータ量、その膨大なデータに対する計算処理能力が競争力を分ける要素となっているとすれば、今後もおそらく既存の巨大企業にとって圧倒的に有利な状況が続くと考えられます(Microsoftとタッグを組んでいるOpenAIについても同様です)。つまり、このAI競争も10年後にはごく少数のプレイヤーが大部分の利益を獲る可能性が高いのです。
言うまでもなく、既存の巨大AI企業に対抗できるほどの企業が日本から生まれる可能性は非常に低いでしょう。確かに、かつては日本が半導体市場で独占的なシェアを誇り、1980年代には世界全体の生産量の50%以上を日本が占めていました。今でも半導体の一部の分野では世界トップレベルです。しかしソフトウェア革命の波に乗り切れなかった結果、その後も世界で戦い続けられるような国産のリーディングカンパニーを生み出すチャンスを逃してしまったのです。また、日本に限らず英語圏以外の全ての国に言えることですが、インターネットで使われている言語の50%以上が英語であるという点が障壁になる可能性もあります。私はAIの専門家ではありませんが、この言語の違いがAIモデルの構築に何らかの影響を及ぼす可能性は十分に考えられます。
それでは、どうすれば日本も今後予想されるAIの波から恩恵を受けられるでしょうか。1つの方法は、やはり持ち前の「強み」を活かすことです。半導体製造の主要国の1つとして、AIを動かすための半導体チップの需要が今後急拡大することによる恩恵がまず予想されます。半導体チップ製造装置は実際、すでに日本の2番目に大きい輸出品目です。
また、台湾と比較すると日本のほうが地政学的に有利な条件が揃っているという点も活かせます。台湾の半導体メーカーTSMCが工場の新設地として熊本を選んだのも、おそらく中国リスクを考慮した上での判断でしょう。これから工場の稼働に向けて台湾から約300人のエンジニアが熊本に出向し、日本の技術者にも技術研修が行われる予定です。ソニーや東京エレクトロンの工場も実はすぐ近くにあるので、まるで九州の山々に新たな「シリコンバレー」が誕生したようです。
日本のスタートアップもこのAIの波に乗るチャンスがあります。半導体そのものだけでなく、AIプロダクトの開発に関わるその他の製造や自動化、高性能部品などの周辺分野でも新たな機会が期待できます。日本にはそれらの関連分野の技術者が揃っていて、さらに国内の提携先やインフラの面でも世界的に競争力の高いプレイヤーを多く輩出できるポテンシャルがあります。
一方で、ソフトウェアレイヤーで考えると「AIの導入によるプロダクト強化」というテック企業なら無視できないポテンシャルがあります。つまり、AIインフラの開発で活躍できる可能性は薄くても、アプリケーションレイヤーでは何千億円にも相当する市場機会が今後解放される可能性があるということです。特にSaaS型ソリューションならすでにデータの蓄積や、顧客のワークフローに組み込まれているという強みがあるため、AIの導入により飛躍的に機能を向上をさせることが可能でしょう。分野で言えば会計や法務系ソフトウェアが恩恵を受けやすいでしょうが、それ以外のワークフローやカスタマーサービスでも様々な活用が考えられます。日本のプロダクト担当リーダーの皆様も、もしまだでしたらぜひ今の段階からAIツールを試したり、プロダクト強化に向けた活用方法などについて研究してみることをお勧めします。
また、AIの副次的な効果として、日本のスタートアップにとって海外進出の妨げとなっている「言葉の壁」が取り払われる可能性についても個人的に注目しています。実際、「DeepL」はすでにもはや恐ろしいほど自然に日本語を翻訳することができます。これまでは英語がビジネスの標準語である時点で、英語圏のスタートアップにとって最初から有利な状況でしたが、AIの進歩によりその差も今ほど顕著ではなくなるかもしれません。
Generative AIのポテンシャルには「ハイプ」とも言える過剰な期待も確かに高まっていますが、その多くは十分に裏付けのあるものだと考えています。AI革命はすぐそこまで来ていて、日本のスタートアップも様々な形でその恩恵を享受できる可能性があるのです。もしAI関連の事業の立ち上げを検討されているスタートアップの起業家がいらっしゃいましたら、ぜひCoralまでご連絡ください。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital