オンライン決済を手がける「Stripe」創業者のジョン・コリソン(John Collison)氏に、Coral Capital創業パートナー兼CEOのJames Rineyがインタビューしました。「スタートアップのキャリア論」をテーマにしたインタビューは動画で収録し、今年2月に開催したスタートアップキャリアイベント「Startup Aquarium」の会場で配信しました。今回はそのインタビューの内容を記事でお届けします。
James:こんにちは、ジョンさん。Startup Aquariumへようこそ。あなたはお酒を買える年齢になる前からスタートアップに携わっていたそうですね。そんなジョンさんにとって、スタートアップとは何ですか?
John:スタートアップの世界からしばらく離れていましたが、スタートアップに挑戦する人というのは世の中の仕組みに目を向けて、「もっとうまい方法があるはずだ」と言える人たちだと思います。
そして一般的に、スタートアップははるかに大きな企業や、時には凝り固まった考えに立ち向かい、既存のやり方を変えようとする存在です。だからこそ、とてもエキサイティングです。不利な条件の中で戦っているわけですから、過去、つまりこの10〜15年で、多くの人がこのようなスタートアップの精神をあらゆる産業に持ち込みました。
多くの人はスタートアップとテクノロジーを関連づけて考えます。つまりGoogleやFacebookのようなネット企業を連想するということです。
一方でStripeのような会社はどうかというと、私たちはインターネット決済事業に取り組んでいて、その仕組みを変えています。
SpaceXのような会社はロケットのスタートアップですよね? 彼らは今より良いロケットを作れると考えたのです。このように、既存のあり方に疑問を持つことは、どの事業領域にも応用できるものです。
James:そうですね。そうしたことを大企業ではなくスタートアップに参加することで成し遂げようと考える人たちがいます。大企業の道を歩むのとスタートアップの道を歩むのとでは、何が違うと考えていますか?
John:スタートアップと大企業をわける大きな違いのひとつは成長の速さだと思います。大企業では売上高が毎年5%、10%、15%ずつ伸びているかもしれませんが、急成長ではありません。人も製品ラインも急激に成長することはないでしょう。
一方でスタートアップは年間で50%、100%、150%も成長することがあります。売上の面だけでなく、新製品や採用や必要なものに関してもより速く変化します。
このことから、インパクトのある仕事がしたい人や裁量権を持って仕事をしたい人には多くのチャンスがあると思います。社内で求められることがどんどん変わるからです。新しい役職や仕事を任されたりします。
スタートアップでの仕事を楽しめる人たちは、新しい挑戦でストレッチすることを楽しめる人であり、毎年役職が変わることも受け入れられる人です。常に状況が変わるので、それに合わせる必要があります。
だからこその欠点は状況がカオスになるときもあることです。ストレスが多く、無秩序に感じることもあるでしょう。けれど、スタートアップの良い面は、ストレッチすることで自分が思うよりもキャリアを一歩先へ進められることです。
スタートアップはPMF前後で働き方が変わる
James:なるほど。それはステージごとにどう変わるのでしょうか? 例えば、シードステージやステージAのスタートアップに参加する場合、状況は混沌としていて毎週変化が起こるでしょう。
一方でシリーズCやシリーズDのスタートアップは速いスピードで変化していますが、物事が壊れることに伴うリスクが高くなるので、そこまで変化が速いということはないかもしれません。スタートアップのステージが変わることで、人材に求めることも変わるのでしょうか?
John:そうですね、スタートアップを分類する良い方法はプロダクトマーケットフィット(PMF)の前か後かを考えることです。スタートアップ業界でよく使われていますが、「プロダクトマーケットフィット」は、要は製品が機能している状況です。
例えばクルマを開発しているとしましょう。シャワーが付いて、ソファがあるようなクルマです。でもしばらくしたら、あまりに高すぎて誰も欲しがらないことに気づくかもしれません。
そのことが分かるまでに時間がかかってしまい、製品は失敗します。そしてこの時期のスタートアップは5人とか10人以下であることが多いでしょう。このようなチームはまだ製品の最初のバージョンを作っていて、うまくいくかどうかわからない状態です。
一方、御社の投資先であるSmartHRのような会社の製品は明らかに機能しています。SmartHRは法人が本当に必要としていて、人気となる製品を作っています。製品が機能していることは明らかです。
なので、そのスタートアップは機能する製品のニーズを見つける前なのか、後なのかによって分類できます。
まだうまくいくか分からない製品に取り組んでいる5人のスタートアップに参加することで面白い体験ができると思います。ただし、その場合は失敗するリスクも受け入れなければなりません。
最もエキサイティングな環境のひとつはPMFを見つけたスタートアップにあると私は思います。うまくいく製品を作れたけれど、まだ立ち上がったばかりで、これからスケールして事業拡大や新しい分野でのサービス提供を進め、顧客基盤を拡大させようとしている段階です。
リスクと報酬のバランスという意味ではこうしたスタートアップを選ぶのがいいと思います。投資するにも、入社するにもです。それはつまり、まだ成長の初期段階にあるスタートアップでありながらも、PMFを達成していて、製品が機能することが分かっている会社です。
PMFしているかどうかはどう判断する?
James:ベンチャーキャピタルでさえ、その製品がPMFを達成しているか分からないことがあります。VCのようにスタートアップの評価がフルタイムの仕事ではない社会人は、どのようにPMFしていると判断すればよいのでしょうか?
John:確かマーク・アンドリーセンが言ったPMFの判断方法は「見ればわかる」というものでした。それは分かりやすい判断基準ではないですが、投資家はこれを「商品が飛ぶように売れている感覚」として認識しているでしょう。顧客がどんどん製品を買い求めている状態です。そして実質的な売上もどんどん伸びている。
これと同じように外から会社を判断する場合も、その会社の製品は市場で人気を得ていて、顧客が付いているかを考えるべきです。
Stripeが資金調達をしていた際に投資家がやっていたことは、投資先の会社に連絡して「決済にどのサービスを使っていますか?」と聞くことでした。すると投資先は「Stripe」と答えるので、投資家は「どう?気に入っている?」と聞きます。そして投資先は「とても簡単に始められるし会社の決済ニーズをすべて満たしてくれる」と答えていたんですね。
つまり、Stripeはその点で合格していたということです。投資家もPMFがあると判断していたのです。そういうところで市場で本当に支持されているのかどうかを判断できます。
創業期のStripeが自社プロダクト利用者を採用したワケ
James:Stripeが初期に採用活動をしていた頃、主要な社員や採用候補者はStripeに対してデューデリジェンスのようなことを行っていたのでしょうか? 例えば、顧客からの評判を教えてくださいとか、Stripeが本当に成功するか、判断するためにしていたようなことです。
John:誰もが独自の方法でデューデリジェンスをしているでしょう。とはいえ、Stripeでは顧客から初期の社員になった人もいます。Stripeをすでに使っていたので
市場にある他の製品との違いもよく分かっていました。
当時、私たちも当然スタートアップでしたので、技術系の人材を採用するのが非常に難しかったのです。スタートアップの初期は人材獲得競争が激しいのです。中小企業から大企業まであらゆる相手と競争しなければなりませんから。
そこで私たちがやったのは、Stripeとしてミートアップを開催し、顧客に会うことでした。そしてそうしたスタートアップがうまくいかなかった場合、この人たちを雇えます。顧客だった人たちなのですでに製品のことを知ってくれています。
Stripe創業者が考える、スタートアップで活躍する人の条件
James:なるほど。では、どんな人がスタートアップで活躍できると思いますか? Stripeはもう大企業になっているので変わってしまったかもしれませんが、初期の頃は何かしらの特徴で採用候補者を絞っていたのではないでしょうか。
John:繰り返しになりますがスタートアップは急成長していて、影響力を発揮する機会は多いですが、常に変化があり社内は混乱していることもあります。だから考えるべきことは、その環境を魅力に思う人かどうかだと思います。人によっては「恐ろしい」と思うかもしれません。近寄ることもできないと。でも、ある人にとってはわくわくするような環境でしょう。
冒険家のシャクルトンが南極の探検のために出した有名な求人広告に少し似ています。新聞広告を出してクルーを募ったのです。1910年頃のことだと思います。その新聞広告には、これは危険な任務で、環境は厳しく、死ぬ可能性もある。生き残れる確率は低いけれど、戻ってこられれば素晴らしい栄光と名誉が手に入ると書いてありました。
彼は最初からどんな任務になるか期待値を設定しようとしたのではないでしょうか。そうして冒険にふさわしい人を集めようとした。これはスタートアップの状況と少し似ています。例えば、幅広い仕事がしたい人、大きな影響を与える事業に挑戦したい人、自分の仕事に裁量権を持ちたい人、物事を成し遂げたい人には向いています。そうした人が魅力を感じるのではないのでしょうか。
James:最後に、スタートアップに興味がある日本の人たちにメッセージをお願いします。
John:まだ迷っている人たちもいると思うので、気に留めておいてほしいのは、日本のスタートアップの業界にとって今が一番エキサイティングな時期ではないかということです。
世界経済や世界的な景気低迷のリスクの様子を見て心配になるかもしれません。しかし、忘れてはならないのは、日本のスタートアップエコシステムはこれまでに非常に成長してきたことです。この数年でベンチャー投資とスタートアップは10倍に増えたのです。
また、世界有数のハイテク企業の多くは景気が低迷している時期に起業しています。AmazonやGoogleは2001年のドットコムバブルの崩壊後に起業しています。なので、こうした時期に本当に面白いスタートアップが創業しているのです。ですから、おそらく今がとても良い時期で、とてもわくわくするようなタイミングだと皆様にお伝えしたいと思います。
James:景気が低迷するときは、ノイズがなくなり、次世代の企業を作ることに集中できる時期ということですよね。
John:その通りです。
James:ありがとうございました。
※この記事のもととなったアーカイブ動画はCoralのYouTubeチャンネルでご覧いただけます。
Coral CapitalのYouTubeチャンネルでは、Startup Aquariumのトークセッションやスタートアップ向け勉強会、起業家インタビューなどを配信していますので、ぜひチャンネル登録をお願いします。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital