先週、「書くことによるマネジメント」を通してリーダーとしてのスキルが大きく向上したことについて記事を書きましたが、その中で「Management Memo」という新しい取り組みをはじめたことについても話しました。Management Memoは私から社内に向けて発信する文書であり、現在の経営課題を明確にし、戦略的方向性を伝え、ファーム内の連携を高めること目的としています。最近書いたMemoの例として、Coral Capitalの「5カ年計画」を説明した25ページに及ぶ文書についても同記事で触れました。投資・スタートアップサクセス・オペレーションの各チームにわたって、今後数年間で当ファームがどのように進化していくかのビジョンをまとめたものです。
今週の記事では、この「5カ年計画」からの抜粋を実験的に公開したいと思います。私たちがどのように投資チームを強化していくかがわかる内容となっています。実を言うと、これを読んだ優秀な人材の方々がCoral Capitalの採用募集に応募してくれることをひそかに期待しています。しかしそうでなくても、少なくともCoralの内側を覗ける数少ない機会として、読者の皆様にとって興味深いコンテンツとなれば幸いです。
<抜粋開始>
「Coral Capitalの5カ年計画:投資チーム(抜粋)」
Coralにとって今後数年間における最も難しい課題の1つは、私やYoheiを超える投資チームを作ることであると考えています。しかしこれは当ファームの長期的な成功に欠かせないものであり、そのためには投資チームの増強に向けて積極的にプランニングや採用、育成に取り組む必要があります。同時に、最善の投資判断を引き出すカルチャーの醸成も不可欠です。
これ実現するためには、投資チームを強化する上で以下の3つの点を重視して取り組む必要があると考えています。
投資チームの大きさは、ジェフ・ベゾスの「ピザ2枚ルール」に収まる程度の少人数に留める
投資チームの最も重要な仕事の1つが、質の高い意思決定を行うことであることは言うまでもありません。しかし残念ながら、人間が行う意思決定にはどうしてもバイアスがつきまとうものです。集団思考やサンクコスト効果から、単なる社内政治まで、私たちには様々なバイアスが存在します。
こうしたバイアスの影響をなるべく抑えるためにも、投資チームの人数をジェフ・ベゾスの「ピザ2枚ルール」を満たす程度に留めるべきだと考えています。「ピザ2枚ルール」は、どのようなチームもピザが2枚あれば十分に足りるくらいの人数で編成するべきというルールです。具体的に言うと、投資チームの大きさは7~9人が適切であるということです。実際、質の高い意思決定を行うためにはこれくらいの人数が最適であると多くの研究が示しているため、ベゾス氏の観察眼は確かなようです。
このように投資チームの「枠」は限られているため、一人ひとりの投資のプロフェッショナルとしての資質や、メンバー同士の相性がなによりも重要になります。私たちが目指しているのは、ただ単に投資チームの人数を増やすことではなく、チーム全体としての能力を高めることなのです。つまり、一人ひとりのメンバーが高い目標を追求し続けると同時に、チームとして共に成長できるようなカルチャーの醸成に積極的に投資していく必要があります。
幅広いスキルやバックグラウンドで構成されるチームを作る
私は当初から、特定の投資分野に特化しない方針を明言してきました。これには2つの(互いに関連した)理由があります。
1つは、次の「Power Law企業」がどの分野から現れるか自明ということは、まずないからです(注:Power Law企業は「業界の総リターンの大半を生み出す上位数社のスタートアップ」の総称として社内で使っている用語です)。ある投資テーマについてどんなに深く考え抜かれたリサーチであっても、その機会を追求する優れた創業チームが現れなければ何の意味もありません。あるいは、特定の分野にばかり集中したせいで、偶然見つけた絶好の投資機会をみすみす逃してしまうという最悪のケースも考えられます。実際、Coralの1号ファンドでは、SmartHRに投資するまでは次のPower Law 企業がSaaSになるとは予想していませんでした。2号ファンドでは、核融合系のスタートアップがPower Law企業になる可能性が高まってきました。このように、これからの時代を牽引する企業がどこから現れるかを予測するのは非常に難しいため、私たちは常に「予想や準備に基づいた視点」と「柔軟に受け入れるオープンな視点」の間でバランスを図っていく必要があります。
2つ目の理由は、当面の間は主に日本国内のスタートアップ企業への投資に注力する予定だからです。必然的に、Power Law企業への投資機会の数も限られます。そして過去5年間における国内の大型イグジットを見ればわかるように、その業種やカテゴリーは年々変化しているのです。
これらを念頭に、私たちは幅広いスキルセットや経歴を備えた結束力のあるチームを作る必要があります。様々な視点や見識を融合させることで、多種多様な投資機会に対して最良の決断を下すことができるチームにならなければならないのです。
具体的には、様々な角度から多様な人材を採用するということです。国内の多くのVCではよくコンサルや金融機関経験者などを採用していますが、そうした人材だけではなく、例えば博士号取得者や事業家、起業家、エンジニア、医師などのバックグラウンドを持つ人材も候補になります。様々な人生経験やネットワークを持つ人材を採用するという意味でもあります。多様性に富んだ横断的かつ結束力のあるチームを作ることで、多くの異なる視点や情報を組み合わせて最善の意思決定を引き出せるようになるからです。
また、英語と日本語の両方に堪能であることも、投資チームのメンバーの条件として譲れない点です。新しい情報が入ってくるスピードや、国内外に今後も幅広くネットワークを展開し続けることを考えると、日本語だけではとてもついていけません。また、今後5年間は主に国内にフォーカスするとは言え、将来的にはグローバル投資もできる投資チームへと成長する必要があります。そのようなチームを作るには当然、時間もかかります。もし5年後にグローバル投資を始めるとしても、そのときまでにグローバルで戦える力をつけるためには、今から取り組み始める必要があるのです。
幅広いステージの投資に対応できるチームとして成長する
私たちは今後もシードやアーリーステージに重点を置いていきますが、それらの初期のステージだけではどうしてもPower Law企業への投資を逃してしまうことがあります。そのため、様々な業種に投資できる必要あるのと同じ理由で、幅広いステージへの対応力の強化が欠かせません。特に日本はPower Law企業の数が非常に少ないため、たとえ初期のステージでは投資を逃したとしても、その後のステージで確実に投資機会を捉えられるようになることが重要です。
幅広いステージへの対応力を鍛えるのは、市場トレンドの変化を利用した投資戦略を取るためにも必要です。例えば、2020年から2021年にかけてはレイターステージの投資ラウンドにおける評価額が高騰していたため、投資対象としての魅力が低下していました。しかし、現在では評価額が大幅に下がり、非常に有望な企業のレイターステージにも以前よりずっと低く、適正な評価額で投資できる状況になっています。つまり市場の状況に合わせて投資するステージを切り替えられるようになれば、そのとき最も合理的な投資先を選択できるようになるのです。また、レイターステージの優れた企業がどのようなものかを理解することは、投資先のアーリーステージの企業がレイターステージに到達するために何を改善すべきかを理解するのにも役立ちます。
投資チームは、起業家たちを心から尊敬する気持ちを持つ人たちであることが大前提
何よりも、投資チームのメンバー全員が起業家たちに対する深い尊敬の気持ちを持っていることが重要です。私たちが今後「ハンズオン」の投資家になる可能性はゼロであり、取締役としての役割以上に投資先の企業に干渉することはありません(取締役を務めるのも、ごく一握りの投資先に限られます)。私たちにとって、最大の「資産」は投資先の起業家たちです。そのため、各チームメンバーには単なる「資金提供者」ではなく起業家の「パートナー」として Coralらしく貢献していくことが求められます。
誤解がないように言いますが、これは投資家に対するフィデューシャリー・デューティーをないがしろにしたり、スタートアップの不正行為を容認するという意味ではありません。私たちは追加投資を含むすべての投資判断において、知的誠実さと厳格さを持って遂行しなければなりません。もし起業家が不正な運営を行っていることに気づいたら、彼らに問題を指摘し、適切に対処していく必要があります。
投資チームのアクションアイテム
今後数年間で、投資チームを「採用」と「チームメンバーの育成」の2つの方向から強化していくことが私たちの課題になります。
採用面では、次のファンドをクローズした段階で、すぐにでも新たなメンバーを1人以上採用する必要があります。上に述べたように、新たに採用されるメンバーはそれぞれスキルや関心、経歴の面でチームに新しい何かをもたらす人材であるべきです。
投資の業務経験があればプラスですが、どのポジションにおいても必須条件ではありません。それよりも、採用候補者は以下の要件を満たしていることが重要です。
- チームに独自の価値をもたらすことができる。
- 自主的に考え、独自の投資アイデアを生み出す力がある。
- Coralのカルチャーにフィットしている(特にチームベースの投資アプローチに対する適性がある)。
- 日本語・英語のバイリンガルである。
- 起業家に対する尊敬の気持ちがある。
- 優秀な起業家から好まれ、互いに尊敬し合う関係を築ける資質を備えている。
- 「エアポートテスト」をパスする人柄。
チームメンバーの育成においては、一人ひとりが卓越した投資のプロフェッショナルへと確実に成長できるように、積極的な育成の取り組みが必要です。具体的にどうするかはまだ決まっていませんが、投資チームのシニアメンバー(KenやYohei、私自身)のシャドウイング研修が人材育成の大部分を占めることになると考えています。少なくとも入社後1~2年間は、何らかの見習い期間的なプログラムを設けたほうが良いかもしれません。
チームメンバーの育成においてもう1つ欠かせないのが、強固なカルチャーを築くことです。これには「Coralらしい投資」をより明確に定義し、強調することも重要ですが、単純にオフィスでのやりとりやカジュアルな交流を通じてお互いと過ごす時間を増やすことも含まれます。
<抜粋ここまで>
実際の文書ではまだまだ続きますが、Coralが作ろうとしている投資チームの大体のイメージが伝わったかと思います。1つだけ言いそびれたことがありますが、採用に関しては、いずれ自らスタートアップを立ち上げたいと考えている人を雇うことにもまったく抵抗がありません。むしろ今いるメンバーに対しても起業を奨励していて、起業家精神の旺盛な人材を積極的に求めています。PalantirやAndurilが(当ファームのLP投資家でもある)Founders Fundからインキュベートされたように、Coral Capitalからもインキュベートできる企業があるのではないかとアイデアを巡らせているくらいです。
Coralでは専門的知識に自信がある「ギーク」や、アイデアを実現する力がある「ビルダー」、自分の頭で考える独立した思考のできる人を求めています。自分に当てはまると思った方は、ぜひこちらからご連絡ください!
Founding Partner & CEO @ Coral Capital