先週はシリコンバレーをはじめとする世界中のベンチャーキャピタリストや起業家たちが東京に集まり、独特の活気に溢れていました。特に注目されたのが、Andreessen Horowitz(a16z)が大勢を引き連れて来日し(600人規模のファームから50〜70人)、MOMENTカンファレンスを開催したことです。他にも様々なファームのイベントで東京の街が賑わっていました。こうして刺激的な雰囲気の中、数々のグローバルな交流が生まれましたが、同時にいくつかの考察すべき重要な点を残しました。
日本のスタートアップエコシステムに深く関わる者として、私にとっても今回の交流はグローバルプレイヤーとつながる絶好の機会でした。日本は外部から遮断された「バブル」の中で自己完結しているように感じられる部分もあり、ベンチャーキャピタル界ではそれが特に顕著です。そんな中でシリコンバレーをはじめとした海外の人たちと対話をすることは、窓を開けて新鮮な視点や議論を取り込む良い機会になるのです。実際に私も学ぶことが多く、彼らとのつながりを大切にしています。しかし、これもやはり対話の中で気づいたのですが、今回来日した人たちの多くは東京を「目的地」というよりも「経由地」として捉えていたようです。おそらく95%くらいの人たちは、日本のスタートアップエコシステムに投資するというよりも、資金調達や観光を主な目的としていたのではないでしょうか。
今回の来日は、単に日本に対する世界的な関心の高まりというよりも、資金調達における風向きの変化を示しています。米国のLP投資家の間では現在、VCファンドへの既存の投資を見直す動きが広まっています。それを受け、米国のVCファームが新たな資金調達先として他国を検討しはじめた結果、中東と並んで「日本」が候補先として浮上してきたのです。
日本の投資家にとって、これは難しいジレンマとなるでしょう。なぜなら外資系VCの参入により米国の優れたファンドに投資するまたとない機会が得られる一方で、それが自分たちにとって実は不利益な投資選択となる「逆選択」のリスクも考えられるからです。つまり、そもそも米国のLP投資家が消極的に捉えているファンドに対し、日本の投資家が投資すべきなのかということです。私はどちらかの立場に対しても見解を持っているわけではなく、個々のケースについて詳しく知っているわけでもありませんが、考慮すべき点だとは思います。
個人的にも複雑な気持ちです。国境を越えた交流の増加は、間違いなく日本のスタートアップエコシステムを豊かにし、よりグローバルな連携への道を開く可能性があるでしょう。一方で、これらの交流が資金調達を重視した一方通行のものであるならば、日本にとって果たして長期的な利益になるのか疑問です。
さらに状況を複雑にしているのが、日本政府が良かれと思って考案した「グローバルVCに投資し、それにより日本のスタートアップへの投資を促進する」というまるで見当違いな計画です。発表時にはX(旧ツイッター)でも大炎上しました。この戦略の問題点も、やはり「逆選択」のリスクにあります。トップVCは、どこの国の企業であろうと、とにかくトップレベルの企業に投資したいだけなのです。例えば、Sequoiaは当社の投資先であるSmartHRに投資していますが、LP投資家から資金を集めるためだからといって投資対象の質で妥協するようなことはありません。日本が優れたスタートアップを生み出すことができれば、優れたVCが投資しにくる、というのが本来の順序なのです。日本政府の資金を受け入れて本当に日本に投資するVCがいるとすれば、おそらく資金調達先の選択肢があまりないVCに限られるでしょう。
日本のスタートアップエコシステムを後押しするために政府が立ち上げた「5か年計画」は素晴らしいものですが、一方で政府がシリコンバレーの「神話」に夢を見すぎるあまり、都合よく利用されてしまうのではないかと個人的に懸念しています。この状況に、私たちは危機感を抱くべきでしょう。今後取るべきアプローチをより慎重に見極め、「海外とのつながりを作る」と同時に「日本をつくる」ことを確実に進めていく必要があります。
大局を見据えるなら、政府も日本のLP投資家も、日本のスタートアップエコシステムを育てることにまず注力するべきでしょう。グローバルジャイアントとして立ち上がる次のソニーやトヨタを育ててこそ、それにふさわしい国際的な注目や尊敬が日本に集まるというものです。単に世界のスタートアップ・コミュニティに溶け込むことを目指すのではなく、世界から尊敬や関心が必然的に集まるほど豊かなエコシステムを育てることを目標とするべきなのです。単刀直入に言うなら、日本への投資を忘れずに!
Founding Partner & CEO @ Coral Capital