Coral Capitalは、新しい産業をいち早く見つけることに誇りを持っていますが、VTuber業界に関しては完全に見逃してしまっていたことを認めざるを得ません。実は、関連するバーチャルヒューマン分野には、投資先企業Aww(世界的バーチャルインフルエンサー「imma」のクリエイター)を通じて早くから投資していました。当時、私たちはアニメ風のVTuberよりも、リアルなバーチャルインフルエンサーのほうが世界的に広く受け入れられると考えていたのです。しかし、ANYCOLOR(にじさんじ)やカバー(ホロライブ)などの企業が急成長し、日本のエンターテインメント界で一大勢力となるのを目の当たりにし、アニメ風VTuberのライブ配信の潜在力を過小評価していたことに気づかされました。幸いにも最近、弊社のポッドキャスト(英語)で国内大手VTuberプロダクション「Brave group」のCSO、下村紗介氏と対談する機会を得ました。対談では、VTuber文化の多様な側面や技術的基盤、日本のIP(知的財産)のグローバルな魅力の拡大など、多岐にわたるテーマを掘り下げました。
アニメとライブ配信の融合
2016年、「キズナアイ」のデビューをきっかけに、VTuber(バーチャルYouTuber)は爆発的に流行し始めました。彼女の登場により、VTuberは新たなエンターテインメントの形として世界的に広まったとされています。その後、2018年までにANYCOLORやカバーといった企業が参入し、強力なプロダクション体制を確立。かつてニッチなファン文化だったVTuberを、数千億円規模のビジネス市場へと押し上げました。下村氏によれば、VTuberビジネスの成長は主に3つの要素に支えられています。1つ目は、アニメ的なキャラクターやデザインへの愛。2つ目は、クリエイターとリアルタイムで交流できるライブ配信の魅力。そして3つ目が、日本に根付いたアイドル応援文化「推し活」です。さらに、モーションキャプチャーやAIなどの技術革新が加わり、日本の文化と最先端のテクノロジーが融合した新たな産業が生まれたのです。
VTuberビジネスの大きな特徴は、プロダクションが単に生身の配信者を管理するだけでなく、知的財産(IP)そのものを創り上げている点にあります。2D・3Dのキャラクターデザインはもちろん、キャラクターの設定や性格、さらには架空の世界観まで、すべてプロダクションが所有しています。そのため、グッズ展開やアニメ化、タイアッププロモーション、バーチャルライブなどを通じて、自らIPを積極的に広めることが収益化につながる仕組みになっているのです。このビジネスモデルは、K-POP大手のYGエンターテインメントなど、従来のタレント事務所と共通する部分もあります。しかし、決定的な違いは、Brave groupなどのVTuberプロダクションがバーチャルキャラクターの権利を完全に所有している点です。そのため、さまざまなチャネルで自由に収益化することが可能なのです。
今、私たちがVTuberに注目する理由
VTuberビジネスの初期の波には乗り遅れましたが、その成長の可能性は今なお非常に大きいと私たちは考えています。日本のアニメ市場は3兆円を超え、VTuberビジネスもそれに匹敵する規模へと成長する十分なポテンシャルを持っています。その成長の土台となる「活発なクリエイターエコシステム」や「アニメやJ-POP文化への世界的な需要」、「新たなファンエンゲージメント手段の拡大」といった要素もすでに揃っていると、下村氏は指摘します。 アニメはもはや一部の熱心なファンだけのものではなく、Netflixをはじめとするプラットフォームの積極投資によってメインストリームの文化へと進化しました。また、世界中のYouTuberやストリーマーが視聴者との新たなつながり方を模索し続ける中で、クリエイター経済も活発化しています。こうした流れの中、VTuberは「歌う」「ゲームをする」「チャットを返す」といった配信にとどまらず、3Dライブでパフォーマンスをしながらリアルタイムで視聴者のフィードバックをコメント欄で受け取るなど、より没入感のある体験を提供しています。ファンが夢中になるのも納得です。
加えて、日本の文化コンテンツには、世界に向けた展開の余地がまだ大きく残されています。バーチャルインフルエンサーに関しても、投資先であるAwwの「imma」を通じてそのポテンシャルの大きさを実感しています。さらに、近年の日本のアニメやアニメ風VTuberへの世界的な熱狂を見れば、これらもグローバル市場への強力な突破口となるのは明らかです。文化産業の世界進出においては、K-POPが好例です。適切な戦略があれば、国の産業がどこまで飛躍できるかを示しています。以前、弊社オフィスでの対談でも、河野太郎氏がこの点に触れていました。彼はAKB48とBTSを例に挙げ、どちらも同じくらい懸命に活動を続けてきたものの、AKB48は主に日本国内の1億2000万人という市場をターゲットにしていたのに対し、BTSは最初から70億人超の世界市場を見据えていたと指摘しました。「やっぱ結果違うよね」と河野氏が述べたように、日本のクリエイターが韓国のライバルと同等、あるいはそれ以上の成功を目指すには、国内市場の枠を超えて最初からグローバルな視点を持つことが極めて重要なのです。
世界進出、そして最先端テクノロジーの融合
下村氏は、VTuberビジネスが日本のIPを世界的に広める牽引役になり得ると見ています。海外のファンはすでにアニメ調のビジュアルに慣れ親しんでいるため、リアルタイムで反応し、2D・3Dを自在に切り替えるバーチャルキャラクターも自然に受け入れられやすい土壌があると言えるでしょう。実際に、Brave groupは海外支社を設立し、北米や欧州の現地クリエイターと協力しながら地域ごとの嗜好に合わせたVTuber事業を展開しています。そのアプローチとして、日本で成功した手法を再現するだけでなく、欧米や非日本語圏のアジアの視聴者に響くコンテンツの創出にも取り組んでいます。
また、今後はイラスト生成から24時間稼働のAI VTuberまで、人工知能の活用がさらに広がると下村氏は予測しています。 まるで未来の話のようですが、その基盤となる技術の一部はすでに整っています。 実際、AIは背景やバーチャル空間の生成、キャラクターデザインの草案作成、音声設定の調整・最適化など、さまざまな分野で活用され始めています。今後さらにVRやAR技術の進化により、オンラインのファンミーティングや臨場感あふれるVRライブなど、より没入感のあるファン体験が実現する可能性があります。
今回の学び(と今後の可能性)
下村氏との対談は、私たちが見落としていたVTuberビジネスの全貌を一気に学ぶ貴重な機会となりました。VTuberビジネスは、アニメファン文化や活発なクリエイター経済、そして多面的なIP展開が融合したもので、これらすべてがリアルタイムのファンエンゲージメントに支えられています。グッズ展開やコラボ企画といった従来のエンタメ要素も持っていますが、新たな「キャラクター」を次々と生み出し、技術革新を取り入れながら進化し続けるという点で極めてユニークなビジネスです。
VTuberに馴染みのない方は、まずは大手プロダクションのライブ配信を視聴してみることをおすすめします。クリエイターとファンがどのように交流しているかが、よくわかるはずです。VTuberの世界で特に興味深いのは、シンプルなゲーム配信から始まったものが、瞬く間に大量のファンアートやオリジナルグッズが生まれ、ライブ発表のような演出を伴う一大メディアイベントへと発展することも珍しくない点です。今後、AIがさらに成熟し、日本のエンタメ業界もこれまで以上にグローバル市場を意識するようになるでしょう。そうした流れの中で、VTuberはかつてのアニメのように、日本の文化を世界に発信する強力な架け橋となるかもしれません。
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今回ご紹介したのは、下村祐介氏との対談のほんの一部です。VTuberが日本のエンタメ業界をどのように作り変えつつあるのか、そしてなぜ次の大きな輸出産業になり得るのか、詳しくは、ぜひThe Coral Capital Podcastの全編をお聞きください。 また、私たちはSpotifyやApple Podcastsでこのような英語のポッドキャストを配信しています。まだフォローしていない方は、ぜひチェックしてみてください。今後も、日本発のテクノロジーやカルチャーの最前線を掘り下げ、スタートアップシーンに関する最新の知見や情報をお届けするため、さらに多くの時間やリソースを注いでいく予定です。この絶好の機会に、ぜひフォローをお願いします。
私たちは、Vtuberビジネスの初期の波を逃したかもしれませんが、その経験から得た学びは必ず活かしていきます。これからも、日本ならではの強みを武器にグローバルで戦うスタートアップを探し続けてまいります。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital