「静脈物流」といわれる、工場や建設現場から出る廃棄物を扱う廃棄物物流業界。日本が高度経済成長期に入り、廃棄物が大幅に増えた1960年代から市場が拡大し、業界として成立してきました。年月が経ち、後継者問題を抱える企業が増加し、企業の合併や統合が進んでいます。そのため、企業が抱える廃棄物を収集する車両の保有台数が増えました。一方、乗務員や配車担当者の数は増えてないため、業界の課題となってきているのが、非効率な配車業務です。
この課題を解決するべく、株式会社ファンファーレが開発したのが「配車頭」という、AIによって日々の配車業務を自動化するシステムです。これを使えば、配車計画を作成する時間を100分の1に減らすことも可能だといいます。ファンファーレは、近藤志人さんが2019年に創業した会社です。近藤社長は「現場への高い共感力と、高い技術力を持っているからこそ、業務の効率化が可能になる」と話します。
この記事では、2019年創業のファンファーレの事業内容、今後の展開などについて紹介します。
【情報開示】ファンファーレはCoral Capitalの出資先です。本記事はClimate Techをテーマとした4月開催の記者向け勉強会の内容をまとめたものです。
強みは「現場への高い共感力と、高い技術力」
近藤社長が2019年にファンファーレを立ち上げたのは、前職における経験が大きく影響しています。株式会社リクルートに勤めながら、さまざまな企業で副業としてITコンサルをしていました。その業務の一環で、廃棄物業界のシステム改善に携わり、「IT化が遅れていることにとても驚いた」と話します。IT化によって、業務の効率化の余地が大いにあると考えたことをきっかけに、全国の産業廃棄物業者を訪問。「業者と一緒に作業をして、業界理解を深め」(近藤社長)、起業にこぎつけました。
「現場への高い共感力と、高い技術力を持っている」(近藤社長)のがファンファーレ社員の特徴です。近藤社長は、ITのUXが専門で、ITに不慣れな業界の従事者でも使いやすいUXを提供できる強みを持ちます。「CTOにはNEC中央研究所で最適化アルゴリズムの研究者を務めた矢部顕大、営業メンバーとしては、産廃業界で、18年間の営業経験を持ち、全国300社以上の電子マニフェストWebサービス(※)の導入実績を持つ岡部がおります」(近藤社長)
(※)産業廃棄物の処理の流れを管理し、不法投棄を防ぐために電子または紙で、排出事業者が自ら確認する義務があり、これをマニフェスト制度と呼びます。
産業廃棄物業界はどんな課題を抱えているのでしょうか。近藤社長は「業務量は多い一方、労働力不足に直面している」と話します。業界に属する企業の経営上の問題は5年連続で、従業員不足が1位となっています。人的リソースが増えない中で、配車効率を上げるために重要になるのが配車担当です。「産廃の回収の乗務員に指示を出す担当者の仕事が非効率の塊」(近藤社長)。紙やホワイトボードなどを使い、配車をしているのが現状です。また、労働時間が長いため、退職率も非常に高く、人材不足に拍車をかけています。近藤社長は「労働力不足を解消しながら、労働環境も改善していきたい」と意気込みます。
7時間必要な配車表作成を3分に短縮
産廃業界のそういった課題を解決するために、ファンファーレが開発したのが、「配車頭」です。これは、産廃業界に特化した、AIを使い配車計画を自動で作成するシステムです。乗務員、コンテナ、案件などについての情報を入力すると、瞬時に計算。効率的な配車表を作成します。
例えば、1日7時間程度必要な配車表の作成業務の場合、AIを搭載した配車頭を使うとたった3分に短縮できます。「配車担当の業務ストレスが減るほか、業務負荷が7割減少。配車効率を10%上げることができます」(近藤社長)。
産廃物流業界の市場規模は、5兆2,000億円。企業数も12万社程度あり、非常に大きなマーケット。近藤社長は「中小の企業が全国に散らばっているのが市場の特徴。当社が提供するSaaSのサービスと相性がいい」と言います。
「配車効率が10%上がれば、顧客の売上も増える」と話す近藤社長。例えば、10台サービスを使っている顧客企業は、効率化によって、月の売り上げは400万円程度増えたといいます。
IT化が進んでない業界であるため、「on-going costは高い」(近藤社長)。しかし、LTV(顧客生涯価値)は大きいといいます。1回導入したら、そのシステムをずっと使ってくれる傾向があるため、on-going costや営業コストがかさむとしても、得られる利益と比べると、それほど高くはないといいます。
システム導入を支援する際に、円滑に進むかどうかは、「顧客の業務理解や共感が重要になってくる」(近藤社長)。ファンファーレには、業界向けの営業をしてきたメンバー、産廃業者の三代目後継ぎなどがいるため、「業界内部の力関係などを理解しつつ、システム導入を進めていくことができる」(近藤社長)強みがあるといいます。
適切な廃棄物処理を行う廃棄物事業者が経済的に報われるしくみづくりを目指す
産廃業界のIT化の動きは加速するのでしょうか。近藤社長は「今、追い風が吹いている」と話します。廃棄物業界の立ち上げ世代が、ちょうど引退世代となり業界再編が進んでいるからです。
一方、近藤社長は別に取り組むべき課題もあると指摘します。「不法投棄は未だ撲滅に至っていません。それを単に意識の問題だけで解決していくことは難しいと考えています。適法に事業を展開する事業者が、行政報告などの事務作業が肥大化して損をして、真面目に行わない業者が得をするようでは、悪貨が良貨を駆逐する状態を引き起こします。なので、行政報告などの廃棄物事業者のトレーサビリティーを高めていく行為が負荷をかけずに実施でき、その可視化されたデータを用いて、経済的に報われる仕組みづくりを行うことで、業界の健全な成長に貢献したいと考えています。
廃棄物処理業界において、先進的な取り組みが見られる海外では、スタートアップ企業のカバー領域が、広範囲にわたります。ソフトウェア開発にとどまらず、実際に、自ら廃棄物回収を手掛けるスタートアップも出てきています。近藤社長は「当社は、配車管理を手掛けているが、海外企業の取り組みを参考にして、事業領域を拡大していきたい」と力強く話します。
(執筆:村上)
Editorial Team / 編集部