近年成長しているVC業界ですが、それでもプレイヤーの数はまだ少なく、必然的に業界内はお互い知っている顔ばかりです。このような狭い業界なので、投資候補のスタートアップを他のVCがどう評価しているか知りたがるVCも多く、本格的に投資を検討するかどうか判断する際にそういった情報を考慮する可能性もあります。
ではどうやってその情報を入手するかというと、単純に起業家への質問を通して探りを入れるのが1つの方法です。そのため、資金調達中もしくは資金調達を考えている起業家であれば、どの質問で「探り」を入れられているか察知できるようになっておいたほうが良いでしょう。
例えば、VCから以下の3つのような質問を聞かれるかもしれません。
「これまでにどれくらい資金調達をしましたか?そのときのバリュエーションはいくらでしたか?」
過去の資金調達額やバリュエーションについてVCから聞かれることは多いと思います。それらの情報は、実はVCにとっていくつもの判断に役立ちます。
1つ目は、単純にVCの投資戦略にマッチするスタートアップであるかどうかについての判断です。そのVCが考えている投資上限額が5億円で、15~25%の出資割合を目標としている場合、60億円のバリュエーションが付けられるようなスタートアップは投資ターゲットとして適切ではないと判断されるかもしれません(たとえそれがどんなに有望なスタートアップであったとしても、です)。
また、前回の資金調達ラウンドのバリュエーションが高すぎたかどうかについても判断できます。もともとVCが想定していたバリュエーションが、前回のラウンドに比べて低いか同程度であった場合、それ以上なにか懸念事項に言及するようなこともなく投資を断られてしまうケースもあるでしょう。同じ評価額(フラットラウンド)もしくは低い評価額(ダウンラウンド)での資金調達は、スタートアップにとってむしろマイナスの効果になる上に、スタートアップや既存投資家に対して失礼ですらあると考えるからです。
それに加えて、フラットラウンドやダウンラウンドは、経営チームの持ち分を必要以上に希薄化し、将来的に起業家と社員の間でインセンティブの方向性がミスマッチしてしまう状況につながる可能性もあるのです。
「既存投資家からも、追加投資が行われる予定ですか?」
既存投資家は、そのスタートアップについて誰よりもたくさん非公開の情報を持っています。経営チームのことや、市場の動向、過去に乗り越えてきた課題や苦境などについてもよく知っていることでしょう。新しく加わる投資家の立場からすれば、このように情報面でアドバンテージを持った既存投資家が投資し続けるつもりかどうかは、特に今回のバリュエーションでの評価という点でも知っておきたいところです。追加投資が行われない場合も、その理由について知りたいと思うでしょう。ファンドの資金が尽きた、今回のラウンドの条件はメイン戦略のターゲットから外れている、すでに目標としている出資割合の上限に達しているなど、納得できる理由があれば問題ありません。
また、追加投資について確認することで、残った出資枠の中で目標としている出資割合を確保できるか判断しようとしている場合もあります。既存投資家による追加投資額があまりにも大きく、新たに投資家として加わっても十分な出資割合を確保できないなら、それ以上投資を検討する意味がないと考えるかもしれません。
「すでに他の投資家からの投資は決まっていますか?」
投資家がこの質問をするのには、いくつかの理由が考えられます。まず、単純に、その資金調達ラウンドの競争率を知るためです。他の投資家もすでに投資を検討しはじめているなら、早く決断しなければ乗り遅れてしまうかもしれません。バリュエーションを値上げされてしまう可能性もあります。また、正直に認める投資家はほとんどいないと思いますが、この質問は業界内のいわゆる「優秀な投資家」がそのスタートアップへの投資を本格的に検討しているかどうかを知るためでもあります。VC業界には、投資の将来性を見極めるスキルが高いことで周りから一目置かれている投資家が何人か存在します。そういう意味で、起業家としては、投資家にアプローチする際には相手の業界内での影響力についても十分に知っておくべきでしょう。ブランド力や信用力が高い投資家から資金を調達できれば、それが呼び水となってさらに多くの資金を集められるからです。
リードインベスターではないから、というのもこの質問をする理由の1つです。フォロー投資家であれば、誰がどのような条件でラウンドをリードすることに決まったのか知っておきたいものです。
ベンチャーキャピタルの世界は一見わかりにくい面もあり、起業家デビューしたばかりで資金調達もまだ数回しか経験していない起業家なら、なおさらそう感じるかと思います。上に述べたような「探り」の質問の多くも、本題から外れていて、事業にもあまり関係がなさそうなので不思議に思うかもしれません。しかし、実際はどれも資金調達の展開に関わってくるので、本当の意図を理解しておくことが重要です。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital