米国のトップティアVCの新規投資先をまとめて手短にご紹介する連載。今回はSequoia Capitalの11月の投資先から3社のクリプト系スタートアップを紹介します。
ちなみに同じ11月にSequoiaはマイクロサービス運用支援のCortexやデータ基盤の運用プラットフォームのElementlといったソフトウェア開発系のほか、ヘルステックのMedallionにも出資しています。
HTTPにおけるSSL/TSLのようなレイヤー開発でプライバシー確保
Sequoia Capitalが11月に出資したクリプト系スタートアップの1社は「Iron Fish」です。シリーズAで$27.6M(約31億円)の調達ラウンドには、クリプト系ファンドを運用するa16zも投資家として参加しています。
Iron Fishはブロックチェーン上のトランザクションに匿名性を持たせて、プライバシーのある取引を可能にする技術を開発しています。BitcoinやEthereumなどパブリックなブロックチェーンは誰もがチェーン上のデータを見ることで、どのアカウントからどのアカウントへ、どれだけの価値が転送されたかを追跡することができます。アカウントの所有者が誰かということまでは分かりませんが、匿名性は限定的です。
インターネットの登場当初も似た状況でしたが、それを変えたのはHTTP通信におけるSSL(後にTSLとも)でした。今ではブラウザ上に示される鍵アイコンによって、通信経路の途中で誰にも盗聴されていないことが分かる仕組みになっています。今となっては驚きですが、最初にECサイトが登場したころは、クレジットカード番号を送信すると盗聴される危険もありました。
これと同様にブロックチェーンのトランザクションにも匿名性をもたせたものを作れば、全く新しいイノベーションが起こる、というのがIron Fishの主張です。
匿名性のやり取りができる暗号通貨として、これまでにもMoneroやZcashなどがありました。Iron FishはZcash同様にゼロ知識証明と呼ばれる暗号学のアルゴリズムを使っています。当初は独自のブロックチェーンで提供していますが、既存のBitcoinやEthereumに対しても利用可能にしていくとしています。
Ethereumのスケーラビリティーをレイヤー2で解決するStarkWare
既存のブロックチェーンの課題を解決するという意味では上に紹介したIron Fishとも似ていますが、StarkWareはEthereumのスケーラビリティーの課題を解決する技術を開発するイスラエルのスタートアップです。11月にシリーズCで$173M(約197億円)をSequoiaやFounders Fundなどから調達しています。バリュエーションは$2B(約2,270億円)と前回6月の調達ラウンドから約4倍にもなっていて、投資家や業界の期待感がうかがえます。
BitcoinやEthereumはグローバルに単一のチェーンが存在するパブリックなブロックチェーンですが、価値保存というゴールドのような利用目的をのぞくと、スケーラビリティーに課題があります。何億人もが日々使うアプリケーションを載せるには遅すぎて使い物になりません。この課題を解決するための技術やアイデアは、過去数年でいくつか登場しています。2017年創業のStarkWareが開発する「ZK-Rollup」と呼ばれる技術も、その1つ。Ethereumのブロックチェーンと異なるレイヤー、通称「レイヤー2」と呼ばれる形で稼働することでブロックチェーンのセキュリティーを保ったまま、スケーラビリティーの心配をすることなくdApps(分散アプリケーション)を動かせる、としています。
NFTやトークンでブラウザゲームが復活!?
Sequoia Capitalが11月に出資したクリプト系スタートアップとして紹介する3社目は、マイアミ拠点のゲーム開発スタートアップ「Faraway」です。シリーズAで$29M(約33億円)を調達しました。
一般に、ブロックチェーン上のトークンはプログラマブルであることが大きな特徴です。これまで人類が使ってきた貨幣やデジタルマネーと異なり、トークンの振る舞いをソフトウェアで定義できます。その特徴から中央集権的に采配や管理をしなくても、参加者間のトークンのやり取りは、事前に設計されたインセンティブに応じて行われることになります。少なくとも理屈の上ではそうです。DeFiなど分散型のアプリやコミュニティーの誕生が期待されているのも、この文脈です。
こうした特徴を生かして、ブラウザゲームという大手ゲーム開発会社があまり見向きもしなくなった領域で創業したのがFarawayです。PCネイティブやモバイルネイティブで動くゲームに比べると、ブラウザの表現力は限定的。いまや何十億円もの予算をかけて映画タイトルのように作り込むことが増えたゲームスタジオからすれば、ブラウザ向けに作るというのは経済合理性がありません。
Farawayは最近注目されているブロックチェーン「Solana」上のNFTやトークンによるインセンティブ設計により以下のようなブラウザゲームを作っています。
最初のフラッグシップとなるゲーム作品「Mini Royale Nations」のホワイトペーパーを見ると、トークンの振る舞いやNFTの発行タイミング、ゲームコアの哲学などが書かれています。Farawayの狙いは小さく立ち上げて、参加するプレイヤーたちが自律的にコミュニティーを形成することで大きくなっていく、そんなUGCっぽいゲーム市場の立ち上げです。
かつてクリプトの世界では、もっともらしいホワイトペーパーを見せ球にして詐欺的に資金を集めただけのプロジェクトが多かったことをご記憶の方も多いでしょう。Solanaも含めて米国トップティアのVCがどんどん資金を投下するこうしたスタートアップから、いよいよ市場価値のある何かが出てくるのか、どんな新領域が生まれるのか、興味深いところです。
Partner @ Coral Capital