本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」の投稿、「Seed Rounds At $100mm Post Money」を翻訳したものです。
Fred Wilson氏による過去の翻訳記事の一覧は、こちら。
シードラウンドで、ポストマネー評価額1億ドルを受け資金調達をする会社が相次いでいます。いくつかの理由で私はこの状況を懸念しています。
シードステージの会社には良いチームと良いアイデアはありますが、プロダクトマーケットフィットはしていないし、市場参入の方法も確立していません。持続可能なビジネスであるかまだわからない状態です。
こうした投資の失敗率は非常に高くなっています。私の経験から言うと、シードステージ投資の約半数は完全に失敗し、投資家のお金も創業チームのお金もすべて吹き飛びます。
また、シードラウンドからイグジットまでに株式はかなり希薄化してしまいます。経験上、シード投資家の持つ株式はシードラウンドからイグジットまでにその3分の2が希薄化します。
アーリーステージ投資のリターンはベキ分布になりますが、シード投資の場合も同じでしょう。
時差ぼけのせいで午前3時半に起きたこともあり、これが成立するのか計算してみました。実際の計算を見たい人はこちらのGoogleシートをご参照ください。
次のような事例を想定します。
ファンド規模 | 1億ドル |
投資件数 | 100件 |
ポストマネー評価額 | 1億ドル |
投資額 | 100万ドル |
オーナーシップ | 1% |
シードラウンドからイグジットまでの平均的な希薄化の割合 | 66.67% |
最優良投資先の最終価値 | 100億ドル |
乗数(ベキ分布の指標) | 0.75 |
リターンのベキ分布:
この想定で計算すると、1億ドルのシードファンドで、すべて1億ドルのポストマネー評価額で投資している場合、十分なリターンは得られません。それにこれは手数料とキャリー分を差し引く前の総額の値です。
イグジット時のファンドの価値 | 1億3333万323ドル |
ファンドリターン | 1.33 |
とはいえ、いくつか重要な条件が違えば話は変わります。
100件の投資先のうち、最も優良な投資先の最終的な価値が1,000億ドルになると想定するなら、計算は大きく異なります。リターンは1.3倍ではなく13倍になります(手数料とキャリー分の差引き前)。
またシードラウンドからイグジットまでの株式の希薄化の割合も重要です。シードからイグジットまでの希薄化が50%で、100件の投資先のうち最も優良な会社の最終的な価値が100億ドルになると想定するならファンドリターンは1.3倍(2/3希薄化の場合)の代わりに2倍(手数料とキャリーの差引き前)になります。
1,000億ドル以上の時価総額のある会社は世界に数百社しかなく、そのうち過去30年でベンチャーキャピタルの投資先だったのは4分の1程度です。
なので、あり得ないわけではないですが、確率はとても低いでしょう。約20年間、業界でも最も高いパフォーマンスを誇るVCファンドをいくつか運営してきましたが、USVでも1,000億ドルを超える時価総額になった投資先はありません。これはあまりに高いハードルで、投資先への期待値として高すぎます。
シードラウンドで1億ドルの評価額を受け資金調達する会社は増えていますが、投資家は何を期待しているのか考えるべきでしょう。投資先が1,000億ドル規模の時価総額になること? そうは思えません。希薄化を少なくする?これはあり得ますね。ベキ分布が変わる? 期待するだけ無駄でしょう。
彼らは次のラウンドでどこかがもっと高い額を出すというあり得ない幻想を抱いているように思います。そこで新たに投資する人も同じように幻想を見ています。どう計算しても帳尻が合わないからです。
シードラウンドでは、数千万ドルの評価額での資金調達が妥当なのではないでしょうか。ポストマネー評価額2,000万ドルで同じ計算をしてみると、ファンドリターンは 6.667倍になります(手数料とキャリー分の差引き前)。これはシードファンドにとって十分な成果で、手数料とキャリー分を差し引いても、LP投資家に4倍ちょっとのリターンがあるでしょう。もし投資先100件のうち1件が100億ドル規模に成長すると想定しているなら、シードラウンドでポストマネー評価額2,000万ドルで出資するのは理に適っています。
VC業界においてイグジット時の総額はこの10年間で飛躍的に高まり、そのため投資する金額も増えました。それはわかります。しかし、この10年間でシードからイグジットまでの希薄化の割合とアーリーステージの投資先の成果がベキ分布になる現象については大きな変化はありません。
アーリーステージ投資における失敗率は非常に高く、ベキ分布の傾斜は急です。大幅な希薄化の後でも最も優良な投資案件があなたのアーリーステージファンドに十分なリターンをもたらしていないのなら何かが間違っています。
追記:この記事に付け加えるのにピッタリなツイートがあったので貼っておきます。
Some historical context on @fredwilson's latest.
Between 1/1/2010 – 12/31/2019, 166 tech startups went public.
Here's where their valuations sit now:
2 = $1T+ (TSLA/FB)
4 = $100B+ (SHOP/NOW/TEAM/SQ)
48 = $10B+
35 = <$1BMedian = $4.4B
Deploy wisely!https://t.co/6levc7OkXd
— Flaherty.eth (@josephflaherty) November 15, 2021
(Fred Wilson氏による記事の翻訳一覧はこちら)
Editorial Team / 編集部