今となっては皮肉な話ですが、実は2016年に500 Startupsと協力して1号ファンドを立ち上げた時点では、個人的にアクセラレーター運営には反対でした。出資条件や募集期間を固定することによって、ポートフォリオが偏るリスクがあると考えたからです。そもそもスタートアップによってそれぞれ状況も違えば、必要とする資金調達条件も違うものです。資金調達の準備が整うタイミングに関しても様々です。しかし従来型のアクセラレータープログラムでは、一律に決められた条件を受け入れられるスタートアップや、特定の時期にちょうど資金調達を計画しているスタートアップにのみ対象が絞られてしまう傾向があります。また、実際にプログラムを効果的に実施するとなると、かなりの労力が必要になるという問題もありました。
そのため、アクセラレーターで有名な500 Startupsのブランドを掲げてファンドを立ち上げたにもかかわらず、私たちはそれを通常のシードファンドのように運用したのです。各スタートアップの状況に合わせて条件を変え、月に1、2件ほどのペースで投資を進めました。
また、それに加えCoralでは以下のような新しいイニシアチブも立ち上げ、投資先のスタートアップのみならず日本のエコシステム全体に貢献できるよう活動してきました。
- シード投資の契約書の雛形、J-KISSを公開。ちなみにY Combinator(YC)でも同様にSAFEという契約書を公開している。
- スタートアップ向け情報発信サイトCoral Insightsの立ち上げ(YCのブログに似たメディア)。
- 投資先企業から1,300人以上が参加するオンライン・スタートアップ・コミュニティーの立ち上げ(YCのBookfaceに相当)。また、YCのように、投資先企業同士の交流を目的に毎年30以上のイベントを開催し、互いに学び、支え合える機会を提供。
- 人材採用プラットフォームCoral Careersを立ち上げ、登録者数が8,000人を突破(YCのWork at a Startupに相当)。また、国内最大のスタートアップ・キャリアフェア、Startup Aquariumも開催。
- Coral Collegeを(発表などせずに)スタート。資金調達や採用、PR、ピッチなどについてSmartHRやカケハシ、カミナシの先輩起業家から実体験に基づいた話が聞けるセミナーシリーズを提供(YCでいうところのBootcampやTuesday Talks)。
- シリーズB以降も投資先企業を支援し続けられるよう、レイターステージ向けのCoral Growthファンドの立ち上げ(YCのContinuity Fundに相当)
このように、6年間の活動を経て気づいたらCoralは実質、日本版Y Combinatorになっていたというわけです。長らくアクセラレーターに対して慎重な姿勢を取ってきましたが、ここまで来たら流れを受け入れて本格的に取り組むべきだと判断しました。
前置きが長くなりましたが、この度Coral Capital初の公式アクセラレーター「Coral Reef」を立ち上げたことをご報告します。一応「アクセラレーター」とは書きましたが、実際はY Combinatorをモデルとした典型的なアクセラレータープログラムとはいくつかの点で大きく異なります。
Coral ReefがY Combinatorとは違う点:
- Coral Reefでは出資条件や募集期間を固定しません。
- これまで通り、月に1、2件のペースで投資を行います。つまり、ご応募は随時受け付けていますので、資金調達に取り組む準備ができたタイミングでぜひお声かけください。
- 初回の投資額についても、これまで通り3,000万円〜5億円を投資します。
ただし、以前よりY Combinatorに寄せた点として、Coralのスタートアップ支援プログラムに以下の「メジャーアップグレード」を新しく加えます。
Demo Dayプログラムを始めます
年に2回、Coralでも投資先のスタートアップ向けにDemo Dayを開催し、招待制で集まった国内トップレベルの投資家にピッチする機会を設けます。また、当イベントに向けた準備として、6カ月間の資金調達支援プログラムを提供し、次の資金調達ラウンドの前にベストなポジションを確立できるよう支援します。ちなみにYCでは出資後すぐに同様のプログラムが始まりますが、CoralではDemo Dayの3カ月前からプログラムを始められるシステムになっています。Demo Dayへの参加後もプログラムはさらに3カ月間継続し、ラウンドのクローズに向けて実践的なアドバイスを含め寄り添ったサポートを提供します。要するに、次のラウンドをクローズしたいタイミングに合わせてプログラムの開始時期を選べるということです。例えば、ラウンドをクローズしたい時期が9カ月後に迫った時点で、この6カ月プログラムに参加すれば、プログラムのクライマックスとなるDemo Dayに合わせて資金調達をキックオフするといった活用も可能です。
6カ月間のプログラムで、Coralは以下のような支援を提供します。
- 次のラウンドの前に到達すべきマイルストーンの設定をサポート
- 各種ワークショップの提供(円滑な資金調達の進め方、説得力のあるストーリーの伝え方、効果的なピッチデックのデザイン、響くピッチのコツ、投資家がよく見るポイント、資金調達によくある落とし穴など)
- 著名VCや先輩起業家を招き、資金調達で考慮すべきポイントなどについてパネルディスカッションを開催
- Coralのパートナーや、メンターに自由に相談できる「オフィスアワー」
- 起業家ならではの悩みなどを共有し、互いの心の支えとなるような起業家同士の交流を支援
ちなみに、今後もCoralの「ハンズイフ」なスタンスに変わりはなく、いずれのプログラムも参加は完全に任意です。希望すればいつでも参加できるよう用意してありますが、Coralの出資を受けたからといって必ず参加しなければならないものではありません。
さらにこれだけではありません
上記プログラムに加え、Coral Family(投資先の起業家たち)が集まれる場所として新しくシェアオフィス「Coral Beach」の開設に向けて現在、準備を進めています。複数のミーティングルームやフォーンブース、フリーアドレス制のデスクスペース、イベントスペースなどを用意する予定です。特にリモートやハイブリッドな働き方のチームに適したデザインを想定しています。また、Coral Capitalのチームもこのシェアオフィスを今後の拠点とする予定ですので、ご相談などにもより身近に対応できるようになります。詳細については近いうちに発表します。
これまで日本では、いくつものアクセラレータープログラムがありましたが、生まれては消えを繰り返し、そのクオリティーもまちまちでした。現状として事業会社が運営しているプログラムが多いのですが、その場合どうしても事業会社自身が進めている「オープンイノベーション」の促進が主軸になってしまいます。また、事業会社であるがゆえに優先課題の変更や、社内ローテーションによる数年おきの担当替えなども避けられません。
大きなVCファームでアクセラレーターが立ち上げられたこともありますが、多くのファームではシード投資に重点を置いていないため、アクセラレーターに対する優先順位は必然的に低いようです。これらのアクセラレーターも確かに意義のある貢献をしているでしょう。
しかし、本当にトップクラスのプログラムを起業家に提供するためには、本腰を入れた長期的な取り組みが必要であるとCoralでは考えています。ここ何年もの間、「グローバルで通用するシード向けプログラム」が不在であることを見てきましたが、やはり日本のスタートアップエコシステムにもY Combinatorに匹敵するプログラムが必要なのです。
Coral Reefアクセラレーターは、Coralが提供する全てのイニシアチブの集大成となるプログラムです。最も有望な日本の起業家のポテンシャルを最大限引き出せるようなパッケージを目指し、これまで作り上げてきた既存の起業家支援プログラムを継承しつつ、いくつかの重要なアップグレードを加えました。「スタートアップに“Wow!”を届ける」という私たちのミッションの達成に向けた重要な施策の一歩なのです。
P.S. 当プログラムに興味を持たれましたら、ぜひこちらからご応募ください。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital