おかげさまでCoral Capitalは2023年3月5日をもちまして創立4周年を迎えました。この節目にこれまでの歩みをまとめたインフォグラフィックもこちらに用意しました。
Coral Capitalを設立したのは2019年でしたが、その歴史は2016年にシリコンバレーのベンチャーキャピタル「500 Startups(現・500 Global)」と共同で1号ファンドを立ち上げたときから始まります。当時は日本で起業しようと思っても、わずかな資金源しかなく、起業や会社づくりに関する情報はさらに少ない状況でした。世間や主流メディアからもまだ注目されていませんでした。そもそも当時は「スタートアップ」よりも「ベンチャー」と呼ばれることのほうが多かったと思います。先月主催したスタートアップ・キャリアフェアでは約2,000人の参加者が集まりましたが、これも2016年だったら200人も集まらなかったでしょう。時代は確かに変わったのです。
スタートアップ界を取り巻く環境は確実に良くなりました。日本のスタートアップエコシステムの著しい成長については、すでに多くの記事で取り上げられていますので割愛します。今回は、Coralが今後のスタートアップ界にさらにどのような変化を期待しているか、そしてその未来の実現に向けてCoral自身がどう進化していくかをご紹介したいと思います。
簡潔に言うと、スタートアップ界の「野心のスケール」に変化が現れることを私たちは期待しています。以前紹介した「ジャパニーズ・ダイナミズム」に貢献する企業が、これからの日本にはもっと必要だからです。人口減少や円安、気候変動、地政学リスクの緊迫化などをはじめとした多くの難題を抱える今、様々な変革が早急に求められています。それにはスタートアップならではスピード感も欠かせません。国内のみならず、グローバルレベルで産業を根本から変えるようなビジネスを生み出す起業家がもっと増えなければならないのです。
残念ながら、今の日本にはものごとを悲観的に考えすぎたり、どうせ何をやっても成功しないと思ったり、現状で満足してしまっている人があまりにも多いように感じます。そしてグローバルで戦えるような巨大企業が日本から生まれるわけがないと思ってしまっているのです。しかし、かつて昭和の時代にソニーやトヨタなどの大企業を生み出し、世界を変えたように、令和の今もまたグローバルリーダーを生み出す力が日本にはあるはずなのです。あと必要なのは、十分に大きな夢を描き、十分に努力し、十分に忍耐強く続けられる数人の勇気ある起業家だけです。
実際に未来を作り出す起業家と比べて、投資家として貢献できることは限られています。しかし、Coralでは起業家により充実した支援を提供するために2つのアプローチから進化してきました。
まず、私たち自身の「野心のスケール」を大きくしました。スタートアップエコシステムにおいて、Coralは基本的に「シードからアーリーステージに特化したVC」という位置付けで見られていると思います。確かにシードからアーリーステージへの投資にも注力していますが、その一方でマルチステージにも対応できるファームへと成長してきました。実際、すでに何社かのスタートアップに対して10〜20億円規模の投資を実行しています。おかげでトップの起業家に対する支援を継続できるようになった上に、より成長した段階にあるスタートアップに対しても新規で支援できるようになりました。
Coralのミッションは、日本を支える次世代の企業づくりに貢献することです。しかし、アーリーステージだけではそれが十分にできないこともあります。より進んだステージに対して投資対象を広げることは、過去に私たちがした間違いを是正する機会が得られるなど、このミッションをより確実に達成することにもつながるのです。
2つ目のアプローチは、コミュニティの大幅な強化です。従来のVCの役割は、資金調達ラウンドをリードインベスターとして取りまとめたあと、取締役の1人としてスタートアップに貢献することです。このやり方だと、現実的に考えて投資担当者1人につき5〜10社程度しか効果的に対応できません。さらに、優れたVCが必ずしもその企業にとって優れた取締役になれるわけではありません。こうした制約がある従来の方法では、Coralが協力したいと思った起業家全員を支援することが必然的に難しくなります。そのため、どうすればスタートアップにとって最も役立つ投資家になれるか、そしてどうすればその支援をより多くのスタートアップに届けられるかをCoralでは常に考えてきました。全てのスタートアップの取締役になることは不可能です。しかし、取締役という形にこだわらなければ、むしろもっと役立つなんらかのプラットフォームを用意することは可能だと考えました。
そして私たちが導き出した答えは、「コミュニティ」です。Coralがどうやってマーケティングに関する最新のベストプラクティスをスタートアップと共有しているか。どうやってスタートアップのエンジニアチームが抱える技術的な課題に対して解決策を提供しているか。どうやって2,000人もの参加者を集めて国内最大のスタートアップ・キャリアフェアを主催できているか。全てはコミュニティのおかげです。このCoralコミュニティの成功の鍵となっているのが、ネットワーク効果が非常に大きく働いている点です。100社以上のCoralの投資先(Coral Family)がコミュニティに参加していますが、実は多くのスタートアップが同じような課題を抱えています。そのため、コミュニティ内で共有したほうがCoralよりも多く、さらに最新の解決策を見つけられるのです。人材や人脈、投資家、顧客が集結したネットワークは、1つのファームができることよりも遥かに強力な支援を提供できます。
今後数年にわたって、Coralでは引き続き2つのテーマに主に注力していきます。まずは「シードやシリーズA以降のラウンドに対する投資の拡大」、そして個人のレベルを超えた支援をCoral Familyに提供するための「コミュニティのさらなる充実に向けたリソースの大幅投入」です。
本当に日本の未来を支えるような次世代の企業を作れるのは、起業家の中でもごくわずかであり、そんな起業家たちに協力できるというのは非常に光栄なことです。その数少ない恵まれた出資者として選ばれるために、Coralは今後もさらなる進化を遂げるため尽力して参ります。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital