本記事はTemma Abe氏による寄稿です。Abe氏は東京大学経済学部を卒業後に新卒で三菱商事に入社。2016年からのアクセンチュア勤務を経て、2019年からは米国西海岸に在住し、UC BerkeleyのMBAプログラムを経て、シリコンバレーで勤務しています。現地テック業界で流行のニュースレターやポッドキャストを数多く購読しており、そこから得られる情報やインサイトを日本語で発信する活動をされています。
2022年はweb3/クリプトの年でした。2020年〜2022年前半にかけて続いていた熱狂は、年の後半における衝撃的なニュースの連鎖により、停滞することになりました。個人的には、2022年初頭にweb3関連のシリーズ記事を執筆したのが遠い昔のことのように思わされるほど、この1年間でweb3/クリプトを取り巻く世界は劇的に変わったのを感じさせられます。
[web3関連シリーズ]
- Web3の「外の人」が調べまくって得た6つの視点(Part 1)[2022年1月19日]
- Web3の「外の人」が調べまくって得た6つの視点(Part 2)[2022年1月26日]
- Web3の「外の人」が調べまくって得た6つの視点(Part 3)[2022年2月2日]
- クリエイターエコノミーの期待と現実とweb3 [2022年3月23日]
「そもそもweb3の定義とは?」「どんなプレイヤーがいたのか?」などに興味がある方は、かなり盛りだくさんで長文なのですが、上記のシリーズをさらっと読んで頂くことをおすすめします。ブロックチェーンの世界に長くいらっしゃる方からもお褒めのコメントを頂けたので、それなりに価値はあるものと個人的には信じております。
この記事では上記で紹介した観点に触れながら2022年を振り返ります。なお、今もニュースを賑わせているFTX、Terra/Luna、3AC等の世間を揺るがせたクリプト企業の破綻について解説するものではなく、それらの事件を経た現時点におけるweb3/クリプトを振り返ることが趣旨です。
前回に引き続き今回も、基本的には有識者の見解を紹介するスタイルを踏襲しますが、特にweb3/クリプトを積極的にプロモーションしていた人達による見解(≒反省)を中心に取り上げます。というのは、web3/クリプト否定派の人達は当然ながら「予想通りに崩壊した」「言ってた通りネズミ講だった」という感じの反応を示しており、そこにはあまりニュースバリューがないからです。
なお、web3の定義は人によって見解が分かれるので正解はないのですが、Jack Dorseyを含めてBitcoin maximalistと呼ばれる人達が世の中にはおり、web3を忌み嫌っていることから「ビットコインはweb3には含まれない」という認識だけは明確にしておきます。
[目次]
- 時価総額・取引総額・検索回数・資金調達のいずれの指標も大きく低下した
- 投機的な性質・バイラリティはPMFを錯覚させる
- 中途半端なCentralizationが失敗しただけで、Decentralizationの夢は終わらない?
- 「テクノロジーの進化はまだ始まったばかり」というマインドセットは根強い
- 世の中の関心はGenerative AIにシフトした
- 厳しい冬を乗り越えそうな希望の星はGenerative AI?
- 最後に
- 余談:クリプトバブル崩壊の隠れた勝者はジャーナリスト
1. 時価総額・取引総額・検索回数・資金調達のいずれの指標も大きく低下した
まずはweb3関連のアクティビティを示すチャートをいくつか紹介し、急激な盛り上がりと下落があったというファクトを改めて確認します。
CoinMarketCapによると、暗号資産の全体の時価総額は、2021年初頭から急上昇し年末には約3兆ドルのピークを付けた後、2022年中は下落し続け、約1兆ドル前後に落ち着きました。
Tomasz Tunguzによると、NFTの取引総額はピーク時から97%下落したとのことです。
The Informationによると、web3の検索回数は2022年初頭をピークに、2023年には3分の1以下まで低下しつつあるとのことです。私がweb3特集記事を書いたのも2022年初めだったので、当時の盛り上がりが異常だったのが体感値としても分かります。
最後のチャートは、資金調達のアクティビティです。Crunchbaseによると、直近の四半期における資金調達は前年同期比で74%下落したとのことです($9.3B⇒$2.4B)。
2.投機的な性質・バイラリティはPMFを錯覚させる
上記のチャートの動きは、1年前に書いた記事のメッセージの一つ「仮想通貨高騰はWeb3浸透を意味しない」を良く表しているかと思います。投機的なインセンティブに基づく急上昇は、その後の急下降を伴うケースがほとんどであるということです。
web3を積極的に推進しているベンチャーキャピタリストであるUnion Square VenturesのFred WilsonとHaun VenturesのKatie Haunは、FTX破綻後に公開したブログの中で、web3のこの特徴について述べています。
トークンは、開発者やユーザーがオープンソースのプロトコルに貢献し、その経済的アップサイドに参加することを可能にし、強力な開発者コミュニティを導きます。これは、過去にソフトウェアが開発され、収益化され、統治された方法と比較すると、ポジティブなことです。
一方で、トークンはバブル発生と崩壊のサイクルにも適しており、多くの人が、web3は実体のない単なる投機的な試みであると感じているようです。
このような認識は、レバレッジ取引、投機、ポンピング、ダンピング、時には完全な詐欺行為を通じて、短期間で大金を稼ぐことを唯一の目的としてweb3の企業やプロジェクトを立ち上げた企業や個人によって促進されました。
The Generalist(web3/クリプト関連のVCやスタートアップを積極的にプロモートしてきたメディア)のMario Gabrieleも、web3/クリプトについて見誤ったことを反省する記事を書いています。
クリプトの投機的性質は、PMF(プロダクトマーケットフィット)を歪める場合がある。プロジェクトの運営者は十分に気をつけないと、怠慢な近道に陥りがちだ。あるプロジェクトが十分なサイズに成長していれば、PMFをとっくに満たしているだろうという錯覚を与える。顧客のニーズを満たすことなく、数十億ドル規模のプロジェクトになることは普通ありえないが、クリプトの世界では別だ。プロジェクトは、誰にもその有用性をアピールせずともデカコーンの地位に達する場合がある。多くのユーザーを抱えているように見えるプロジェクトも、Play To Earnゲームがそうだったように、PMFを詐称する何らかのメカニズムを使っているかもしれない。
著名テックアナリストのBenedict Evans氏は、毎年発表するテックトレンドのスライドの中で、NFTトレーディングについて批評しています。
「機能としての投機」は両方向に働き得る:アーリーアダプターに報酬を与えることで、ネットワーク効果を飛躍的に高めることができるが、それで獲得した人達はユーザーなのか投機家なのか?
Founders FundのJohn Luttigは、クリプトはVC投資のメカニズムも短期志向に歪めたと言います。
金融化技術として一攫千金を狙うクリプトの魅力は、創業者とVCの行動を変えました。
VCは通常、リターンを得るために10年以上待ちますが、これまでの常識とは異なり、web3では3年も待たずしてトークンの分配を受けられると知った投資家は、短期主義に悩まされるようになりました。VCは短いロックアップを選択し、迅速に流動性を得るためにローンチ前のトークン・セールを奨励しました。
長い目線で本当に価値のあるアプリケーションを構築するべく資金を提供する、という経済的なインセンティブはありませんでした。すでにキャッシュアウトしている人達が、なぜ開発を続けるのでしょうか。
また、こうしたクリプトの投機的性質は、参加者による「グレーなアクション」に留まらず、通常の世界であれば「完全にアウトな犯罪」の温床にもなっていたと言われています。
クリプト関連のデータ分析プラットフォームDune Analytics上で公開されている、@hildobbyが実施したEthereum上のNFTトレーディングの分析によれば、見せかけの取引を通じて価格を意図的に釣り上げるウォッシュトレーディングが蔓延していることが分かります。
- 累計で約4兆円のウォッシュトレーディングがあった
- 約43%の取引がウォッシュトレーディングだった(注:回数ベースではなく金額ベース)
3. 中途半端なCentralizationが失敗しただけで、Decentralizationの夢は終わらない?
1年前の記事では、「分散型と言いつつ、中央集権的なプレイヤーが活躍している」という観点も記しました。この点は「web3とは何なのか」という果てない議論における最重要なポイントと言っても過言ではありません。
前述のFred WilsonとKatie Haunのブログでは「昨今のweb3の失敗の多くは、中央集権型のプレイヤーに起因するものだ」と述べています。
Mt.Goxに始まり、3AC、Celsius、Alameda/FTXのような最近の失敗を含む、web3における有名なメルトダウンのほとんどは、取引、融資、投機ビジネスを運営する中央管理型の企業で起きています。
われわれがweb3の将来へ希望を見出すのは、特定の企業が管理する仕組みではなく、安全装置が組み込まれ、今のテクノロジーや金融システムに比べて高い透明性を持つソフトウェアへの期待からなのです。
2022年に有力な分散型プロトコルが吹き飛んだという事実を私は知らない。これらのプロトコルを動かすスマートコントラクトは、プログラムされたとおりに実行し、無傷で切り抜けたのです。これは、中央集権的な存在に対する分散型プロトコルの力の証であり、私にとっては、web3における2022年の大きな教訓でもあります。(参照)
前述のThe GeneralistのMario Gabrieleも、「近年のクリプトの失敗は、web3テクノロジーの発展に燃えるデベロッパーではない、不純な動機の参加者が増えたことにある」と述べています。
業界の文化的な構成が近年変化していた。クリプトのアーリーアダプターは、技術者、理想主義者、進取の気性に富む犯罪者の混合であった。しかし、資金が増えるにつれ、プロの投資家とアマチュアの投機家(この2つはいつだって見分けにくいものだ)が流入してきた。今では、これらのグループが、使命感に燃えるビルダーよりも多くなり、テクノアナーキズムというよりは、WallStreetBetsやLiar’s Pokerに近い雰囲気を作り出している。2022年の崩壊を引き起こしたといえる主要人物Do Kwon(Luna/Terra)、Sam Bankman-Fried(Alameda/FTX)、Stephen Ehrlich(Voyager)、Su Zhu(3AC)、Alex Mashinsky(Celsius)の全員が2017年にクリプトを始めたことは偶然ではない。現在のクリプトの低迷は、Brian Amstrong(Coinbase)やJesse Powell(Kraken)のような長年のクリプト信奉者が引き起こしたものではない。
上記の主張はある意味で正しいようにも聞こえます。ただ、仮にそうだとした場合、素朴な疑問点も出てきます。
- Uniswapなどの分散型取引所も以前から存在していたが、何をしていたのか?
- なぜユーザー・トランザクションは中央集権的な取引所に集中したのか?
The Informationによると、FTXが崩壊した2022年11月時点で、分散型プラットフォームはスポット取引の14%、デリバティブ取引の2%のマーケットシェアしかなかったとのことです。ユーザー獲得という観点では、中央集権型が圧倒的に勝っていたことは明白です。その主な理由としては、以下が挙げられます。
- ユーザーが諸々の処理を自分でやらなければならない分散型に対し、ユーザーはコントロールを放棄する代わりに、簡単な操作で取引が完了する中央集権型の方が好まれた
- ブロックチェーン上でのトランザクションは(一時期高騰していた)ガス代と言われる取引手数料がかかるが、中央集権型のトランザクションは、ブロックチェーン上ではなくその企業のサーバー上で行われるので、ガス代はかからない
- 中央集権型のプレイヤーは、プロモーション・クーポン・キャッシュバックなどの33マーケティング活動に資金を投入できるが、分散型では組織運営上・予算制約上の制限から、そのような活動は機動的に行いにくい
ただ、やはりもっとも根本的な理由は以下にありそうです。
- Decentralizationというweb3の「ミッション」は、多くの一般ユーザーの行動に影響を与えるものではなく、ほとんど神格化されていたFTXのSam Bankman-Friedが示すように「ブランディング」の力の方が大きかった。ミッションだけではユーザー獲得はできなかった。(参照)
4. 「テクノロジーの進化はまだ始まったばかり」というマインドセットは根強い
上記の通り、分散型プラットフォームは世の中にまだ根付いていないことは事実ですが、それはブロックチェーンによる革新が「まだ始まったばかり」だからである、というマインドセットも根強いようです。
前述のFred WilsonとKatie Haunによるブログでも、これからもweb3ソフトウェアの革新は続くと述べています。
今はweb3にとって辛い瞬間であり、しばらくはクリプトに関するネガティブな報道を頻繁に目にすることになるでしょう。しかし、このような報道は、web3の投機や取引に関するものであり、もっと重要な根本的なソフトウェアの革新は衰えることなく続いていることを忘れてはなりません。そして、それこそが、私たちがとても楽しみにしていることであり、これからも資金を提供し、支持していくことなのです。
また、web3に対して冷静な批評をしているBenedict Evans氏も、ブロックチェーンに対してはポジティブと取れるコメントを出しています。
クリプトはねずみ講だと考えていた人々は、その暴落や崩壊によって正当性を証明されたように感じているかもしれませんが、それだけでは10年続いている疑問には答えていません。もしもあなたが1年前に「ブロックチェーンは実に興味深い技術だが、実際の消費者向けアプリケーションを構築するためには、何年もかけて基本的なインフラを構築する必要がある」と考えていたとしたら、その仮説は現在も証明も否定もされていません。ここ1年で真にインパクトのあったイベントは、価格の暴落ではなく、Ethereumのマージです。
続いて、テクノロジーの進化を示す際に良く用いられるCarlota Perezのフレームワークを使って、クリプトの現状を解説するケースも見かけられます。自身のブログで頻繁にweb3に関して書いている、ベンチャーキャピタリストのTomasz Tunguzから引用します。
テクノロジーの進歩は、イノベーションへの熱狂が投機的な投資を促し、歓喜と崩壊に彩られたインストール期を経験した後に、より持続可能なビジネスが根付く展開期を迎えます。
今のweb3は、テクノロジーが存在するが、多くの新しいビジネスへの期待が現実を凌駕するインストール期に留まっています。ライフサイクルは総じて50年かかるが、web3はまだ10年経ったくらいです。
これらの主張を簡単に言い換えれば、「web3/クリプトの仮説はまだ検証中である」ということですが、そう言われると否定も肯定もできない、というのが正直なところです。確かにここから数十年の間には、ブロックチェーンが庶民の生活に浸透するような革新が起きるかもしれません。一方では、そんな先のことは誰にも分からない、という話でもあります。良く言われる「ドットコムバブルが崩壊した後に、素晴らしいインターネット企業が大量に発生した」というアナロジーも正しいのかもしれません。ただ、否定も肯定もできない仮説を持ち続けるのは正しいことなのか、という健全な疑問も呈されるべきではないでしょうか。
5. 世の中の関心はGenrrative AIにシフトした
テクノロジーの発展という文脈に則して言えば、停滞するweb3/クリプトを横目に昨年末から急激な盛り上がりを見せているのがGenerative AIです。web3が世の中を変えるにはあと数十年かかるかもしれないとすれば、すでに一般大衆・大企業・スタートアップ・政府・学校などのあらゆる面で社会に浸透しつつあるGenerative AIに注目が集まるのは当然だと言えます。
著名テックライターNewComerによると、EquityZen(未上場株式の二次流通市場を運営する会社)のデータに基づけば、昨年末から今年初めにかけて、クリプト関連銘柄への関心が急低下する一方で、AI銘柄への関心が他を圧倒して上昇していることが分かります。
また、すでに皆さんも何回も見聞きしたかもしれませんが、ChatGPTが爆速で世の中に浸透したことを示すチャートは以下です。他の有名コンシューマーテック系サービスは数年かかり、あのTikTokですら9か月かかった「1億ユーザー」のマイルストーンを2か月で達成したとのことです。
さて、これほどの急激な盛り上がりはweb3/クリプトと同様のバブルを彷彿とさせますが、Generative AIがクリプトと異なる点はなんでしょうか。
- Generative AIのユーザーは、トークンの獲得や値上がりのようなインセンティブをもらっている訳ではなく、興味関心や知的好奇心からプロダクトを試したり、アプリケーションを作ったりしている。(もちろんビジネスチャンスを狙って活動している人も多いが)
- web3/クリプトはセレブリティによるプロモーションなどでユーザー獲得していったケースも多かったが、Generative AIは文字通りPLD(Product Led Growth)で爆発的にユーザーを獲得した。
- Generative AIを利用する上では、初期費用(例:法定通貨から仮想通貨への転換)、インフラ整備(例:ウォレット)、テクニカルな知識(例:mintingとは)が不要で、インターネット上でテキストを入力する能力があれば、誰でもプロダクトを利用することができる。
- web3/クリプトはテック業界の中でも賛成派と否定派の対立が大きかったが、Generative AIについては、著作権の規制や悪用の危険性などの問題はあるものの、そのテクノロジーの有用性についてコミュニティが二極化したりしていない。
Generative AIの盛り上がりがハイプである可能性は否定できませんが、web3/クリプトの盛り上がりとは性質が異なると言えそうです。
前述のテクノロジーの進化のフレームワークに則していえば、AI開発の歴史は1960年代から50年以上の年月を経て、DALL-EやChatGPTというユーザーインターフェースに辿り着き、ようやく世間一般への浸透に成功した、という見方もできます。昔ながらのジョークとして「AI is anything that doesn’t work yet(AIとはまだ上手く機能しない開発中のテクノロジーの全てを指す)」というのもあったくらいなので、AIも長い冬の時代を乗り越えて今に至ったのかもしれません。web3/クリプトは基盤となるインフラを作るフェーズだが、AIは大量のアプリケーションを世の中で試すフェーズにあるという解釈ができるかも知れません。
また、Peter Thielによれば、クリプトとAIの究極的な違いとは「クリプトはリバタリアンで、AIはコミュニストだ」とのことです。確かにAIは世の中のあらゆるデータを一か所にかき集めて、それを基に構築されたモデルが提示するアウトプットを活用するものであり、まさに中央集権的な仕組みと合致します。ここで興味深いのは、Decentralizationでプラットフォーマーから個人にコントロールを取り戻す運動であるはずのweb3/クリプトが、大多数の個人をエンパワーメントするに至らなかったのに対して、中央集権型のAIがテクノロジーを民主化し、多くの個人の生活に役立っているという現実です。
6. 厳しい冬を乗り越えそうな希望の星はGenerative AI?
こうした厳しい冬の時代でもweb3の未来への希望となりそうなスタートアップはあるのでしょうか。1年前の記事の中では、「ゴールドラッシュで最も上手く稼いだと言われる、リーバイスのような企業に注目したい」という趣旨で、開発者用プラットフォーム、データ分析、セキュリティ、コンプライアンスなどを提供するweb3スタートアップを取り上げていました。
実際に、少し予想外の形ですが、FTXなどのクリプト企業の破綻後には、破産処理に必要となるデータを収集・分析する企業へのニーズが高まっていると、The Informationは報道していました。
倒産した企業が保有するデジタル資産をつきとめるのを支援し、政府機関が被害状況を把握するのをサポートしているデータ分析会社には、Chainalysis(直近の評価額$8.6B)のような企業が含まれ、取引所の破産手続き中にFTXの新しい経営陣と協力している。別のブロックチェーン分析企業であるElementusは、Celsiusの破産事件で債権者を支援してきた。
「長期的には、クリプト業界の成功がChainalysisの成功であると捉えています。私たちの使命は、ブロックチェーンに対する信頼を築くことであり、消費者がクリプトに安全にアクセスできるよう働きかけることです」と、Chainalysisの広報担当者は述べている。
次に、web3/クリプトはAIに世の中のリソースのパイを奪われているという見方ばかりではなく、その両者が交差する領域が有望であるという見方もあるようです。AIに特化したVCファンドConvictionのSarah Guoによると、
AIがホットなプロダクトであっても、AIに特化した投資家がクリプトに手を出すことを排除するものではない。それらが交差する可能性を想像している 。NFTマーケットプレイスが機械学習を活用してユーザーにパーソナライズされたNFTをレコメンドする事例などがある。
web3/クリプト系のコンテンツで有名になったテックライター/VCのNot Boring by Packy McCormickも、Generative AIの躍進はweb3/クリプトにとってポジティブになると捉えています。
AIへの熱狂を示すためにクリプトを否定するのは見当違いです。それは、よく言えば安っぽいエンゲージメントを誘うための煽りであり、悪く言えば、同時進行する複数の事象を捉えられない根本的な障害である。実は、AIが成功すればするほど、クリプトはより有用なものになるのです。この交差については、これまでにも多くの記事が書かれています。
さらに注目したいのは、Generative AIブームの中で時の人となっているOpenAIのSam AltmanがWorldCoinというクリプト系のスタートアップを共同創業していることです。ID(アイデンティティ)インフラの領域は、以前からクリプト界隈でも本命だと言われることはありましたが、Sam Altmanが取り組むとなると、AIによるコンテンツ・アクションが圧倒的に増加する未来のインターネットにおける人間であることの証明、というストーリーが見えます。
Worldcoinと呼ばれるその3つのミッションは、「グローバルID」「グローバル通貨」そして「独自のトークンと他のデジタル資産や従来の通貨を使った支払い・購入・送金を可能にするアプリ」を作るというもので、技術的に複雑であるのと同様に野心的ですが、そのチャンスも膨大です。
7. 最後に
2022年を通じてアメリカではweb3/クリプトブームが急速に冷え込んでいった中で、日本ではなぜか盛り上がりを見せていて少し不思議に感じていましたが、昨今では日本の有識者もweb3に対する冷静な見解を示すケースが増えている印象です。
web3/クリプトのプロであるChainanalysisのリサーチヘッドが「うん、バブルが崩壊した(Oh the bubble burst)」と明言しているように、今回のweb3/クリプトブームが終焉したことは否定しがたい事実だと思いますが、将来的にブロックチェーンや分散化が世の中の注目を集める可能性はあるかもしれません。ただし、その際にはweb3というブランディングではなくなるのではないかと、個人的には推測します。
8. 余談:クリプトバブル崩壊の隠れた勝者はジャーナリスト
Generative AIは、世の中のリソース(関心・資金・労働力)のシェアを高められたという意味で、web3の停滞で得をした代表例と言えます。その他に私が勝ち組だと思っているのが、web3をフォローしていたジャーナリストです。
- まず特筆すべきは、FTXの破綻のきっかけとなったのはCoindeskというメディアの一つの記事だったことです。その記事は、取引所のFTXとファンドのAlameda Researchのグレーな関係性について疑問を投げかけるものでした。この記事をきっかけにして投資家がFTXの財務状況に不安を感じ始め、最終的には取り付け騒ぎが起こり、破綻に至ったという経緯です。Coindeskはその名の通りクリプトに特化したメディアですが、メディアの収益の源泉である業界全体を一つの記事が揺るがしたという事実は、ジャーナリスト冥利につきるといえるのではないでしょうか。(業界人からものすごく叩かれてそうですが。。)
- 「The Big Short」や「Moneyball」などの代表作を持つベストセラー作家であるMichael Lewis氏は、FTXのSam Bankman-Friedに6か月間密着で取材をしており、彼の逮捕後も接触していたと言われています。それらの取材を基に、Michael Lewisは書籍を発行するとのことで、さらにはApple TVやAmazon Studioが制作するドラマのネタ提供として数億円レベルの交渉が進んでいるとのことです。(参照)
このように、「トークンや仮想通貨に投資」することでリターンを得るのではなく、「web3/クリプトに関する調査」を進めることで社会的・金銭的リターンを獲得する人が発生したという事実は、1年前の記事のまとめで書いた私の提案が的外れではなかったと感じる次第です。
VCなどの投資家・テック企業・新規事業担当者などにとっては、すでにWeb3は無視できない存在になっているが、その他の多くの人にとっても知的好奇心を満たしてくれる良い題材になるのではないか。一獲千金を狙ってお金を投入することだけではなく、時間を投入することによるリターンを考えても良いかもしれない。
Contributing Writer @ Coral Capital