SaaS向けカスタマーサクセス管理ツールを提供するHiCustomer株式会社が5月30日、「カスタマーサクセス白書 2023」を公開しました。SaaS導入企業の成功体験づくりを支援するカスタマーサクセスの現状をとりまとめたもので、同社が2020年から毎年出しています。
最新の白書によれば、カスタマーサクセス担当者の4割弱が、営業からの引き継ぎに不満を感じていることが判明。不十分な引き継ぎがSaaSの解約率を高めていることも浮き彫りになりました。この記事では、カスタマーサクセスの「今」がわかるデータを10個のポイントにわけて紹介します。
調査は4月18日から4月30日にかけてインターネット上で実施し、国内SaaS製品のカスタマーサクセス担当者203人から回答を集めたものです。
関連記事:日本で投資広がる「カスタマーサクセス」の今がわかる7つのデータ(カスタマーサクセス白書 2020)
関連記事:SaaS導入の障壁は「ベンダー対応」よりも「社内調整」(カスタマーサクセス白書 2022)
※情報開示:HiCustomerはCoral Capitalの出資先企業です。
1)チーム人数は「2〜5名」と「6〜10名」が半数を占める
カスタマーサクセスチームの人数では「2〜5人」と答えた企業が28.4%で最も多く、次いで「6〜10人」(25.7%)、「11〜20人」(16.9%)、「31人以上」(14.2%)の順でした。国内SaaSの市場拡大を背景に2023年は「21名以上」の割合が増え、チームの大規模化の傾向が伺えました。
2)チームの規模拡大が加速
2022年からのチーム規模の変化について尋ねたところ、67.2%が「増加した」と回答しました。昨年と比較すると増加の割合は落ち着いてきていますが、規模拡大の傾向は加速していることがわかります。
今後の拡大予定について尋ねたところ、93.3%の企業が増加見込みと回答しました。このことからHiCustomerは、「昨年までの傾向と同様、カスタマーサクセスへの投資は続く」と見ています。
3)カスタマーサクセスチームが責任を負っている指標は?
責任を負っている指標(複数選択)で最も多かったのは「売上ベースの解約率/契約更新率」で49.7%。以下は、2020年の調査から3年連続でトップだった「社数ベースの月次解約率/継続率」が46.4%、「アップセル/クロスセル」が45.4%で続きました。
また、「売上継続率(NRR)」を指標としているチームも39.9%に上り、昨年の26.5%から13.4ポイント上昇しました。
4)最も優先度の高いKPIに寄与した施策は?
過去1年間で、最も優先度の高いKPIに寄与した施策については、昨年に引き続き「オンボーディングプロセスの見直し」が25.1%でトップ。以下は「カスタマーサクセス担当が手厚く伴走するハイタッチ施策」(16.4%)、「データ分析/可視化」(15.8%)の順でした。
5)営業からカスタマーサクセスの引き継ぎ「不十分」が4割
営業からカスタマーサクセスへの引き継ぎの状況について尋ねたところ、引き継ぎが「十分」という回答は61.5%。一方で、引き継ぎに不満を持っている人も4割近くに上りました。
6)引き継ぎが不十分な理由の1位「営業担当のマインド」
引き継ぎが不十分だと感じる理由では、「営業担当のマインド」と「引き継ぎ内容の不足」がともに18.8%でトップ。次いで多かったのは「引き継ぎ情報が不正確」(15.6%)という回答でした。
「営業担当のマインド」の内訳(自由回答)では、「商品の短期受注に重きが置かれており、顧客の課題感を十分に引き出せていないまま受注している」「ただの下請けのように扱われている」といった答えが寄せられました。
「引き継ぎ内容の不足」の内訳では、「商談情報しか残っておらず、フォローに必要な情報がほぼない」「顧客の期待値、大切にしていること、などは共有できていない」といった声が挙がりました。
引き継ぎが不十分な理由についてHiCustomerは、「引き継がれる情報だけでなく、受注後のプロセスへの営業の理解が重要な要素となっている」と分析しています。
7)引き継ぎが十分な企業ほど解約率が低くなる
引き継ぎが十分に行われている企業と、そうでない企業で解約率を比較したところ、引き継ぎが十分な企業の62.5%は、解約率が2%未満であることがわかりました。一方、引き継ぎが不十分な企業で解約率が2%未満だったのは36.7%にとどまりました。
また、「解約率が15%以上」という回答で比べると、引き継ぎが十分な企業は3.1%だったのに対して、引き継ぎが不十分な企業は10%に上ったことから、HiCustomerは「引き継ぎ不足は大きな事業リスクに繋がる」としています。
8)引き継ぎが不十分だとアップセルやクロスセルの機会損失に
売上維持率(NRR)について見てみると、引き継ぎが十分な企業では「NRR100%以上」が60%と、引き継ぎが不十分な企業の1.4倍でした。
このことから、営業からカスタマーサクセスへの引き継ぎが不十分だと、解約率が高くなるだけでなく、アップセルやクロスセルなどのエクスパンションの機会損失につながることも伺えました。
9)カスタマーサクセスと営業の情報ギャップは?
「営業から必ず引き継がれる情報」と「カスタマーサクセスが引き継いでほしい情報」の差分についても調査しました。
その結果、差分が大きかった上位3項目は「提供サービスの導入を通じて実現したいことや達成したいKPI」(23.5ポイント差)、「意思決定者の定性情報」(20.8ポイント差)、「意思決定者以外のプロジェクトに関わる関係者の定性情報」(19.3ポイント差)でした。
「カスタマーサクセス白書 2023」ではこのほか、国内SaaSのメトリクスやカスタマーサクセス組織の生産性向上に寄与した施策、さらにはカスタマーサクセス担当者の年収レンジなど、カスタマーサクセスの「今」がわかる数字が明らかになっています。
白書の全文PDFは、こちらから無料でダウンロードできます。
Editorial Team / 編集部