当ブログの長年のフォロワーであれば、私がいかにたくさん「書く」かをご存知でしょう。ブログ記事に関しても、毎週書くことを目標にもう何年も取り組んできました。ときにはアイデアがどうしても閃かず、記事を書けない週もあります。しかしそんなやる気が出ない週でも、少なくとも机に向い、何かを書くようにしています。私にとって、書くことは頭の体操のようなものだからです。書くことで、必然的に自分の考えを整理し、疑問を投げかけ、最終的にはそれらをより明確な形で表現しなければならなくなります。真っ白なページを前に、頭の中にあるものをすべてあるがままに書き出し、そこから論理的にまとまった考えを構築していく過程が重要なのでしょう。セラピー効果に加え、明晰な思考をもたらす効果があります。つまり「書くプロセス」は、「考えるプロセス」でもあるのです。
しかし長年のフォロワーの皆さまなら、最近はこのアウトプットが以前ほど維持できていない点についてもお気づきかもしれません。通常の記事に代える形で、YouTube動画やPodcastインタビューの紹介やまとめだけの記事を掲載した週も時々ありました。これには事情があり、実は今年に入ってから外部ステークホルダーよりも内部ステークホルダー向けの取り組みのために考え、書く時間のほうが大幅に増えていたのです。
新しく始めた取り組みの1つが、「Management Memo」というものです。社内に向けて発信するこの文書は、現在の経営課題を明確にし、戦略的方向性を伝え、ファーム内の連携を高めることを目的としています。重要なことや複雑なことを説明したいときに随時用意するMemoに加え、四半期ごとに書くManagement Memoもあります。四半期ごとのMemoではファーム全体のOKRをまとめ、その四半期において特定の分野に注力するメンバーがいれば、理由も含めて説明します。
基本的には以下のプロセスでMemoを活用しています。
- 一つひとつの重要な意思決定について、全体像を捉えた背景の説明をなるべくしっかり書き、文書にします。その際、どのチームにとっても理解しやすい説明になっているかどうかが重要です(Coralの場合は投資・スタートアップサクセス・オペレーションの3チーム)。
- 書いたMemoは共有ドキュメントとしてファーム全体(や関係者)と共有し、ドキュメント内での質問やコメントの追加を全員に呼びかけます。
- ドキュメントについた質問やコメントに返答します。
- 共通の質問や指摘のあった点などを参考に、次回の週次チームミーティングで直接取り上げて説明するべき内容を決めます。
このプロセスは、今では私にとって非常に重要な「マネジメント・ハック」となっています。
まず、ブログを書くときと同様に、明晰に考えることが必然的に求められます。どの起業家も経験があるでしょうが、私はときどき急にアイデアが思い浮かんでは、衝動的に行動に移したくなることがあります。こういうときは、書き出してみることでしっかり考え抜くことができ、明らかにダメなアイデアを速やかに排除できます。他にも、Memoを書く際にはそれを読んだメンバーがそれぞれどう反応するか考えることが必要とされるため、リーダーとしての共感力を引き出す効果もかなり高いと実感しています。
チームメンバーが各自のペースで読めるという点も、Memoの良いところです。トピックによって、理解に必要な時間は人それぞれです。知識や経験、視点が異なる横断的なチームを管理する場合、この「ギャップ」は特に顕著なものとなるでしょう。しかしMemo形式であれば、全員がそれぞれ十分な時間をかけて内容を読み、できる範囲で理解に努め、そのあと必要に応じて質問や気になる点を直接ドキュメントに加えることができるのです。このフィードバック・ループは、Memoで述べている考えをより洗練させる効果もあります。さらに質問やコメント自体が内容の補足となり、メンバー全員が同じ理解を共有する上でも役立ちます。
また、質問やコメントをMemoの段階で早めにもらうことで、より時間をかけて取り組むべき共通の懸念事項を特定できることにも気づきました。同時に、ドキュメント内で重要度の低い質問に答え、解決しておくことで、チームミーティングで全員の時間に使わずに済むという利点もあります。
そして最後のメリットは、このプロセスのおかげで同じことを繰り返し説明する手間がかなり減ったことです。過去のManagement Memoのストックは、これまでの考えの経緯や説明の資料として、同じような質問があったときや新しいメンバーが加わったときに共有できます。また、それらの資料を今後のManagement Memoとリンクさせることで、新しいMemoを読むときに過去の説明も確認できるなど、各メンバーが内容をより理解することにも役立ちます。
このプロセスは一見面倒に見えるかもしれませんが、最終的には組織の透明性や連携、効率を大幅に高めることにつながります。会社の規模を拡大しようとしている起業家に、ぜひお勧めしたい取り組みです。
実はこの「書くことによるマネジメント」が個人的にあまりにも効果的であると実感しているため、LP投資家向けの報告においてもこのアプローチを活用しています。直近のLP投資家向け年次レターは、実に20ページ以上もの長さでした。しかし、それを書くことによって、投資家だけではなくファーム全体に対してCoral Capitalのパフォーマンスや戦略的な取り組みを以前よりずっと明確に伝えることができました。
つい最近では、Coral Capitalの 「5カ年計画」を策定する際にもこのアプローチを活用しています。今後数年間でファームがどのように進化していくかのビジョンを、25ページの文書にまとめたのです(ちなみにその大半をガラパゴス諸島でのスキューバダイビング休暇中に書きました)。私たちが「どこを目指すか」の説明はもちろんのこと、各チーム(投資・スタートアップサクセス・オペレーション)にわたってどのように計画を実行するかを説明した包括的な文書です。
この「5カ年計画」を書いたのも、上に述べた理由と同じです。一方で、この計画の構想には特に多くの時間を費やしましたが、それはCoral Capitalが抱く大きな野心の実現に必要だからです。今後の新たな方向性に向けて、ファーム全体が一丸となって結束することが何よりも重要であると感じています。私たちには、日本だけでなくアジア、ひいては世界でトップクラスのファームになるという大きな夢があるのです。
予想外に嬉しかったのが、この「5カ年計画」を書いて上記プロセスを経た後、そこにまとめられた全体的な方向性をもとに、各チームがそれをさらに掘り下げたそれぞれの「5カ年計画」を率先して作成してくれたことです。各チームの計画は、直近のオフサイトミーティングで共有され、今後数年間で各メンバーがどのように貢献できるかについても時間をかけてディスカッションしました。
オフサイトの終わりには、目標の達成に向けた明確な戦略を全員が見据え、高いモチベーションと深まった絆を確認できました。刺激的かつ心温まる1日結果となりました。
自分自身や組織をスケールアップする方法を模索している起業家や、意欲的な管理職の方には、ぜひこのアプローチをお勧めします。特に私の場合、言葉の壁に取り組む必要もあったことから、この「書くことによるマネジメント」が非常に有用であると実感しています。しかし、どの組織にも大なり小なり、なんらかの障害が存在するものです。「書くことによるマネジメント」は、それらの壁を打ち破るのに大きく貢献するでしょう。
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Founding Partner & CEO @ Coral Capital