米国の起業家や投資家と普段から交流していると、日本のスタートアップ市場との興味深い違いにしばしば気づかされます。その違いのいくつかは、起業家や投資家に期待されている役割や時間的なコミットメントの差から生まれるものです。
日本ではスタートアップのステージに関係なく、「株主ミーティング」が毎月開催されるのが一般的です。取締役や大株主だけではなく、株主である全投資家向けの集まりで、近況報告やフィードバックの共有が行われます。後に会社が成長して大株主のみの参加に変更されることもありますが、それでもまだ月ごとに開催されることが多いでしょう。
一方で、米国のシードステージ企業ではリードインベスターが取締役として開催を求めない限り、定期的な投資家向けミーティングは一般的に開催されません。起業家はそれよりも顧客とのコミュニケーションやプロダクト・マーケット・フィットの達成を重視します。投資家に対しては月次の近況報告が送られ、投資家は随時サポートを提供するという形が多いでしょう。
米国のスタートアップがシリーズAの資金調達を完了すると、状況は変わります。多くの場合、正式な取締役会が設置され、リードインベスターが通常は取締役の1人に就任します。取締役会は四半期ごとに開催されますが、日本のものと比べて目的や体制などが明確化されていて、戦略的であることが多いです。参加者が当日の建設的な対話に向けて準備できるように、スライドなどの包括的な資料も事前に配布されます。また、取締役会に参加するのは取締役やオブザーバー、議題に関係する経営幹部だけです。
まとめると、日本では全株主に対してオープンな月次の株主ミーティングが当たり前とされているのに対し、米国では参加者を限定した四半期ごとの取締役会が好まれるということです。
この違いは、効率性という点で日本のスタートアップエコシステムに広範囲な影響を及ぼしていると考えられます。頻繁かつインクルーシブすぎる株主ミーティングが、スタートアップや投資家の活動を意図せずとも締め付ける要因になっているかもしれないのです。その時間があれば、潜在顧客とのミーティングや人材採用にどれだけ起業家の時間を使えるか考えてみてください。投資家も、その時間で起業家を顧客や人材とつなげたり、他に支援する方法を考えるなど、もっと効果的に貢献できるはずです。
もうお分かりかもしれませんが、個人的には米国のアプローチを強く推奨しています。シードステージでの定例会議は、関係者全員にとって負担が大きすぎるように思えるからです。会社が成長して、より多くの株主が株主名簿に加わるようになった場合も、多くの参加者で混雑した会議室はもはや「会社の方向性についての丁寧な議論の場」ではなく「ただのプレゼン会場」になってしまうでしょう。関係者全員の時間的負担は言うまでもありません。
また、米国のシステムでは、「投資家としての役割」と「取締役としての役割」がより明確に区別されていると思います。どの投資家が会社の監視・監督を主導するべきかと言えば、それは疑う余地もなく「取締役」を務めている投資家の役割であり、最たる責任です。ちなみに、私はこれまで2社の投資先のみにおいて取締役になることを選択しています。1つは(すでに退任しましたが)SmartHRで、もう1つはカミナシです(今年、シリーズBのリードインベスターを務めた後に就任しました)。私は、取締役として効果的に貢献するためには相応の時間やリソースが必要であると考えています。それにより取締役としての責任にコミットできる投資先の数も必然的に制限されるため、慎重に選択するようにしているのです。「資金」ならもっと調達できますが、私自身の「時間」はこれ以上は調達できないからです。
今後、米国モデルのメリットをより多くの日本のスタートアップや投資家に検討していただけることを願っています。アーリーステージにおける負担を減らし、役割分担を明確化するこのアプローチを採用すれば、より集中的な成長や、より建設的な起業家と投資家の協力体制の実現が期待できるでしょう。
P.S. 個人的には、Y Combinatorのブログで紹介されているAnu Hariharanの「How to create and manage a board」が、スタートアップにおける取締役会の始めかたや運営方法をまとめたガイドとして最もおすすめです。英語の記事ですが、DeepLやGoogle翻訳などにかければ日本の読者の方も読めるはずです。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital