以前にも記事で書いたように、Coral Capitalでは投資を検討する際によく「Why Japan?」という問いについて考えます。つまりグローバルなコンテクストの中で投資を考え、今後の新たな市場機会について全体像を見据えた上で判断しているのです。さらに言えば、この問いに対する答えとなる「日本固有の強みを活かしてグローバルに競争できるビジネスに取り組むスタートアップ」への投資は、私たちが特に注力しているカテゴリーの1つでもあります。Coralではこの投資テーマを「ジャパン・アドバンテージ」と呼んでいます。SaaSのような国内市場に特化した分野にも引き続き期待していますが、市場の大きさから考えて、非常に恵まれたケースであっても数千億円規模に達するのが上限であると予想しています。ユニコーンだけでなく、さらに上のデカコーンの創出を狙うのであれば、やはりグローバル展開を目指した企業への投資にも重点を置く必要があるのです。
グローバルに戦えるソフトウェアやインターネット関連の企業を目指して起業することも素晴らしいと思いますが、それらの分野では言葉や文化の壁が残念ながら大きなハンディキャップになると私たちは考えています。そのため、Coralでは主に日本がすでに優位性を持っている分野に取り組むスタートアップに注目しています。例えば、ディープテックやバイオテクノロジー、IP、ゲームなどです。トイレテックも良いと思います。SaaSなどの分野では営業やマーケティングを中心にビジネスが成長する傾向が強く、言葉や文化の壁が課題となりますが、ディープテックやバイオテクノロジーなどの分野ではプロダクトやテクノロジーが優れてさえいれば大抵はそれだけで自ずと売れるからです。この傾向はCoralの投資先であるロボティクスのGITAIや核融合の京都フュージョニアリングでも実際に見てきました。今後もダイヤモンド半導体やバッテリー技術、診断技術への投資で同じように成果につながることを期待しています。
このような観点から、Coral Capitalでは「イノベーションを生み出すだけでなく、日本独自の強みを活かして世界的な巨大企業になれるスタートアップを見つけ、成長を支援すること」を投資テーゼの最も重要なポイントとしています。日本が優れている様々な分野こそが、スタートアップが国際的な競争を勝ち抜くための強固な基盤となるのです。
具体的に私が最近注目している分野について、いくつかご紹介したいと思います。
ロボティクス
ロボティクスにおける日本のリーダーシップは疑いようがありません。日本はロボティクスや自動化の分野で先駆的に技術発展に貢献してきた歴史があることから、同分野でスタートアップが成功するのに必要な環境が十分に整っています。ファナックや安川電機のようなリーディングカンパニーが国内にあり、日本だけで産業用ロボットの世界供給の約45%を占めるなど、同分野における日本の優位性は明らかです。また、高齢化社会により自動化がますます求められる中、その解決に向けてロボティクスを活かした新たなイノベーションが生み出される可能性も高いでしょう。文化的にも、日本は他国と比べて「人間とロボットが一緒に働く」という概念が社会的に受け入れられやすいのではないでしょうか。アメリカではロボットというと「ターミネーター」のようなディストピア的なものがイメージされやすいですが、日本人は「ドラえもん」のおかげで親しみを持たれる傾向があります。
航空宇宙とその先へ
日本は世界の航空宇宙産業において重要なポジションにあることから、航空宇宙セクターにもスタートアップにとって数多くの機会が存在します。例えば、ボーイング社の航空機に使われる部品の約40%を日本のメーカーが供給していますが、これも日本がこの分野において高度な製造能力や技術力を有している証拠です。また、日本は宇宙産業においても世界的に最も重要な国の1つです。そして今後も国としてその影響力を維持し続ける方針であることが、昨年の11月にJAXAに1兆円の基金を設けることが閣議決定されたことからもわかります。さらに世界の宇宙産業は今、「AWS革命」に似た転換期を迎えようとしています。Amazon Web Services (AWS)などがサーバーコストを大幅に下げ、ソフトウェアやインターネットの分野に新たな時代をもたらしたように、SpaceXが宇宙産業にも変革を起こそうとしているのです。日本の航空宇宙関連の専門的知識や技術力は、日本生まれのスタートアップがこの変革の波に乗り、地上と宇宙の両方で技術的イノベーションを創出するための強固な基盤となるでしょう。
バイオテクノロジー
日本のバイオテクノロジーにおける技術力は世界的に有名であり、政府が「世界最先端のバイオエコノミー社会を実現すること」を目標に積極的に推し進めているバイオ戦略にも支えられています。このバイオ戦略はバイオ医薬や再生医療、細胞治療、遺伝子治療などの分野を対象とし、2030年までに市場規模を総額92兆円にまで成長させることを目指しています。さらに、経済産業省(METI)もバイオエコシステムの育成に向けて3,500億円を投資し、「創薬ベンチャーエコシステム強化事業」など様々なイニシアチブを立ち上げています。バイオテクノロジーにおいてグローバルリーダーであり続けることが国の重要な戦略として位置付けられていることがわかります。これらの強力な枠組みに加え、日本には武田薬品やアステラス製薬などの巨大製薬会社を筆頭とした高度な技術力を有する製薬産業が確立されていて、バイオテクノロジーのスタートアップが世界規模で医療イノベーションをリードするための強固な基盤が整っています。
自動車やモビリティ
日本の自動車産業の歴史は長く、自動車関連スタートアップが接続できる多様で広大なエコシステムがすでに存在します。しかもトヨタやホンダのような世界的な大企業だけでなく、それらの企業を中心に何十年にもわたり発展してきた周辺メーカーやサプライヤーが多層的なエコシステムを形成しているのです。この自動車関連業界に参入するスタートアップは、日本が有する最先端の自動車技術や高度な製造技術の恩恵を受けることができます。つまり、自動車産業が抱える世界的な課題に取り組み、革新的なソリューションを創出する上で必要な人材やインフラが国内にそろっているということです。特にこれからの「持続可能な交通」へのシフトと、世界的な実績を誇る日本の製造能力や技術力が組み合わされば、スタートアップに巨大な市場機会をもたらす可能性があります。
ゲームやエンターテインメント
ゲームやエンターテインメントの分野でも、日本は世界的な影響力を誇っています。さらにゲームやマンガ、アニメなどのIPは、映画化やNetflixシリーズ化、グッズ化など他のエンターテインメント形態との融合により今後も市場のさらなるグローバル化や成長が期待できます。スタートアップもこうした日本ならではのIPコンテンツを活用することで、例えばインタラクティブ・エンターテインメントやVR/AR体験、ゲームテクノロジーの分野でイノベーションを生み出すことができるかもしれません。
海洋産業
島国である利点を積極的に活用してきた日本の海洋産業は、その造船技術や持続可能な漁業の実践、高度な養殖技術で世界をリードしています。特に日本の造船業は、三菱重工業や今治造船をはじめとする日本の造船会社が世界の造船市場に大きく貢献しています。実際、近年において日本は中国や韓国と合わせて世界の船舶建造量の約90%を占めていて、この分野における優位性は明らかです。
Coral Capitalでは「ジャパン・アドバンテージ」を象徴するスタートアップ、つまり日本固有の強みを活かして世界的に競争力のある巨大企業を作ろうとしているスタートアップの発掘・支援を目指しています。私たちが探しているのは、先見性があり、次のトヨタやソニーになるためのビジョンを描いている起業家です。そんな起業家の皆さまがより速く、より大きな会社を作れるように、資金・人材・知見の集まるエコシステムの提供を通じて支援いたします。
P.S. Coralでは日本が優位性を持つユニークな分野について常に新しい情報や視点を求めています。他にも良いアイデアがあるという方がいましたら、ぜひご連絡ください!
Founding Partner & CEO @ Coral Capital