職業柄、ベンチャーキャピタルの世界に挑戦したいという方から色々と質問をいただくことがあります。例えば、「一流のベンチャーキャピタリスト(VC)になれるのはどういう人か?」とか「どのような経歴があるとVCとして卓越できるか?」などです。特にCoral Capitalの投資チームの採用に注力している今、このような質問を受ける機会が以前よりも多くなりました。
しかし、実際のところ、一流のVCになるための道は1つではありません。様々な経歴や経験が、ベンチャーキャピタルでの成功に結びつく可能性があるのです。それでは一流のVCになるには何が必要かというと、大まかに言えば「見つける」、「選ぶ」、そして「勝ち取る」の3つのスキルに秀でていることでしょう。有望な投資機会を「見つけ」、その中から並外れた結果が最も期待できるものを「選び抜き」、その企業に投資する機会を「勝ち取る」必要があるからです。要するに、トップレベルの起業家から選ばれるVCでなければなりません。
この3つの領域で秀でるためには、様々なアプローチがあります。CoralもちょうどVCを募集しているところで、周りに紹介をお願いすると、「どんな経歴の人を探していますか」とよく聞かれます。条件を絞ったほうが一見楽かもしれませんが、現実には、「一流のVCの原石」には様々なタイプが存在するのです。
長期にわたって成功し続けている著名なVCたちを見てもそうです。いくつかの特徴は確かに概ね共通しています。頭が良く、知識や情報の吸収が速く、IQとEQがどちらも高く、自分の頭で独自に考えることが得意で、非常に努力家です。一方で、経歴については実に多種多様なのです。この良い例として、大きな成功を収めてきた5人のVCと、そのユニークな経歴を見てみましょう。
John Doerr(Kleiner Perkins):営業職
- 著名な投資先:Google、Amazon、Netscape
- 経歴:インテル社のエンジニアおよび営業
- 成功の理由:John Doerrがインテル社で培った技術的な専門知識と営業経験が、彼のVCとしての成功に大きく貢献したことは間違いありません。Kleiner PerkinsではGoogleやAmazon、Netscapeをはじめとした数々の優良企業への投資を主導し、約120億ドルもの個人資産を築き上げています。技術的なバックグラウンドがあるからこそ、複雑なテクノロジーも理解でき、インテルのセールスエグゼクティブとして指折りの実績を積み上げた営業経験があるがゆえに、その卓越したピッチスキルで、誰もが投資したがる人気スタートアップを説得して出資枠を勝ち取ることができたのでしょう。また、起業家からも、その幅広い人脈もさることながら、起業家本人以上の熱意で投資先を語る人柄が愛されています。
Michael Moritz(Sequoia Capital):ジャーナリスト
- 著名な投資先:Google、Yahoo!、PayPal
- 経歴:タイム誌のジャーナリスト
- 成功の理由:以前にも書きましたが、ジャーナリストとしてのスキルセットは、VCとしてのキャリアにも驚くほど役立ちます。VCと同様に、ジャーナリストも情報を収集し、人脈を築き、本質を突く質問を投げかけることで真実を見極めます。Michael Moritzのジャーナリストとしての経験も、深く掘り下げて質問するスキルや、説得力のあるストーリーを語るスキルを磨き上げました。有望な投資案件を見つけ、選び抜く上で不可欠なこれらのスキルがあったからこそ、Moritzは推定60億ドルもの個人資産を築き上げることができたのでしょう。特に起業家のビジョンや市場のポテンシャルに対する彼の理解の深さは、ストーリーテリングの巧みさと相まって、競争率の高い案件を勝ち取る能力に結びついています。Sequoiaに引き抜かれた当初は、「なぜジャーナリストが?」と疑問視する声もありました。しかし、結果的にはSequoiaをYahoo!やGoogleなどの企業への投資に導き、まさにメディアでの経験のおかげで、インターネットの成長によって業界が根本的に変わろうとしていることを見抜けたのです(ちなみに、GoogleのシリーズAではDoerrとMoritzが共同で出資しています)。
Mary Meeker(Bond Capital):リサーチアナリスト
- 著名な投資先:Spotify、Square、Airbnb
- 経歴:モルガン・スタンレーの元マネージング・ディレクター(テクノロジー部門のトップリサーチアナリスト)
- 成功の理由:Mary Meekerは、モルガン・スタンレーでテクノロジーエクイティ部門のトップリサーチアナリストとして活躍した経験から、成功する企業を発掘・選別するスキルに卓越しています。「インターネットの女王」としても知られる彼女が毎年発表していた「インターネット・トレンド・レポート」は、市場ダイナミクスや消費者行動に関する鋭い洞察をもたらしました。この高い分析力や深い業界知識こそが、将来性の高いスタートアップを早い段階で見極めることにつながっているのでしょう。データに基づく洞察の活用に加え、テック分野に対する理解の深さで高い評判を得たことも強みとなり、Kleiner Perkins在籍中にはSpotifyやSquare、Airbnbなどの競争率の高い投資案件を勝ち取り、成功しています。彼女の在籍中、Kleiner Perkinsのグロースファンドは、アーリーステージファンドを凌ぐパフォーマンスを上げたことで広く評価されています。
Alfred Lin(Sequoia Capital):スタートアップのCFO兼COO
- 著名な投資先:Airbnb、DoorDash、Houzz
- 経歴:ZapposのCFO兼COO
- 成功の理由:Alfred Linは、Zapposでの事業経験から急成長企業のスケーリングに関する深い見識を持っています。この経歴から、彼はトップレベルの起業家から高い信頼を置かれていて、常に引く手あまたとなっています。Sequoiaに入社したときには、ユニークな企業文化で有名なZapposでの彼の経験を求めて、Airbnbの創業者たちが彼を直接指名したほどです。実際、その戦略的洞察力や組織運営における才覚でZapposをトップクラスのオンライン小売会社に育て上げたLinは、スタートアップにとって非常に貴重なアドバイザーでしょう。複雑なオペレーションを管理し、革新的なビジネスをスケールさせた実践的な経験が、DoorDashやHouzzなど同じく革新的なスタートアップを見つけ、勝ち取り、支援することを可能にしているのです。
Pejman Nozad(Pear VC):カーペットの営業
- 著名な投資先:Dropbox、Gusto、DoorDash
- 経歴:カーペットやラグの営業販売からキャリアをスタート
- 成功の理由:1992年、700ドルと限られた英語力だけでNozadはシリコンバレーにやってきました。最初はヨーグルト屋で働き、オーナーを説得して屋根裏部屋で寝泊まりする生活をしていたそうです。転機が訪れたのは、パロアルトにあるメダリオン・ラグ・ギャラリーの求人広告を目にしたときです。営業経験がないにもかかわらず、彼はギャラリーのオーナーを説得して雇ってもらうことに成功。そして高級カーペットを売る中で、富裕層の顧客との信頼関係を築いていきました。その多くが実は、著名VCやテック系の起業家だったのです。徐々にネットワークを広げていったNozadは、ある日、Y Combinatorのデモ・デーにも出席しました。そこでピッチをしていたDropboxを気に入り、ラグギャラリーでのお茶に誘ったのです。最初はDropboxの人たちも冗談かと思ったそうですが、Nozadは本気でした。少額ながらDropboxに出資しただけでなく、当時のラウンドをリードすることになるSequoiaのMichael Moritzに彼らを紹介したのです。その後も、その人当たりの良さや、類まれな信頼関係構築スキルにより、GustoやDoorDashなど多くのスタートアップへの投資に成功しています。
これらの例からわかるように、ベンチャーキャピタリストとして成功する道は決して1つではありません。営業職、ジャーナリスト、証券アナリスト、成長する事業の経験者、それにカーペットの営業のような型破りな経歴の持ち主までいますが、どのVCもその独自の経歴を活かし、最高の投資機会を「見つけ、選び、勝ち取る」ことに成功しています。多様な経験に加え、IQとEQの高さや独自の思考力、努力家であるといった必須の特性を持ち合わせていることが、ベンチャーキャピタリストとしての成功につながるということです。だからこそ、Coralでは投資チームの採用において特定の条件は設けていません。多様な人材を歓迎しています。
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