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BtoBのSaaS企業がPRに活用するのは“ゆるキャラ”ーー。話題の「ロジごま」の謎に迫る

SaaS企業のPR施策といえば、最近はタクシーの車内CMが目立ちます。人気の芸能人が登場し、企業の課題をさらっと解決していく。テンポの良さについつい見入ってしまいます。

そんな中で変わった方法で自社サービスをアピールする企業があります。

EC事業者と倉庫事業者向けのSaaS製品を提供するロジレスは、いわゆる「ゆるキャラ」を使って、同社のメインプロダクトであるEC自動出荷システム「LOGILESS」のPRに活用しています。

BtoB、SaaS、ゆるキャラーー。

まったく関わりのなさそうなこれらの言葉をどうつなぎこんでいるのか。ロジレス代表の足立直之さん、マーケティング責任者の原田芳江さん、キャラクターをデザインしたシニアデザイナーの大野茉澄さんにお聞きしました。

※情報開示:Coral Capitalはロジレスに出資しています。

物流の堅いイメージとBtoBの知名度の壁

ロジレスは創業から4年目のスタートアップ。EC事業者と倉庫事業者が1つのシステムを活用し、EC自動出荷を実現するプロダクト、LOGILESSを提供しています。OMS(受注管理システム)とWMS(倉庫管理システム)の一体型SaaSというEC業界内でも非常に珍しい立ち位置の同社。

ECサイトで商品が購入されたら、受注情報がほぼリアルタイムで、倉庫事業者側の画面に連携されるため、EC事業者の営業時間ではないお休みの日や深夜などの時間帯であっても自動で出荷指示を送り続けることができます。加えて「一定金額以上の購入者におまけを送りたい」「購入者の居住地を起点により近い倉庫から商品を発送したい」などEC事業者の多種多様なニーズにも応える機能を実装しているため、複雑な出荷指示もシステム上で自動化が可能です。

「LOGILESSの機能を使って国内複数倉庫からの近距離配送を実現し、配送コストを年間1,000万円以上削減させたお客さまもいます」と足立さんは話します。

「将来的には日本全体のECにおける物流を最適化していきたい。ただ領域的にどうしてもやっぱり物流というのは堅いイメージがあります。それは払拭したかったんです」

ロジレス代表取締役CEOの足立直之さん

LOGILESSは大手EC事業者にもサービス導入が進んでおり、約400社のEC事業者と約50社の倉庫事業者が活用していますが、一般的な認知度はまだまだ低め。

そこで「ゆるキャラ」の出番となりました。

デザイナーの落書きから生まれた「ロジごま」

最初はデザイナーの大野さんが勝手に作ったイラストだったそう。

「私の落書きを、みんなに見えるところに貼っておきました。周りがなんだなんだってざわついたりしてました」(大野さん)

「これいいじゃん」。シェアオフィスの1室。壁に貼られたイラストにみんなで意見を言い合い、自然とメンバーの合意が得られていきました。

そして2019年2月、ロジレスのゆるキャラ「ロジごま」が生まれました。

生き物としてはゴマフアザラシをモデルにしています。その理由を大野さんはこう語ります。

「アザラシって基本的に寝ていたりごろごろしていたり、でろんとしてるイメージがありますよね。ロジレスのお客さまにもECビジネスの受注後業務に関してはでろんとしていてほしいんです。LOGILESSが稼働してほぼ完全な自動出荷を実現できているからです。そして、本来やりたいことやするべきことに時間を使えるようになってほしいのです」

ロジごまの産みの親である大野茉澄さん。愛用しているアイコンはもちろんロジごま

「LOGILESSを導入するとこんなふうにだらだらしていていいんだよ」、そんなメッセージが込められています。あまりキビキビ動く生き物だと、LOGILESSを導入した後の姿としてはそぐわないわけです。

代表も言います。「現在LOGILESSを導入しているお客さまの平均の自動出荷率は(全注文の)90%以上。コンセプトはEC業者さんの受注~出荷の業務をほぼ全自動化することなので、めちゃくちゃ仕事します!みたいなキャラクターよりは、ゆるいキャラのほうがいい。営業の場面でも話のネタになりますね」。

ロジごまのTwitterアカウントはBtoB企業とは思えない自由さです。

会社としてのアカウントは現状ないため、ロジごまアカウントが会社のメッセージの発信元です。

たまに導入事例などの記事が掲載されたことも知らせてくれますが、「新しい記事だよー!ちぇきちぇき!」とか「LOGILESSをもっと知ってほしいんば!」などと言っており、語り口はゆるい。

「ロジごまは一応会社のアンバサダーなので、やることはやる。そしてロジごま自身がしたいこともやる、みたいなスタンスのようですね。ロジごまらしさは崩しません」(大野)

デザイン面でのこだわり、あえて作った「ズレ」

物流システムの堅いイメージを払拭したいーー。そんな思いから生まれただけに、至るところにこだわりを持ったゆるさが仕掛けられています。

実はロジごま、口のまわりの配色がズレています。これはただのミスではなく、「キャラクターとしても、スタートアップとしても型にはまりたくない」という想いが込められているそう。

「かっちりしていると安定感はあるけど、遊び心や親しみやすさが薄れがちということもありますね」と大野さん。

「SaaSって最初はとっつきにくさがあるじゃないですか。少しでも親近感を持ってもらいたいから」。細かい部分にデザイナーの遊び心が随所に残っています。

ゆるキャラをつくって「ここがよかった」

では具体的にロジごまちゃんは会社にどのような貢献をしたのでしょうか。

マーケティング責任者の原田芳江さんはこう語ります。

「ECビジネスの関係者がロジごまTwitterのつぶやきをシェアしてくれるので、ロジごまをきっかけにLOGILESSというサービスを認知してくれる人が増えてきていますね。あとはこんなツイートが見られるようになって。これはD2Cブランドを多数運営しているnewnの武田さんという方のツイートです」

Mr. CHEESECAKEなどを運営するnewnはLOGILESSを導入しているが、社員がロジごまとセットでシステムのことをよく褒めてくれます。

「ロジごまというキャラがいるからLOGILESSというサービスを話題にしやすいのもあると思います。お客さまとの会話やSNSのやり取りのなかで、キャラクターと会社が愛されてるなと感じることが増えました」(原田)

いろんな会社でBtoBマーケを手掛けてきたマーケティング責任者の原田芳江さん。

あるとき、プロテインを販売するEC事業者がロジごまを好きすぎて、「ロジごまちゃんのステッカーがほしい」とツイートしていたのを見つけました。

後に手書きの手紙とともに送ったところ、ダンベルに貼られたロジごまの写真がSNSに投稿されたそう。

こんなちょっとしたやり取りが、SaaS、BtoBのビジネスに温かみを生んでいます。

無機質になりがちな管理画面にロジごま

LOGILESSのシステム画面にも、ちらっとロジごまは登場しています。

「右側のお問い合わせ窓口みたいなところに、ロジごまちゃんがチラッといます。これが人のアイコンとかだと、ちょっと無機質になるんですけど、ロジごまちゃんがやってくれてると、ちょっと可愛げがある」(足立さん)

この「チラッと」が意外と大事なのだという。ドカーンと出したりせずに、ここぞというところで登場させるようにしているのはデザイナーのこだわりだ。

「メインはあくまでもLOGILESSです。その価値をそれとなく、わかりやすいように噛み砕いて説明するのがロジごまの役割。そこはロジごまも間違えないようにしなきゃいけない」(大野さん)

主役はLOGILESSで、名脇役がロジごま。その位置づけは守るようにしています。

しかし社内Slackにはガンガン登場する

社内のコミュニケーションツールとして使っているSlackチャンネルでもロジごまは活躍しています。むしろこちらのほうが活動の幅は広いかもしれません。

「住所教えて」と呼びかけると会社の住所を、「順番決めて」とお願いすると社員の名前をランダムに、「ぱわぽちょーだい」と話しかけるとパワポ資料のテンプレート置き場を示してくれる。

このロジごまbotはさらに勤怠打刻の確認もしてくれる。

「労務担当の人とかもわざわざ『勤怠打刻した?』って言いにくいじゃないですか。そういう社員の言いにくいことはロジごまが代弁してくれてるんです」(足立さん)

ロジレスでは受注が決まると、Slackに通知が流れる。それに対してみんなで「ないすぅ!」とコメントし合う文化があります。

そのとき10回に1回だけ、ロジごまも便乗して「ないすぅ!」と言ってくれる仕掛けを入れています。

「それを見たいがためにみんなで『ないすぅ!』っていう文化が確立されてきました」と足立さん。ゆるキャラは社内コミュニケーションの活性化にも役立っている。「欠かせない潤滑油ですよ」。

でもなんであえて「キャラ」なのか?

実はマーケティング責任者の原田さんはこれまでの経歴で、芸能人を起用したBtoBマーケも経験していましたが、キャラクターの活用は初めて。

「芸能人を活用するPRも、”ヒト”のパワーを借りてブランド知名度をアップさせたり、特定のブランドイメージを獲得できるという意味で活用できるシーンは非常に多いと思います。ただいついかなる時も安定したイメージを、企業主体で発信し続けられるのはキャラクターならでは。だからこそキャラクターの利点をめちゃくちゃ感じています」。

大野さんはこう語ります。「芸能人の方を使うことよって認知度が一気に広がる可能性はありますが、不祥事など企業側でのコントロールの難しさもある。そこでキャラクターに賭けてみました」。

あとはSaaSビジネスに定着した“お決まりのデザイントーン”にもやや危機感があるといいます。

「最近のプロダクトってイラストレーションが似たり寄ったりのもが多いですよね。印象が似通ってしまいがちかなと思いますし、ロジレスらしさを表現したいんです。いわゆるSaaSのありがちパターンからの脱却というと大げさですが……」(大野)

キャラ単体でのROIはこだわらない。社内で事業貢献の実感値があればOK

ロジごまというマスコットキャラクターの存在について、スタートアップ企業なりにROIを測定することはできるのでしょうか。

原田さんは「キャラクターROIは単体で評価しても事業貢献度は測れないと思ってます」と話します。代表の足立さんも単体で定量的には評価しない姿勢。

資金調達のリリースを出したとき、集合写真の真ん中にはロジごまがいました。気づけばTechCrunch Japanにもロジごまが載っていました

「そういうところもいいんですよ。定性的な事業貢献度は認識できているのでOK。なのでもう細かいROIは見なくてもいいよねっていう存在になってますね」(足立さん)

会社よりも有名に、将来はグッズ展開も視野に

一応、ロジごまの今後の目標についても聞いてみました。

「いつか企業キャラと意識されずに、普通にLINEのスタンプとかで使われるようになりたいですね。もう逆に、『あ、これってロジレスっていう会社のキャラなんだ』って言われるくらいに」。

代表の足立さんがこう語ると、デザイナーの大野さんも同意。「いつか作るロジごまグッズには、ロジレスのロゴはめっちゃ小さく載せる予定ですから」。

原田さんは「ブランドを認知するきっかけって何でもいいんです。そのキャラがめちゃくちゃ好きだからっていうのも大歓迎。もちろんそれをきっかけにLOGILESSに興味をもってECビジネスで活用してくれたらとても嬉しいですが、キャラがかわいいからLOGILESSも好きと言っていただける人が増えることは大きな事業貢献だと思っています」

そのうちこっそり「ロジごまショップ」ができているかもしれません。今年はBtoBなSaaS企業のゆるキャラに注目です。

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Contributing Writer @ Coral Capital

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Editorial Team / 編集部

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