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Google、Apple、PayPal、米老舗VCが投資をパスした理由は?

以前、Coral Capitalでは「投資しなかったけれど、投資すべきだったスタートアップ」と題して国内ベンチャーキャピタル6社の協力を得て、アンチポートフォリオの記事を公開しました。投資の大きなチャンスを逃したことをプロとして恥じつつ、成功した起業家たちの栄誉を称えるという意図で、米国の老舗VCであるBessemer Venture Partnersが、Airbnb、Apple、Facebookといった特大ホームラン案件を掲載していることにならったものでした。

1911年に創業した最古参のVCであるBeseemerは100年以上にわたる投資の歴史のなかで、Yelp、LinkedIn、Skype、Box、VeriSignといった企業への出資実績で知られ、2019年末現在で約200件のIPOしたスタートアップに投資してきたという実績があります。

これだけ長い歴史があると、逃した投資機会にも錚々たるテック企業の名前が並びます。興味深いのは、投資機会を逃した理由や状況について率直に振り返っていることです。

切手? コイン? コミック? 冗談だろ、とeBayをパス

例えば、eBayについては、「切手? コイン? コミック? そんなの冗談だろ」ということから「考えるまでもなく、パス」という判断をしたとあります。こう考えたのは、BessemerのパートナーDavid Cowan(デイビッド・コウワン)だそうです。Cowanは、VeriSignを含む3社を共同創業した連続起業家であり、セキュリティー系企業などへの投資や社外取締役としての実績が多くあります。かつ、Forbesが選ぶVCランキング(Midas List)でも過去14度も選出されるなどトップの投資家です。この実績があるからこそ、謙虚に過去を振り返り、ありのままに公開することができるのかもしれません。

Bessemerのアンチポートフォリオを見ていると、いくつかパターンがあるようにも見えます。1つはバリュエーションが高すぎるとパスするパターンです。

2010年1月にAirbnbがBessemerに出資を打診したとき、月次の収益は$100K(1,080万円)でした。バリュエーションの$40M(43億円)は「高すぎる」ものだったものの、非常に感銘を受けたパートナーのJeremy Levine(ジェレミー・リヴァイン)は4か月後の5月に再び会う約束をします。しかし、Airbnbの月次収益は2月に$200K、3月に$300Kと伸びていき、「高すぎる」というバリュエーションの1.5倍で資金調達をしたといいます。しかし、バリュエーションは本当に高かったのでしょうか? 全くそんなことはありません。Airbnbの最後の資金調達ラウンドは、そのさらに500倍のバリュエーションとなったのでした。

全く同様に、プレIPO時のAppleに対して投資する機会があったものの、$60M(65億円)のバリュエーションに対して「常軌を逸した高さ」とBessemer共同創業者のNeill Brownstein(ニール・ブラウンスタイン)は述べたと言います。

資金調達をせずに最初から収益をあげてブートストラップし、2015年にオーストラリア史上最大のIPOとなったAtlassianについても、上場5年前時点の2010年に$400M(432億円)のバリュエーションが、「ちょっと高め」ということでパス。しかし今やパスしたシェアは1,000億円以上の評価額となっているといいます。

すでに手強い競合がいるとGoogleもFacebookもパス

競合が多すぎるという理由で投資パスという判断に至ったものもいくつかあるようです。

最大のものはGoogleです。学生2人? 新しい検索エンジン? 先述のCowanは、せっかくの紹介で訪問したGoogle創業者らが居候していた家で、「ガレージのそばを通らずにこの家から出るにはどうすればいいんだ?」と聞いて、Google共同創業者であるセルゲイやラリーに会わずに帰ってしまったそうです。よく知られているように、検索エンジンは1994年以来、infoseek、Yahoo!、LYCOS、excite、AltaVistaなど多くの競合がひしめく市場だったのです。

初期Facebookにも似た話があったようです。2004年夏、ランチの列に並ぶBessemerパートナーのリヴァインはハーバード大学の学生の狂気じみたピッチ攻勢に追い詰められて、「なあ君、Friendsterって聞いたことある? はい、もう終わり、終わり!」と言って追い払ったそうです。その大学生というのはFacebook共同創業者のEduardo Saverin(エドゥアルド・サベリン)です。

ビデオ会議システムZOOMに関しても、いくつもの競合を調査した結果、次世代ビデオ会議システムとしてZOOMが勝者であることは明らかだったものの、既存プレイヤーと複数スタートアップがいることから、シリーズBはパスした、といいます(ただし、Bessemerは後にIPO時に投資しています)。

市場、もしくは技術が難しい

逆に競合がいないものの、難しすぎて市場形成が無理だと判断されたものもあります。

1998年にオンライン決済領域に果敢に参入したPayPalに対しては、チームが若すぎる、規制の悪夢だろうという理由でBessemerはシリーズAをパスしています。PayPalは4年後には$1.5B(1,600億円)でeBayに買収される大型イグジットとなりました。

日本ではあまり知られていないかもしれませんが、oktaという現在時価総額1,500億円ほどのクラウドIDを扱うスタートアップがあります。oktaは2009年と少しスタートが早すぎたこともあり、エンタープライズのニーズを満たすシステムは複雑すぎてSaaSでは扱いきれないという理由から投資を見送られた経緯があったといいます。

「残念ながら、この市場にはXに対してお金を払うヒトはいない」とか「この市場はYという特性があるので、実際にはうまく行かない」とか、ベンチャーキャピタリストと話をしていると、よくそうした分析によって特定事業の市場性に否定的という意見を聞くことがあります。Bessemerにとって、旅行検索サイトで非常に成功しているKAYAKが、そうした企業だったようです。徹底した調査の結果、ビジネスモデルに決定的な穴があると分かったというのです。KAYAKは安い航空券をリストしてくれますが、そうしたサイトに対して航空会社は高額な対価で自社チケットや広告を掲載したがらないだろう、というものでした。ユーザーは喜ぶものの、お金にならないというわけです。ただ、ホテルは航空会社と違ったのでした。

Snapchatへの投資機会を逃した話は、ちょっと嘘のように思えます。

ロサンゼルスへのフライトの到着が3時間遅れた関係で、予定していた2つのアポのうち1つぶんの時間しかなかったBessemerパートナーのリヴァインは、なんとコイントス(表か裏で意思決定する)をしたといいます。結果、Snapchat創業者のEvan Spiegel(エヴァン・スピーゲル)にキャンセルと謝罪の電話を入れたといいます。2020年現在SnapchatはFacebook対抗で苦戦はしていますが、その後に2017年には最大のIPOとなったのでした。

投資をパスした理由は様々ですが、Bessemerの当該ページには「敬意を表して」と偉大な企業を称える文言が並んでいます。また繰り返しますが、Bessemer Venture Partnersは100年を超えるVC投資の歴史の中で、多数の成功企業を生み出してきました。2019年だけでもPinterestやFiverrを含む5件のIPO、7件のM&A、60件の新規投資、運用資金総額は約6,500億円となっています。そうした歴史、実績とも抜きん出たVCでも、アーリーステージでは偉大な企業を見誤ることがあるというのは、起業家、投資家の双方にとって学ぶところが多いかもしれません。

ベンチャー投資投資基準
西村 賢

西村 賢

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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