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高齢化社会を支える世界のスタートアップ (4)コマース編

第1回目の「介護ケアサービス」、第2回目の「見守りソリューション」、第3回の「Fintechソリューション」に引き続き、今回も高齢者の生活支援事業を展開する世界のスタートアップをご紹介します。今回は、米国を中心に高齢者に特化したコマース、ソーシャルサービスをご紹介します。

インターネットは利用するが……

交通手段を持たない独居の高齢者や、都心部から離れた地域に住む高齢者にとって、日々の買い物のハードルは高く、ECなどの既存のインターネットソリューションで解決できる課題も多く存在します。しかしながら、アメリカですら、高齢者がECサイトで買い物をしているかというと、決してそうとは言えないのが現状です。

アメリカにおける年代別のインターネット利用率を見ると、65歳以上の高齢者の73%がインターネットを利用しています。その一方でECの利用者を見てみると、65歳以上の利用率は50%(2018、2019年でほぼ横ばい)で、インターネット利用から実際にオンラインで物を購入するハードルは未だに高いことがうかがえます。

それでも、ベビーブーマー世代を含む高齢者世代のEC利用のインパクトは大きく、海外の成長しているEC業者がどういったアプローチをとっているのか、学べるところは大きいと考えています。

子ども世代から狙う

ネットで商品やサービスを購入すること自体にハードルがある高齢者ではなく、その子どもや孫の世代にリーチするモデルのビジネスは比較的立ち上がりが早いと考えられます。

Alibabaが展開する中国のマーケットプレイスTaobaoは、高齢ユーザー獲得強化のため、2018年2月に高齢者向けアプリをローンチしました。すでにTaobaoを利用している子どもや孫が、家族アカウントというグループアカウントを作り、そのアカウントに自身の両親や祖父母を招待することができるという仕組みです。招待された高齢者は、シンプルなUIですぐにアカウントを開設できます。高齢ユーザーが商品を購入するときには、子どもや家族とチャットや通話ができ、選んだ商品を子どもが承認して決済することも可能です。

高齢者アプリローンチ時で、Taobaoは50歳以上のユーザーを3000万人以上抱えていると発表していました。それから約2年経った現在、同社の高齢ユーザー向け事業の成果は公表されておらず確認できませんが、2019年2月には1200万人の夫婦が家族アカウントを利用していると見られています。今後これらの家族アカウントユーザーが、配偶者だけでなくそれぞれの両親を招待するようになれば成長は加速するのではないかと考えられます。

実店舗と連携する

インドで高齢者に特化したECサイトを展開するSeniorityは、オンラインだけではなく、インド国内に4店舗のリアル店舗もオープンし、オフラインでの販売も行っています。生活用品や介護用品を幅広く取り扱っており、主に60歳以上とその家族をターゲットに事業を展開している特化型のコマースサイトです。5000以上の商品を取り扱っていますが、売上の6割が書籍や映画、ゲームなどのレジャー関連商品とのことです。2016年のローンチ以降、同社の成長は目覚ましく、2017年10月時点の1日あたりの注文数は200~250件程度で月次60~70%の成長を遂げ、その後も月次25%成長を維持しながら成長してきました。2020年に入ってからは月次10~15%成長で、2019年4月時点の1日あたりの注文数は1300件程度、ユーザー数は2.4万人、年間の売上は約700万ドル。今後は年内に自社のプライベートブランド商品の開発・販売を開始する予定とのことです。インドのコングロマリット企業RPGグループのベンチャーキャピタル部門も同社に100万ドルを投資しています。

同社によるGoogle Mapへの提供画像より

また、店舗ではなく商品を見れるショールームを設置するプレイヤーもいます。シンガポールで、高齢者の生活支援用品を専門に取り扱うECサイトのGolden Conceptも商品を実際に見れるショールームを開いています。

高齢者向けD2Cプレイヤーは少ない

スタートアップ業界でトレンドである「D2C」の文脈を見てみると、ごく少数ですが高齢者特化のブランドが立ち上がっています。次世代補聴器のD2Cとして快適でスタイリッシュな補聴器を開発・提供しているEargoは、2013年の創業以来、4度の調達で総額1億3560万ドルを調達しています。Eargoの特徴はスタイリッシュな製品だけでなく、自社ウェブサイトからの販売により、中間流通をなくすことで低価格で高品質な製品を提供できるとのことです。

2016年創業の高齢者向けの失禁関連用品のサブスクリプションコマースを提供するThe Because Marketは、2019年2月にKhosla Venturesがリードするラウンドで3000万ドル調達したことを明らかにしました。The Because Marketは、失禁・軽失禁に悩むユーザーに対し、自社ブランドの専用商品を毎月提供しています。対象は男女を問わず、それぞれの失禁症状に合った適切な商品を、定期的に配送するサービスです。同様のサービスはドイツでも先行事例があり、2011年創業のPflegeboxがオムツやその他消耗品の介護資材のサブスクリプションサービスを提供しています。

上記のような高齢者特化のプレイヤーも一部いる一方で、400ブランドあると推計されているD2Cブランドの大半がミレニアル世代やZ世代向けと見られています。D2Cブランドの強みである、①オンラインを介するブランドコミュニケーションと、②中間流通の簡略化によるコストカットのうち、前者に関しては高齢者向けではその効果を発揮しづらい可能性も高く、既存の小売によるプライベートブランドやネットワークビジネスの自社製品といった商品の方がまだまだ強い印象を受けます。

なぜ今高齢者ビジネスなのか?

これまで4回に渡って高齢者向けビジネスについてご紹介してきましたが、正直「毎回伸びてる事例を探すのが本当に大変ッッ!」という状況でなんとか書いてきました。世界中の優秀な起業家や既存企業が、先進各国が抱える課題である「高齢化」に着目している一方で、VCから調達するモデルのビジネスとしての成功事例は多くはないというのが実態でした。

ネガティブな話をあまり書きたくないという思いもありましたが、起業家であればそのハードルすらも乗り越えてくれるだろうとも考えられます。なので、最後に高齢者ビジネスの難しさについても書かせて頂こうと思います。

(1)テクノロジーアプローチの難しさ

スタートアップの事業アイディアを考える際、「Why Now? – なぜ今なのか?」という観点は重要です。人口動態の変化から高齢者向けビジネスにチャンスがあると注目を集めること自体は、皆さん疑問はないかと思います。しかしその一方で「How」に関しては、テクノロジーでの介入が難しい分、十分に課題解決できるテクノロジーが生まれたからというタイミングの良さだけでは突破しづらい可能性は十分にあります。

これはC向けに限らず、B向けでも同様です。福祉業界は、日本全国に小規模な事業者が多数いるフラグメントな業界で、働いている人や経営者も中高年であるケースが少なくありません。そういった中で、ITソリューションを売るのは簡単ではありません。

(2)ユーザーニーズの掴みづらさと高齢者に対するバイアス

高齢者と一口に言っても世代も広く、所得や家族構成、在住エリアにより、個人個人の趣味嗜好や価値観は大きく異なります。高齢者の中で、どういった人をターゲットとするかは思った以上に絞り込む必要があります。実際に親戚以外の高齢者と話してみると、仮説として持っていたユーザーニーズと大きく異なることも少なくありません。

(3)意思決定の権限移譲

高齢者向けのサービスであっても、高齢者の年齢や認知力によって、実際のサービス利用の選択権限が本人ではなく家族にある場合も少なくありません。またサービス内容によっては、ケアマネージャーや後見人などの外部の人がその役割を担うこともあります。

(4)業界構造が複雑

介護保険が幅広く利用できる分、その仕組みや関わる職種を理解していることは重要です。例えば介護保険適用サービス関しては、地域包括ケアセンターとケアマネージャーが様々なサービス利用のハブとなっています。サービス利用の意思決定者は利用者とその家族にありますが、最初の提案の時点ではケアマネージャーに依存するため、彼らにリーチする必要があります。そして、一見介護保険とは関係ない自費サービスであっても、補助金など支援があるケースも多く、自社のサービスがどの程度その恩恵を受けることができるかなども確認する必要があります。

上記のようなハードルがあることを踏まえても、まだまだ高齢者向け市場はペインが多く残っている業界です。突破する勝ち筋を見つけられれば、いまだスタートアップ的な成功事例が世界的に少ないことからも、高齢化先進国である日本の企業ならではの強みになると信じています。

Agetech
吉澤 美弥子

吉澤 美弥子

Senior Associate @ Coral Capital

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