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事業会社から調達する前に知るべき3つの投資体制の違い

独立系ベンチャーキャピタルが増え続ける中、日本のスタートアップは引き続き資金の多くを事業会社/CVCから調達しています。以前なら「オープン・イノベーション」、最近では「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」などをキーワードに、投資活動を行う事業会社に注目が集まっています。流行のバズワードがなんであろうと、事業会社がスタートアップに関わりたがっているという事実には変わりがないようです。

実際、私はよく起業家から「〜という事業会社/CVCから資金調達することについてどう思う?」と聞かれます。それは個々の状況によって異なるので、いつも「場合による」と答えています。しかし、あまりにも頻繁に聞かれる質問なので、考慮するべきポイントとして起業家との話し合いの際によく提案するものをこれから紹介したいと思います。長くなりますので、シリーズ記事として数週間にわたって説明する予定です。

※本記事は事業会社/CVCから資金調達を検討する際に考慮すべきことをまとめた5本の記事のうちの1本です。他の記事については、以下をご覧ください。

連載目次
第1回:事業会社から調達する前に知るべき3つの投資体制の違い
第2回:事業会社から調達して本当にシナジーが生まれるのか?
第3回:「信用力」のために、スタートアップは事業会社から資金調達すべきか?
第4回:事業会社からの資金調達が競争環境に与える影響
第5回:どのタイミングで事業会社から資金調達するべきか?

まず何よりも先に、相手がどういったタイプの事業会社/CVCなのかを知っておく必要があります。具体的には、どのような体制や仕組みで投資しているかが重要です。基本的には、①バランスシート型、②ファンド型、③二人組合型の3つのどれかに分類されます。これらの主な違いを理解することで、それぞれを動かすインセンティブや、資金調達の際に起こり得ることなどを推測することができます。

①バランスシート型

ほとんどの事業会社は、自分たちのバランスシートから投資資金を引っ張ってきます。この方法が最も投資を始めやすく、また、やめるのも最も簡単です。一般的には、投資専用の事業体などを作らないため、投資チームのメンバーも従来の内部承認プロセスに則って行動します。例えば、1億円以下の投資なら部長クラスが決定権を持ち、5億円以下なら社長、それより上は取締役会での決議が必要、などです。

この方法は参入障壁が非常に低いので、必ずというわけではありませんが、スタートアップへ長期的に投資していくことにコミットしているのか、その本気度を測りかねる場合があります。組織として優先するべき課題は常に変化しているので、トップが2年後に「スタートアップへの投資はもう重要ではない」と判断し、投資チームを解散させてしまうこともあり得ます。結局のところ、事業会社にとって投資は本業ではなく、組織全体の戦略を補完するための手段の1つに過ぎないのです。

また、バランスシート型の投資は2つの要因によって本質的に短期的になりがちです。まず、日本のほとんどの企業は人事ローテーション制度を採用しているので、3年程度で投資チームのメンバーが全く別の部署の人間に入れ替わってしまう可能性があります。また、投資チームのメンバーにキャリー(投資の利益の一部を個人が受け取る報酬)が与えられていないので、長期にわたって投資を成功させるインセンティブが生まれません。この点によって生じる問題については、また別の記事で今後説明したいと思います。

②ファンド型

もう1つの方法は、ファンドを立ち上げ、そこから投資を行うことです。通常は立ち上げた事業会社自身が唯一のLP投資家となります。参入障壁がより高いので、スタートアップへの長期的な投資に対して本腰を入れて取り組んでいる可能性が高くなります。

ただし、このタイプのCVCについては、十分に検討しておくべき注意点が2つあります。1つ目は金銭的な待遇に関する問題で、この点については、投資チームのメンバーが独立系VCのファンドマネージャーのように扱われているかどうかが鍵となります。独立系VCのファンドマネージャーは、キャリーをもらうだけではなく、個人資産を自ら出資するのが当然とされています(通常、ファンドの運用資産の1%程度)。こうすることで、ポストに長く就き、ポートフォリオのスタートアップへの投資に長期的に取り組むインセンティブが高まります。

実際のところは、ほとんどのファンド型のCVCはそのようなインセンティブを設けていません。これにはいくつかの理由がありますが、1つは単純に社内での印象の問題です。投資がうまくいった場合、ファンドマネージャーの報酬は社内の誰よりも高くなり、社長すらも超えてしまいます。人事部からすれば、決められた給与表に当てはまらない報酬はとても「不平等」に見えるので、許容し難いケースが多いでしょう。結果的に、優秀なメンバーは高待遇を求めて独立系のVCなどへといずれ転職していくか、独立してしまいます。これは事業会社の投資チーム全般に言える問題です。

もう1つの注意点は、意思決定に関わることです。ファンドに対して親会社が最終的な意思決定を行う場合、バランスシート型の投資と実質的に変わらない実態である可能性があります。とはいえ、ファンドでは投資に割り当てる資金が固定されているので、以前に承認した出資約束金額(コミットメント)を取り消すのは親会社であっても(不可能ではありませんが)容易ではありません。多くの場合、スタートアップへの投資がもはや優先事項ではないと判断した場合、ファンドの残りのコミットメントを投資しきって、次のファンドは立ち上げないという結論を出すでしょう。

③二人組合型

ファンドの資金は事業会社が提供し、その運用はベンチャーキャピタルが行うという方法を取るケースもよく見られます。Global BrainやSBI、Spiral Capitalなどが、このような「VC as a Service」を提供しているVCの一例です(略して「VCaaS」、「ビーシーアース」なんてどうでしょう)。この方法には様々な応用パターンがありますが、基本的には、事業会社の戦略目標を踏まえてVCaaSがファンドを運用するという契約を結びます。事業会社は普通のLP投資家のように管理報酬とキャリーを支払いますが、多くの場合、ファンドの投資判断に対して発言権を持ちます。

VCaaSは、関わっているメンバーのほぼ全員に多くのメリットをもたらします(※)。事業会社からすれば、人事部の給与表を崩壊させるような事態を避けつつ、投資のプロフェッショナルを雇えます。ベンチャーキャピタルは運用資産を増やし、それに伴いより多くの報酬を得ることができます。起業家側にとっては、VCをバッファーとしながら、事業会社から資金調達するメリットを享受できるかもしれないチャンスです。たとえ事業会社の戦略目標が変わってしまったとしても、ファンドを運用しているVCから引き続きサポートを得る道が残されているのです。

いずれのタイプの事業会社からの出資についても、現在にいたるまでのスタートアップへの投資期間や、そのトラックレコードについて検討することも大事です。バランスシート型の投資家であっても、長期にわたってスタートアップに投資していて、起業家の間での評判も良いなら、他よりも優れた選択肢である可能性があります 。この投資方法だから、この投資家の方が良いなどといった単純な話ではないのです。しかし、上に述べた投資の体制の違いを背景として知っておくことで、少なくとも次回以降の記事で取り上げるトピックの理解に役立つと思います。

※事業会社のアカウントを運用するVCは、構造的に利益相反のリスクが生じるという点で、機関投資家からはあまり高く評価されない傾向があります。例えば、ある事業会社にとって、投資対象としてだけではなく企業戦略的にも素晴らしいスタートアップがあるとします。その場合、VCはコアファンドから投資するべきでしょうか?それとも二人組合から投資するべきでしょうか?とても複雑な問題なので、また別の機会に記事として書くかもしれません。

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Founding Partner & CEO @ Coral Capital

James Riney

Founding Partner & CEO @ Coral Capital

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