「資金調達おめでとう!」って、おかしくない? めでたいの!?

VCから資金調達をして上場やM&Aなどイグジットを目指すスタートアップという方法を選ぶ起業家や投資家、支援者などが、資金調達のアナウンスに触れて「おめでとう!」ということがあります。この「おめでとう」に違和感を覚える人の声を少なからずネット上で見かけることがあるので、この文化について少し書いてみたいと思います。

違和感を覚えるという意見のうち、誤解に基づくものが1つ、そうでない傾聴すべきものが3つほどあるように私には思われます。

誤解に基づく意見というのは「単なる借金じゃないか」というものです。かつて資金調達を頻繁に記事化するスタートアップ媒体にいたとき、仲の良いガジェット系ライターの知人に「他人の借金が、なぜ面白いの?」と聞かれたことがあります。こうした意見が出てくるのは自然なことで、もし投資やリスクマネーがビジネスの立ち上げに果たす役割について考えたことがなければ、単なる借金にしか見えないはずです。特にエクイティによるファイナンスは日本では比較的新しい手法です。今後もっと成功事例が増えてリテラシーが広く行き渡れば、こうした意見は減っていくと思いますが、現時点ではまだ一般的とまでは言えないでしょう。しかし、極論すれば、米国でインターネット、ソフトウェア、モバイルなどの産業を下支えしたのは、多くの失敗を統計的に管理下におくことができる金融テクノロジーとそれを支える社会インフラでした。そのガジェット系ライターが知らなかったのはVRヘッドセットのOculusが世に出てきたのも、VCからのリスクマネーの供給があったことです。

一方で、資金調達おめでとうと言う文化に違和感を覚えるという意見には傾聴すべきものも、いくつかあると思います。

VC調達などしなくて済むなら、そのほうがよい

傾聴すべき意見として「VCからの調達なんてしないほうがいいに決まってる」というものがあります。別言すれば「起業といえばVCから資金調達するもの」と方程式化しすぎているのではないかという意見です。この意見に対して、VCに身を置いている私は2つの相反する見方を同時に持っています。

まず1つは、方程式化しすぎた今のエコシステムに違和感を覚えるという点です。これは私も感じています。こちらの「ベンチャーキャピタルとは?」という記事でCoral Capital創業パートナーの澤山陽平が述べているように「スタートアップとは起業の中の特殊な一形態で、短期の急成長を目指す組織」です。特殊な一形態であるのに、あたかも事業立ち上げには、まずVC回りをするもので、それが正解なのだという前提の起業家が、特に若い人に増えている印象を持っています。比較的すぐに売上が上がりそうなスモールビジネスだったり、長い時間をかけて少しずつ育てるビジネスでは、VCからの調達はむしろしないほうが良いケースがあるはずです。先ほどのリンク先の記事で解説していますが、VC投資はハイリスク・ハイリターンの会社立ち上げを投資モデルの前提としています。ここで特に重要なのがハイリターンのほうです。VCは投資した会社が大きな評価額でのイグジットを目指す前提で投資をしています。しかし、世の中にはそうではないタイプの事業のほうがむしろ多くあります。起業家の情熱も社会的意義も大きく、素晴らしい会社であっても、VC投資が適しているとは限りません。適していない事業で資金調達をしてしまったがために苦しい立場に置かれている起業家も少なからずいます。売上が数億円前半の赤字経営でユニットエコノミクスが成り立たないままバリュエーションだけが上がってしまう。すると、何かを曲げて無理してでも上場を目指さないといけなくなる。そうしたリスクを良く知らないまま資金調達している起業家がいるのだとしたら、「資金調達おめでとうと手放しに言えるのだろうか?」という見方もあって良いと思います。起業家の適性としても無理な成長を目指さずに利益を十分に確保することで自分や社員、社会を幸せにするタイプの人も多くいます。また、ゼロイチの事業立ち上げが上手で事業売却を繰り返す起業についても、VC投資とはモデルが違います。

相反する2つの見方と書きましたが、上記のマイナス面はマクロに見れば相対的に小さいと言えるとも思います。個別事例としては「VCの論理」が行き過ぎていることはあるとしても、マクロで見れば日本のスタートアップエコシステムは米中や欧州に比べてまだまだ小さく、イノベーションを継続して生み出す基盤の1つとしてエクイティ・ファイナンスという金融技術を、より広く定着させるべきだと思います。

自己資金や借入だけで立ち上げができるなら、そのほうが良い

「資金調達おめでとう!」という声援に違和感を覚える人の中には、第三者割当増資による創業者持ち分の希薄化のどこがおめでとうなんだ、という意見の人がいます。例えばZOZO創業者の前澤友作氏はVCから調達などせず、約20年かけて一時は時価総額1兆円を超える会社を作り上げました。ヤフーへの売却時は約4,000億円。前澤氏は36%の持分のうち30%を売却したと言います。持ち分は1,440億円です。しかし、もしVCなど外部ファンドから調達を繰り返していたら、持ち分は10%などに希薄化していたはずで、最終的に1,000億円分ほど目減りしていたはずです。だから資金調達などしなければしないほど良いという見方はあり得ます。こうしたことから「おめでとう」と言うのは変で、むしろ残念だねという意見です(追記:2009年のZOZO(旧スタートトゥデイ)上場時の目論見書によれば、伊藤忠ファイナンスやジャフコといったVCが株主として入っています。それぞれ1%以下の少株主で、前澤氏が約80%の大株主でした)。

Cこの意見にも、最初に指摘したファイナンス上の誤解が含まれると思います。小さく始めて売上を立て、その売上を投資に回すことで大きくするのが良いというのは、それができる事業なら当てはまるかもしれませんが、そうしたやり方で立ち上げられる事業ばかりではありません。現在の日本のスタートアップの状況で言えば、純粋にデジタルで完結するネット系ビジネスではなく、立ち上げ時に資本の先行投資が必要となる領域が増えています。スピードやスケールを先に買うべき理由があることもあるでしょう。また、これは資金的余裕のある連続起業家ですらときどき聞く話ですが、自己資金で始めて事業が立ち上がらないと逐次的に手銭をつぎ込み、人生設計に影響がでるほどの資金を溶かしてしまうリスクもあります。

ただ、先ほど書いた行き過ぎた方程式化の話と同様に、VC資金がなくても大成功した会社は多くあるということは改めて指摘しておきたいと思います。北米の事例になりますが、以前Coral Capitalで掲載した「わずかな資金、もしくは資金ゼロで成功した偉大な50社」という翻訳記事があります。ShopifyやBraintree、Grammarly、GitHubなどはレイターステージになるまで自己資金だけで立ち上げて大成功していますし、MailChimpは外部から調達もせず、むしろ2001年の創業以来5社を買収し、2019年にARRは700億円を超えています。

資金調達はスタート地点に過ぎないではないか

「資金調達おめでとう!」という声援に違和感を覚えるという意見で、いちばん多いのはこれかもしれません。起業家・経営者としてみたらスタート地点に過ぎないのに、資金調達をしただけで何かを達成したかのような浮かれ方はいかがなものかという意見です。シード調達はほぼスタート地点ということが多いですし、レイターの大型調達であっても、むしろアクセルを踏み込む挑戦という意味で、まだおめでとうと言うのは早いという見方です。

スタートアップ・エコシステムを外側から見ている人には、その高揚感から浮かれているように見える面もあるのかもしれませんが、本当の意味で浮かれている起業家はきわめて少数派ではないかと思います。初めてのシード調達であれば高揚感はあるでしょうし、シリーズAやブリッジであればキャッシュアウトの恐怖と焦りから束の間の安堵感を得て少し興奮している場合もあるでしょう。シリーズCなら、より大きな段階へ踏み出した緊張感と責任感を覚えて奮い立っている起業家が大多数でしょう。いずれの場合も、事業や資金調達が順調に進むというのは例外的なケースです。資金調達も進めていく途中でディールがご破算になったり、アテにしていた投資家から最後の最後でお断りの連絡が来たり、いろいなことがあります。あと数週間タイミングが遅ければ給料遅配もあり得るというような状況もあるのがスタートアップです。だから、マイルストーン達成時に高揚感を覚える起業家に対して、同じ起業家仲間や先輩起業家が声をかけたくなるのは自然だと思います。そのときの言葉選びとして「おめでとう」が良いのかと言えば、これはもう好みの話ではないでしょうか。

経営者としての経験を積んだり、会社員時代にP/L責任や部下を持ったことのある起業家は特にそうですが、起業家が資金調達で浮かれるということはほぼありません。キャッシュを稼ぐことの重みを良く分かっているからです。もちろん調達した資金を浪費したり、下手すれば私的な目的で使い込んでしまう起業家がゼロだとは言いません。しかし、それは全体からすれば、本当にごくごく一部。高揚感から浮かれているのように見える面があるとしても、「おめでとう」と声を掛け合う文化は個人的には良いものではないかと思います。それは、「いよいよ、これからだね」「調達おつかれさま」「大きな挑戦をする決意をしたんだね。君ならやれる。頑張れ」「まだまだイケる!」「つらいときもあるだろうけど応援してるよ」「ここまでよくやったね」「今後の活躍、インパクトに期待してます」「素晴らしい取り組み、必ず形になると信じています」といったさまざまなニュアンスを含んだヒトコトであって、ただ浮かれてるというようなことではないと思うのです。

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Partner, Chief Editor @ Coral Capital

Ken Nishimura

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