スタートアップの流動性の話題となると、メディアではSPACやダイレクトリスティングが取り上げられることがほとんどです。しかし、個人的に最近注目しているのは、近年成長を見せている「未上場スタートアップ株のセカンダリーマーケット」という新たなもう1つの選択肢です。
米国では、起業家や従業員、投資家が未上場市場で持ち株を売るための様々な方法が生まれていて、選択肢が年々広がっています。未上場株の取引を仲介するオンライン・プラットフォームのEquityZenやForgeなどがその一例です。個人的な興味から、私もEquityZenで試しに株を買ってみたことがあります。実際に使ってみればサービスの仕組みを理解できると考えたのですが、確かに素晴らしいサービスで、株の売買も比較的スムーズに行えました。しかし、それと同時に、EquityZenにとって運用上の負担が多そうなシステムであることが気にかかりました。私の理解だと、EquityZenはまず候補となる企業に対する需要をオンライン上で探り、需要が最も多かった企業の株をまとめて引っ張ってくるという方法を取っています。つまり、人の介入が必要とされる部分がまだまだ多く、株式売買が行われる企業自体の情報や、スタートアップのキャップ・テーブル(cap table:資本政策表)の変化に関するデータがほとんどないようなのです。要するに、非効率的で不透明なシステムだということです。
それに対して個人的に特に興味を持ったのが、キャップ・テーブルを管理するソフトウェアを提供するスタートアップ、Cartaによる最近の取り組みです。今月の上旬、Cartaは自社開発の未上場株取引プラットフォーム「CartaX」において初の取引セッションが終了したことを報告しました。この最初のセッションで、Cartaは約1億ドル(約106億円)の自社株を売り出したのですが、それ対して414人の参加者から1,484件の成行注文を受け付け、時価総額69億ドル(約7,280億円)で売買が成立しました。同社の昨年の資金調達で付けられたバリュエーションが31億ドル(約3,270億円)だったので、プラットフォームを介することによってバリュエーションが上がる結果となりました。
Cartaの面白いところは、市場において非常にユニークなポジションを確立している点です。同社のソフトウェアは、企業や投資家がキャップ・テーブルやバリュエーション、投資を管理するために作られたものです。しかし、同時にスタートアップの株に関するリアルタイムな情報を収集できるため、まるで「トロイの木馬」のようですが、実質的にはむしろこちらの機能のほうが重要です。宝の山のようなデータをリアルタイムで更新できるということは、スタートアップ株取引の常識を完全に覆すくらい強力なツールになる可能性があるということです。それは関わる人たち全てに影響し、スタートアップの株へ誰よりも早くアクセスできることから、既存の取引市場さえも打撃を受けることになるでしょう。CartaのCEOであるHenry Ward氏も、フィナンシャル・タイムズ誌の記事で次のように説明しています。「今の世界では、未上場で流動性が低いことと、上場していて流動性が高いことは、それぞれセットになっています。しかし、CartaXは『未上場で流動性が高い』企業の実現に貢献します」。また、「CartaXが成功すれば、10年後にはNYSEもNasdaqも存在しない」と断言しています。
もちろん、この破滅の危機を前に、業界の従来からのプレーヤーが手をこまねいているわけがありません。たとえば、SecondMarketという比較的業歴の長いスタートアップで、会社がスポンサーとなるタイプの公開買付けを仲介するプラットフォームへと成長を遂げた企業がありますが、これをNasdaqが2015年に買収しています。Nasdaqの報告によると、2019年の実績として、同社は87のトランザクションを仲介し、総額で48億ドル(約5,070億円)が取引されたとのことです。
最終的には、未上場株取引のあり方が変わり、ほとんどがこうしたプラットフォーム上で行われるようになるでしょう。中でも、価格の透明性、買い手や売り手にとって非常に高い流動性、そしてスムーズな決済など、私たちが普段当たり前のように享受している上場株式市場の利点を最もシームレスに再現できたプラットフォームが、今後は主流になっていくと予想されます。そしてこのまま市場が進化し続け、未上場市場のプラットフォームが上場市場に入っていき、上場市場のプラットフォームが未上場市場に入るようになれば、いずれは未上場と上場の差がなくなる時代が訪れるかもしれません。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital