大手テック企業に踏み潰されるスタートアップ

大手テック企業の小さな動き1つでスタートアップが踏み潰されることがあります。特に皮肉なのは、特定プラットフォーム向けでサードパーティーがツールやアプリ、デバイスを提供しているときに、プラットフォーム提供者自身が同様のツール提供や機能強化をしたときです。

今に始まったことではありませんが、最近目立つのはAppleです。直近の事例は、鍵やリュックに取り付けることで落とし物・忘れ物トラッカーの「AirTag」です。AirTagは、今や世界に15億台稼働しているiPhoneなどのApple製品が近傍にあるデバイスを検知することで追跡をするネットワーク対応デバイスとして機能します。

4月21日に発表されたAirTagによって、2012年から同種のデバイスを提供していた米スタートアップのTileは、きわめて苦しい立場に立たされています。技術的に言えば、プラットフォーマーとしてのAppleは、Find My networkと呼ぶ技術仕様を公開しています。これに従えば、引き続きAppleと同じ土俵で同種のデバイスを提供し続けることはできます。でも、普通に考えれば、わざわざ他社製アプリを入れる理由はありません。メッシュネットワークの密度やカバレッジでもTileがiPhoneに叶うわけがありませんから、プロダクトとしては8年も先行していたのに、この条件で競争するのは酷というほかありません。

AirTag発表以前の2020年からTileは米国や欧州で反トラスト法違反を訴えていましたし、アプリストアの手数料30%を不当に高いとして反発するEpic Games(Fortnite)やSpotify、Matchグループ(Tinder)らが結成した業界団体の「アプリ公平性のための連合」(Coalition for App Fairness)に参加もしています。今後は議会での証言も予定されています。

Tileのようにプラットフォーマーに「踏み潰される」形になった事例は過去にも枚挙にいとまがありません。有料アプリとして人気だった、iPadをMacBookのサブディスプレイ化できる「Duet Display」は、iOS標準機能として2019年リリースの「Sidecar」によって存在価値がほとんど失われました。2017年にmacOSに搭載された「Night Shift」は時刻によって画面の色温度を変化させる機能ですが、これによって同様の機能を提供していた「f.lux」をダウンロードして使う理由はほとんどなくなりました(そもそもf.luxの場合は非公開APIを使っていたことから、アプリストアから削除されていたという事情もあります)。iOS14とwatchOS 7から標準機能となった睡眠管理機能によって、多くのユーザーにとって「Sleep Cycle」「SleepScore」のようなアプリは不要となったことでしょう。AppleがiBedの提供を開始するのは、ちょっと考えづらいものの、SleepTechに取り組むEightSleepのようなスタートアップは、そうした可能性をゼロだと仮定はできないことでしょう。まだ市場としては成立していますが、パスワード管理ツールの「1password」も、iCloudのキーチェーンで十分というユーザーが多いかもしれません。こうしたOSやセキュリティーのコアな部分に触れるツールの場合、当然OS提供者が有利です。

プラットフォーマーが機能追加をすることで、既存のアプリやツールの存在価値が一夜にして大きくそがれるというのは、Twitterでも起こったことでした。Twitterは登場初期にはAPI利用の規定がゆるやかで、アクセストークンすらありませんでした。現在、API利用は審査制となっていますが、かつては外部アプリでも、ほとんど自由にTwitterの機能を使うことができたのです。このためアプリや解析・運用ツールなどが大量に生まれましたが、徐々にTwitter自体が機能拡張していったことと、APIの利用制限が強くなったことで、サードパーティーによるエコシステムは縮んでいきました。

プラットフォーマー自身が「便利なサードパーティーツール」に相当する機能を実装することは、ユーザー視点でみれば良い面もあります。公式アプリだけで便利な機能が使えますし、多くの場合、ユーザーの大半はオリジナルのツールの存在にも気づいていなかったことでしょう。Appleのようなメジャーなソフトウェア企業が「取り込む」ときには、シンプルで使い勝手の良いものになること少なくありません。

Epic GamesやSpotifyくらい規模が大きくなれば、政治を巻き込んでAppleと対決することもできるでしょう。しかし、スタートアップや、スモールビジネスとしてツールを提供している会社などは、ほとんどなすすべもないのが実状でしょう。プラットフォームの興隆に合わせてビジネスを展開し、魅力的なエコシステムを作る一端を担っていたはずのスタートアップなどが、そのプラットフォーム自体に事実上締め出されることがあるというのは皮肉な話です。App Storeの手数料30%が妥当なのかどうかと合わせて、競争政策のあり方の観点から今後も動向が注目されるところです。

Ken Nishimura

Partner, Chief Editor @ Coral Capital

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