本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」の投稿、「Cash on Cash vs IRR」を翻訳したものです。Fred Wilson氏による過去の翻訳記事の一覧は、こちら。
ベンチャーファンドのパフォーマンスを測る指標として、「キャッシュ・オン・キャッシュ」リターンと「IRR(内部収益率)」の2つがよく用いられます。「キャッシュ・オン・キャッシュ」は投資で得た額を投資額で割った値です(現金割る現金なので、キャッシュ・オン・キャッシュです)。IRRは、投資資金に対し投資期間を考慮した実質的な収益率を示します。
この2つの指標は連動すると思うかもしれませんが、実際はそうではありません。
先週、USVの第2四半期のレポートを見ていたとき、これについて考えていました。USVが運用する最も成熟した3つのファンドの数字を見ると、それぞれの動きの違いがわかります。
2008年に運用を開始した古いアーリーステージのファンドのキャッシュ・オン・キャッシュは約5倍でしたが、IRRは22.5%でした。
2年後の2010年に立ち上げた最初の「オポチュニティ・ファンド」のキャッシュ・オン・キャッシュは3.9倍だったものの、IRRは58.6%でした。
2014年に立ち上げた2つ目の「オポチュニティ・ファンド」のキャッシュ・オン・キャッシュは7.3倍でしたが、IRRは46.7%でした。
「オポチュニティ・ファンド」は、USVのポートフォリオ企業で優れたパフォーマンスを出している企業のレイターステージでの追加投資と、初めて出資するいくつか他のレイターステージ企業への投資で構成されています。「オポチュニティ・ファンド」の株式の平均保有期間はアーリーステージのファンドの保有期間と比べるとかなり短いため、キャッシュ・オン・キャッシュに対し、IRRは高くなる傾向にあります。2010年の「オポチュニティファンド」のキャッシュ・オン・キャッシュは2008年のアーリーステージのファンドと比べると低いですが、IRRがずっと高いのはこのためです。
しかし、同じ戦略で投資していても結果が大きく異なることがあります。2014年の「オポチュニティ・ファンド」は2010年の「オポチュニティ・ファンド」に比べると、キャッシュ・オン・キャッシュは高いですが、IRRは低くなっています。2010年の「オポチュニティ・ファンド」では大きなエグジットがいくつか早い段階であったのに対し、2014年の「オポチュニティ・ファンド」では平均的な保有期間を経てから大きなエグジットがあったためです。
ベンチャーキャピタルファンドは出資金を一気に投資するわけではありません。通常4、5年かけて順次、投資していきます。リターンを得るのも時間がかかります。投資とリターンのタイミングはIRRに大きな影響を与えますが、キャッシュ・オン・キャッシュには全く影響がありません。
2つの指標が違う動きをするなら、どちらがより重要なのでしょう?私にとっては、キャッシュ・オン・キャッシュです。ファンド資金の投資と回収の早さよりも、ファンドのトータルリターンを重視しているからです。私たちのアーリーステージのファンドは完全に清算するまで通常15年から20年かかりますが、トータルリターンは他より高くなる傾向にあります。
アーリーステージでの投資では忍耐が報われることが多いと感じています。資金を5倍から10倍にしたいのであれば長期間株式を保有する覚悟が必要です。こうするとIRRは下がりますが、高いキャッシュ・オン・キャッシュが見込めるでしょう。
(Fred Wilson氏による記事の翻訳一覧はこちら)
Editorial Team / 編集部