Coral Capitalは6月、出資先7社のプロダクトマネージャー(PdM)が抱える課題を赤裸々に語るトークイベントを開催。現役もしくは今後PdMへの転身を考えている人など約150人が参加し、登壇者が語るリアルな実情に耳を傾けました。
本記事では、N Inc.の白髭直樹氏による、「PdM不在スタートアップ1年目の懺悔」と題したライトニングトークの内容をお伝えします。
オフィスに届く郵便物をウェブで確認、スキャンや転送も依頼できる
私たちのプロダクト「atena(アテナ)」をざっくり説明しますと、お客様の郵便物をデジタル化して、インターネットから見られるようにするサービスです。ブラウザの管理画面から、どんな郵便物が届いているかをチェックすることができます。
私たちが郵便物をスキャンして中身を見られるようにしたり、現物が必要であればワーケーション先など任意の場所に転送することも可能です。
当日に届いた郵便物を、当日中に確認できて、当日中にデータ化できるという、非常にスピーディーな感じでやっています。
在宅勤務でも請求書のための出社がゼロに
主に、在宅勤務で郵便物を受け取れず、そのために出社が必要になる企業様に導入いただいています。あとは“新しい働き方”を実現しようと、オフィスをなくそうとしている企業からの引き合いも増えています。
一般的なSaaSに比べると分かりやすいサービスなので、導入していただいた翌月から「請求書のための出社がゼロにできました」といったように、分かりやすい効果が出ている状況です。
週1回の新機能リリースを自分たちに課してみた結果
そんな私たちですが、去年までは週1回、1機能のリリースを自分たちに課していました。多機能至上主義みたいなことですね……。結果としては、これだけの機能が半年ぐらいで増えていきました(下図参照)。
その間、どんなふうにプロダクト開発を進めてきたかというと、私がSlackに「郵便物の通知を外部連携に持ってきてオプトアウトできるようにしたいな」みたいな、アイデアを投げるわけですね。
そうなるとJira(プロジェクト管理ツール)のチケットが切られ、開発が始まり、最終的に出来上がるという流れでした。
社長が営業して、アイデアを持って帰ってきて、それをとにかく実装してもらう。これは、シードからシリーズA直前のスタートアップによくある話だと思います。
こうしたことを続けていた中、最近ジョインしたばかりのデザイナーに「それってユーザーに価値提供できているの?」と詰められました。
ユーザーが言っていることは、良い意味で信用してはいけない
確かに作りたいものを作ってるときは、すごく楽しいですし、満足感もあります。でも、それがお客さんの価値提供につながるかは別の話です。
しかし、お客さんから言われたことを(すべて)真に受けてやってしまうのでは、なかなか難しいのかなと思うようになりました。
ユーザーの課題は、本当にその新機能で解決するのか? 既存機能の改善が必要なのではないか? そもそも弊社の製品ではないのかもしれません。
他にもその機能は「必要そう」ではなく、具体的に何社が求めているのか。あとはよくある話として、その機能によって1社は良くなっても、ほか99社にとって体験や価値が悪くならないか。
そして今では週1回の新機能リリースをやめてみました。
結果としてどうなったかと言うと、製品に対するこだわりがすごく強くなりました。
製品へのこだわりが強くなり、いろんな職種の社員からフィードバックが届くように
週1回の新機能リリースをやめたあとでは、いろんな職種の社員からフィードバックが来るようになりました。
例えばAPIを実装しているバックエンドエンジニアから、フロントエンド実装中に「この機能はこういうほうが使いやすいよね」という意見が出てきたり、プロダクトに関わらないオペレーションメンバーもコメントしてくれるようになりました。
機能の増加スピードは圧倒的に下がりましたが、これで良かったと思っています。
ただ、もちろんシード期のスタートアップにとっては、新機能をどんどん作らなければならないフェーズもあります。ですので、市場状況や自分たちが置かれている場所を見ながら、どのように機能開発を進めていくのがいいかを理解することが大事だと感じています。
最後に私たちの課題を紹介させていただくと、主に3つあります。
- 利用者層がバラバラなこと。業種・規模・役職・職種関係なくお使いいただいています。
- 業務アプリが肝なこと。あるポイントを自動化すると全体のコストが30%くらい落ちる可能性があったりと、まだまだ未開の地が広がっています。
- 競合がそんなにいないこと。日本では競合が全然いないし、なかなか参入しにくいので展開もしやすいです。しかしアメリカではベンチマークできる会社が多いのが特徴です。
といったところで、弊社は採用を強化していますので、興味のある方はご連絡いただけるとうれしいです。
【プロダクトマネージャーが抱える課題トーク、全記事一覧】
- ほぼすべてのB2Bスタートアップが遭遇 「多様なニーズに対する機能性定義」問題にどう対応する?(クレジットエンジン)
- ビズとテックの橋渡し役がいれば……。PdM不在スタートアップが遭遇する”産みの苦しみ”(パートナーサクセス)
- 「週1回の新機能リリース」をやめたら、製品へのこだわりが強くなった話(N Inc.)
- 「プロダクトマネージャーのバイブル」を読んだエンジニアが、素人だけどPdMを兼任してみた話(Handii)
- コロナ禍の医療スタートアップが「クリニックの無駄」をなくすためにやっていること(CAPS)
- AIが勝手にやってくれるんでしょ?→誤解されないための「期待値合わせ」はクライアントと一緒に(ハルモニア)
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Content Lead @ Coral Capital