Coral Capitalは6月、出資先7社のプロダクトマネージャー(PdM)が抱える課題を赤裸々に語るトークイベントを開催。現役もしくは今後PdMへの転身を考えている人など約150人が参加し、登壇者が語るリアルな実情に耳を傾けました。
本記事では、株式会社Handiiの髙橋耕太郎氏による、「もしもエンジニアがInspiredを読んだら〜PdMを兼任した半年間の奮闘記〜」と題したライトニングトークの内容をお伝えします。
株式会社Handiiは、法人向けのカードのクラウド型発行・管理サービス「paild」を提供しています。paildはカードごとの上限金額を決められるので、カードを従業員に配ったり、部署や用途ごとに発行できます。
利用に際しての審査はウェブ上で行えますし、入金もカードごとではなく、「1つのウォレットで行うので管理が柔軟で楽!」という特徴があります。
僕はプロダクトマネージャー(PdM)ではなく、エンジニアリングマネージャーなんですけど、まずはなぜ、エンジニアリングマネージャーがこの場にいるかをお伝えします。そのためにまず、2019年に遡って、弊社が抱えていた課題を説明させてください。
開発佳境で生じた不協和音に「PdMの不在」を実感
2019年前半、CEOとCTOのアイデアであるpaildを実現させるべく奮闘していました。「目指せプロダクトリリース!」ということで、僕もフロントエンドエンジニアとして開発していました。
そして2019年後半。開発は佳境に差し掛かかってきたのですが、だんだんと「みんなの心の中のpaild」がズレ始めたんですね。当時はPdMがいなかったので、こういう状態なってしまったんだと思います。
みんななんとなく「リリースがゴールである」と思っていたものの、「何が出るんだろう……?」みたいな不安がありました。僕もそんなことを感じていました。
「リリースはゴールじゃない」、PdMのバイブルに感銘を受ける
そんなときに出会ったのが、「Inspired」でした。
「リリースはゴールじゃなくマイルストーン」というのが、僕の中では大きなパラダイムシフトでした。変化する状況に対応し続けることが必要で、プロダクト開発に終わりはないのだと感銘を受けました。「弊社に必要なのはこれだ」と思い、素人にもかかわらず「エンジニアと兼業でPdMをやります!」と突然手を挙げました。
※編注:Inspiredとは書籍『INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント』(マーティ・ケーガン、佐藤真治、関満徳著、2019)のこと。シリコンバレーで行われているプロダクトマネジメントの手法を紹介する書籍で、一部ではプロダクトマネージャーのバイブルとも称されている。
新米PdMが着手したこと
まずはプロダクトのビジョン、戦略、理念の明文化から始めました。というのも、中長期の視野を持つことで、まず初めに何をするか、何が出るんだろうか、みたいなところを決めるためです。
次に初回リリースのターゲット、提供する価値を明文化しました。 MVP(Minimum Viable Product:実用最小限の機能だけを持つ製品)としてのスコープを明確にして、初回のリリースを確実にするためです。
それから、全社的にアイデアを受け付けました。みんなから受け付けたアイデアを、一旦イシューとして集約することで納得感を醸成しつつ、優先度を付けて対応していくためです。
プロダクトバックログも作りました。開発が何をやるかを明らかにするとともに、全社的にこれからどうなっていくのかを分かるようにしておくためです。
そのほかには「プロダクトの辞書」も作りました。社外の顧客、社内のセールスやCSと、共通言語を作るためです。
一番の課題は専任PdMがいないこと
こんな感じでがんばってみましたが、フロントエンドの開発の手が必要だったので、2020年4月にPdMをCTOに引き継いでもらいました。これで半年間の奮闘が終了です。それから4か月後の2020年8月に、待ちに待った初回のプロダクトがリリースされました。
そして現在なんですが、会社のみんなの協力のおかげで、継続的なプロダクト開発体制は一通りできてきました。
僕はエンジニア出身ということもあり、プロセスを整備しながら、プロダクトマネージメントのベースを作ってきました。現在はCEOがプロダクトオーナーとして、プロダクトマネージメントしつつ、スクラムで開発するスタイルに移行しました。しかし依然としてPdMは兼任の状態になっているという状態です。
というわけで、なぜ私がここにいるかを話します。専任のPdMがいないことが弊社の一番大きな課題なんですね。今も探していて、今日はそんなみなさんにpaildの課題の面白さを伝えるためにこの場にいるというわけです。
※イベントの後日談:「その後頼りがいのあるPdMが入社し、ようやく本来のプロセスを進めていくことができています。ただ、今後事業が拡大するにあたり、PdMも複数人必要になる日がくると思っています。」(髙橋さん)
決済はあらゆる企業が依存しているインフラです。その一方で、いまだに決済と切り離されていたり、弱い繋がりしか持てていなかったりする法人がいます。例えば「カードという決済手段が手に入らない」「カードはあるが与信が少ない」「お金を使うのに不自由を迫られる」といった法人です。
参考記事:なぜ法人カードは使いづらいのか? FintechスタートアップHandiiが変えるB2B決済
そこで私たちはpaildを通して、法人を決済のインフラにつなげ、ストレスなく決済できる環境を作ります。そして、決済で事業を加速させていきます。それがプロダクトのビジョンであり、ミッションです。
【プロダクトマネージャーが抱える課題トーク、全記事一覧】
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- ビズとテックの橋渡し役がいれば……。PdM不在スタートアップが遭遇する”産みの苦しみ”(パートナーサクセス)
- 「週1回の新機能リリース」をやめたら、製品へのこだわりが強くなった話(N Inc.)
- 「プロダクトマネージャーのバイブル」を読んだエンジニアが、素人だけどPdMを兼任してみた話(Handii)
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Content Lead @ Coral Capital