米国のトップティアVCの新規投資先をまとめて手短にご紹介する連載。今回はSequoia Capitalの9月、10月の投資先から3社のスタートアップを紹介します。2社は直近調達ラウンドでユニコーン企業の仲間入りを果たしています。
元Google Xのセキュリティー企業の元CSOが起業
Googleに13年間勤務してサイバー攻撃の脅威分析チームを同社で立ち上げたMike Wiacek氏が1年前に創業したセキュリティー系スタートアップが「Stairwell」です。Wiacek氏はAlphabet(Google)の野心的な「ムーンショット」を子会社として擁するGoogle X傘下のセキュリティー企業、ChronicleでChief Security Officerを務めていたこともあり、注目されています。正式リリースは2022年の予定ですが、2021年9月にSequoia CapitalとAccelが共同リードとなる$20m(約23億円)のシリーズA調達を発表しました。
Inceptionと名付けられたソリューションは「内側・外側を逆転させた発想」(inside-out approach)が新しいとしています。外部から攻撃や侵入を検知するために、何か痕跡が見付かってから情報収集するのではなく、自前システムに異変があるかどうかモニターすることで、セキュリティーが破られていないかを100%の確信をもてるようになるというもののようです。まだ公開はされていませんが、一部画面を見るとサーバー上のオブジェクト(ファイル)のハッシュ値(デジタル指紋のようなもの)を表示しています。システムに侵入か改変があれば瞬時に検証できるということのようで、一般的に企業でセキュリティーのインシデントやデータ漏えいなどがあった場合でも、それに気づくまで平均280日かかるという課題を解決するとしています。
子ども送迎バス「利用者」を単一プラットフォームに載せてDX
10月上旬の$201m(約228億円)のシリーズD調達でポストマネーのバリュエーションが$930m(約1,060億円)と、ほぼユニコーン企業の仲間入りをした「Zum」は送迎バスのDXです。
子どもを送迎する学校バスや給食配達のDXとも言えるプラットフォームですが、その特徴はドライバー、学童、保護者に加えて、自治体や学校、放課後のアクティビティーの関係者などが経路管理や運行把握、乗車時のICカードによる乗車チェックインなどができるプラットフォームです。3年で4,000校が採用するまでに成長しているといいます。
子どもが自分で電車に乗って通学できる利便性や安全を実現した日本の都市部では不要なサービスかもしれません。しかし、従来のように「乗客・ドライバー」のような2種類のユーザーがいるツーサイドのプラットフォームではなく、複数のステークホルダーを1つのプラットフォームに載せるからこそ実現可能なサービスを可能にしているという点で、1つのDXのあり方を示しているのではないでしょうか。
臨床試験にかかる期間を半分にする「DX製薬」
TrialSparkは新薬開発で臨床試験にかかる期間を半分にすることを目指すスタートアップです。9月末の$159.5mのシリーズC調達ではSequoia Capitalをはじめ、Thrive Capital、Spark CapitalなどVCに加え、Y Combinatorの2代目代表であるSam Altmanや、伝説の投資家John Doerrもエンジェル投資家として参加しています。今回の調達でポストマネーのバリュエーションが$1b(約1,140億円)となりユニコーン企業の仲間入りをしています。
新薬の臨床試験には6、7年かかると言われていますが、実はデジタルプラットフォームによって、大幅に期間を削減できる、というのがTrialSparkの狙いです。臨床試験に参加する候補者探し、試験参加同意書のデジタル取得、経過データの管理などプラットフォームがあれば効率化できます。
患者は、自分でTrialSparkに必要情報を登録しておくだけで、臨床試験に参加することができます。これは今までなかったことで、それは試験対象として必要条件を満たしているかどうかの判定は臨床医師が行うもので、単純な判定などではなかったからです。逆にいえば、患者データを構造化して集約するプラットフォームを作れば、マッチング効率改善の余地が大きいということです。何かの疾患に対する新薬の臨床試験があったとしても潜在対象患者の95%は、その存在を知ることもなかったと、TrialSparkは試算しています。
この記事の1つ前のスタートアップとして紹介した送迎バスのDXと似て、異なる利用者を1つのプラットフォームに載せて全体最適を目指すアプローチです。さらに、単なるデジタルプラットフォームとなるのではなく自らも垂直統合された新しいタイプの製薬会社になるのだと言っている点も目を引きます。
Editorial Team / 編集部