本ブログはEventbriteでCPO(Chief Product Officer)を務めるキャセイ・ウィンタース(Casey Winters)氏のブログ記事「Should You Pay Attention To Competitors? It Depends On Your Company’s Conflict」をご本人の許可を得て翻訳したものです。
高校の国語の授業で習ったことはあまり覚えていませんが、ストーリーにおける対立軸(コンフリクト)の種類に関しては、重要なフレームワークとして記憶に残っています。今日インターネット上では、こうした対立の種類をいくつに分類すべきか様々な見解があるようです。マーケティングの4Pが7Pに進化したように、ストーリーにおける対立の種類も研究者たちによって追加されてきました。とはいえ、私がこれを教わった当時に注目していたのは、主人公が戦っている相手は次の3つのうちどれか、という点です。
- 自然(現状)
- 他者
- 自分自身
なぜ高校国語のフレームワークの話をしているのかって?どんな企業も、同じように対立を抱えているからです。そして、企業が抱えている対立の種類によって、競争に対する考え方が変わります。ここでは、対立軸のより詳しい説明と、それが各企業にどのように当てはまるのか、またそれぞれの状況で取るべき行動の考え方をお伝えします。
自社 vs 現状
創業者と話すと、皆、何十もの競合他社の名前を挙げることができます。だからといって、対立している相手が他の会社とは限りません。例えば、Grubhub(訳註:筆者の前職の米フードデリバリー)を考えてみましょう。私が入社したとき、すでに100万ドル(約1億円)を調達済みで、3社の競合他社がいましたが、いずれも同じくらいの規模で、強みや戦略が異なっていました。しかし、これは、誰がフードデリバリーのオンライン注文のリーダーになるかという競争ではありませんでした。これは対現状の対立、つまり消費者にとってフードデリバリーをより魅力的なものにして、もしデリバリーを注文するのであれば、レストランに電話をかけることに対抗するための競争だったのです。当時、99%の人は食べ物をオンラインで注文していませんでした。
ほとんどのスタートアップは、現状との戦いの中にあります。市場には現状がありますし、他にもユーザーに受け入れられるために必要な障壁、例えば、世界的なパンデミックのように、ある分野で成功するためにはどんな企業であっても乗り越える(私の同僚は「急すぎる!」と叫んでいますが)しかない要素があります。通常、スタートアップ企業は、時間をかけて現状を打破するために塹壕戦を繰り広げます。フードデリバリーのオンライン注文は、非常にマイナーな存在から、誰もがやる完全に普通の行動になりました。Grubhubの共同創業者であるマイク・エバンスが、「われわれは一夜にして成功した、準備には10年かったけどね」と言ったのは有名な話です。時には、現状が成長のきっかけを与えてくれることもあります。遠隔医療や食料品の宅配サービス、リモートワークツールなどのスタートアップの人たちに、パンデミックが始まったときに何が起こったかを聞いてみれば分かるでしょう。これらの企業では、技術はすでに存在していましたが、消費者に導入の促進を強制するようなきっかけが必要だったのです。
カテゴリーを成長させ、世間に広くその価値を認めてもらうことが主な目的ならば、競合他社に執着してもあまり意味がありません。これは、Grubhubで働く我々の見解でもありました。競合他社のことはほとんど気にせず、顧客に集中しました。そうすることで、真の成功に必要な顧客の分析を犠牲にして、競合他社の分析に貴重な時間を費やすような事態を防ぐことができたのです。最終的にGrubhubは、当初の競合他社を買収し、競合状態を排除しました。買収してから気づいたのは、これらの企業が私たちに対抗するために多くの時間を費やしてきたことです。私たちのシェアが優位だったからだと反論する人もいるかもしれませんが、これは非常に重要なポイントです。あるカテゴリーを成長させようとしている競合他社が、他の競合他社よりも著しく成功している場合、別のタイプの対立に移行する可能性があります。
自社 vs 他社
多くの市場では、企業が競合他社と激しく争っています。企業はレッドクイーン効果(訳注:生物が競い合って進化し合う循環のことにヒントを得た経営学の用語。競争が激しすぎると競合相手ばかりベンチマークして結果として別の環境で生存力を失うこと(*1))の渦中にあり、各企業は市場シェアを獲得するために、市場内の他の企業よりさらに革新的で優れた仕事をしようと試みます。最近の例では、UberとLyftの対立を考えてみてください。スタートアップ企業は、実際にはそうではないのに、自分たちがこの種の争いに巻き込まれていると勘違いしていることがよくあります。そのカテゴリーが成功するかどうかも確信できないうちに、他社と全面的に競争するスタートアップをかなりたくさん見てきました。そういったケースの多くは、協調することで、協力してカテゴリーの早い成長を促す方が賢明なのです。StripeとShopifyは、その興味深い一例です。eコマースやオンライン決済のカテゴリーは急速に成長しているので、互いに競争するのではなく、カテゴリーが急速に成長し続けるようにパートナーシップを強化しています。しかし、UberとLyftはお互いの動きを追跡し、新規プロダクトの投入、価格変更、市場へのローンチなどに同様の対応で対抗しました。こうした動きは、今になって振り返れば、どちらも正しいと言えます。UberとLyftの市場は、急成長しているものの、最終的には消費者の移動ニーズが上限に達すると、ビジネスモデル的にローカルネットワーク効果の強さから、「勝者がほぼ総取りするモデル」に傾くことになります。UberとLyftは競争を続けてきましたが、最終的には各地域の法規制に対して統一見解を示し、世界中の都市で両社のサービスが利用できる状態の維持のため、相互に協力することに価値を見出しました。このように、会社 vs 会社の競合は、対現状との対立の状況によって変わることがあります。
(*1)参考リンク:「レッドクイーン理論」と競合を意識しすぎるワナ
自社 vs 自社自身
企業における対立の3つ目のタイプは、多くの創業者や従業員が忘れがちではありますが、「自分たち自身(自社)との戦い」です。このタイプの対立では、企業が最も恐れるべきは、市場が活性化しないことや競合他社に機会を奪われることではなく、企業が戦略的ビジョンの実行に支障をきたしたために、事業機会が実現しないことです。この種の対立は、以下のような様々な理由で企業を支配していきます。
- 社内政治
- 集中力の欠如
- 実行上の問題(例:技術的負債、プロセス負債)
投資家はこれを「エグゼキューションリスク」と呼んでいます。自社と対立している企業とは、ビジョンは技術的には確かに実現可能であるが(したがって、技術的リスクではない)、焦点が定まっていなかったり、社員同士が協力せず競い合っていたり、技術的またはプロセス的な問題のために製品開発が非常に困難であったり、何らかの理由でビジョンに向けた事業構築に苦労していることを意味します。このようなタイプの企業は、ビジョン遂行上のこうした根本的な問題を解決できると考える一部のエグゼクティブにとっては魅力的に映ります。なぜなら、こうした企業がすべて正しく実行すれば、勝利を手にすることができるからです。確かに、これは真実です。とはいえ、簡単ではありません。最近では、Evernoteがこの一例です。技術的負債によって進歩のスピードが遅れていたため、新しく就任したCEOは2年間かけてすべてを再構築しました。この間の成長は鈍く、Notion、Coda、Roam Researchなどの企業が登場して、競合上のリスクが顕在化しました。企業が自分自身との対立に終止符を打てたとしても、今度は他の企業との対立に直面する可能性が高いのです。
この例では、これらの競合他社に対して、Evernoteはより早い段階で注意を払っておくべきだったと言いたくなりますが、もしそうしていたら間違いだったと私は思います。Evernoteの問題は全て、あまりに長い間、維持が不可能になっていた技術スタックの上に新しいものを構築してしまったことにあると思います。市場の動きは、その根本的な問題を解決することとは何の関係もありません。
あなたの会社が直面している対立の種類は、企業としてどのように製品を構築するか、何に注力するのかという意思決定に大きく影響します。しっかり時間をかけて本当の対立がどこにあるのか考えることで、最終的に勝つための正しい活動に会社を集中させることができます。これは、マーケティングにどれだけ投資するか、製品ロードマップのフォーカス、さらには組織の構造にも影響を与えます。対立の解消に適切に取り組むことが、企業の成長における真のレバレッジとなるのです。
Editorial Team / 編集部