本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」の投稿、「The Finance To Value Framework」を翻訳したものです。
※本記事で触れられているバリュエーション算定の売上高倍率の数字は2018年の米国スタートアップ業界のものです。現在の米国や日本の相場を反映した数字ではないことにご注意ください。
Fred Wilson氏による過去の翻訳記事の一覧は、こちら。
スタートアップによくある失敗は大きく分けて2つあります。
1つ目は、作ったものが使われないことです。スタートアップ用語で「プロダクト・マーケット・フィット(PMF)が見つからない」と言います。
2つ目の失敗は「攻めすぎた」資本政策です。つまり、プロダクト・マーケット・フィットを見つけたものの、コスト構造(と資本基盤)を間違え、バリュエーションが高くなり過ぎて十分な資金が調達できなくなったり、適切なコスト構造にするために十分な速度でグロースできなくなったりして会社が崩壊してしまうことです。
1つ目の失敗はこの業界にはつきものです。スタートアップ業界は実験場のようなもので、ほとんどの実験は失敗します。失敗はもちろん辛いですが、それを含めてスタートアップなのです。
2つ目は避けられる失敗なのですが、あなたが思うより頻繁に起きています。
長期的に見ると効率的な資本市場ですが、短期的にはとても非効率的です。投資家があなたとあなたの会社に大金を投じようとしているからといって、それを受け取るのが最善の選択ではないということです。このブログで何度も書いてきたように、資金がたくさんあるからといって、事業に伴うリスクが減るわけではありません。多くの場合、リスクは高まってしまいます。
※訳注「ランウェイ最大化は成功確率を下げる | Coral Capital」などがブログの例
では、どうすれば攻めすぎずに、適切な資本計画が立てられるのでしょう?
私は「バリュエーションに基づいた資金調達」と呼ぶフレームワークが気に入っています。これは、ファンダメンタルズ分析に基づいた適正なバリュエーションで資金調達する方法です。
まず最初に知りたいのは、事業がスケールした場合、買い手となる企業や公開市場が自社をどう評価をするかです。この計算にはEBITDA倍率と売上高倍率(訳注:企業価値÷売上)を使うのがおすすめです。これを知るにはあなたと同じ業界で活躍している金融関係者や投資家に聞くのが最適でしょう。重要なのは、これらのマルチプルは現在ではなく、イグジットやIPOの際の企業評価を求めるための数字ということです。
グロース期にEBITDAがプラスになる会社はあまりないので、売上高倍率の方が使いやすいでしょう。
いくつか例を挙げます。ただし、あなたの業界や事業に詳しい人に確認せずにこれらのマルチプルを使用しないでください。これらはあくまでも例です。
- Eコマース事業: 売上高の1~2倍
- SaaS事業 :売上高の6〜8倍
- マーケットプレイス事業 :売上高の4〜6倍(テイクレートによってはGMVが1倍以下になることも)
自分の事業に該当する数字が分かったら、「バリュエーションに基づいた資金調達」フレームワークを適用できます(ここで願望の入った強気な数字にしないこと。後で困ったことになりかねません)。
「バリュエーションに基づいた資金調達」フレームワークにはルールが2つあります。
- 調達額を、次の調達ラウンドまでに増やせる収益の増加分以上の額にしないこと。
- 調達ラウンドのポストマネー評価額を、次の調達ラウンドまでに増やせる以上の額にしないこと。
架空の企業に当てはめて考えてみましょう。
ARR(年間経常収益)が1,000万ドルあるSaaSソフトウェア企業があるとします。この会社は次の18カ月間の事業運営のために資金調達を検討しています。事業は年率40%で成長していて、18カ月後の年間経常収益は1,800万ドルになる見込みです。また、前回の調達ラウンドでのポストマネー評価額は6,000万ドルでした。
売上高倍率を6倍とすると、資金調達額の上限は4,800万ドル(800万ドル×6)になります。しかし、全額調達した場合、価値を上乗せできません。前回より価値を高めたいのであれば、調達額はその何分の1か、半分程度に抑えておくべきでしょう。
また、ポストマネーの評価額は1億800万ドル(1,800万ドルx6)が上限です。4,800万ドル調達した場合、次の調達ラウンドは前回と同じ評価額で調達するフラットラウンドになります。
これには感覚的な部分もあるのですが、上の2つの計算から、この会社の適切な資金調達額は2,000万ドル(プレマネー評価額7,000万ドル/ポストマネー評価額9,000万ドル)程度と見当がつきます。その調達額なら思うほど事業が伸びなかった場合にも余裕があり、次にまたアップラウンドでの調達ができます。
スタートアップの創業者やCEOは、投資家があなたの受け取るべき額より多くの金額を投資しようとする場合があるので、気をつけなければなりません。少ない希薄化でより多くの資本が手に入る状況をうれしく思わない人はいないでしょう。
しかし、それをするとバランスを崩してしまいます。お金と評価額に翻弄されてはいけません。ファンダメンタルズを見ながらバランスを取り、次のラウンドにつなげましょう。
ここで説明したことを実践することで、前のめりになり過ぎて倒れる可能性を大幅に減らせます。
(Fred Wilson氏による記事の翻訳一覧はこちら)
Editorial Team / 編集部