産業廃棄物の回収をAI(数理最適化)で効率化するSaaS「配車頭」を提供するスタートアップのファンファーレでは現在、10名弱のエンジニアが副業で働いています。同社は3年前の創業時から、副業経由で多くのエンジニアを正社員として採用してきました。最近では本業以外の時間にスタートアップで副業するエンジニアが増えてきましたが、採用する側と、採用される側のメリット・デメリットはどこにあるのでしょうか。
今回はファンファーレCTOの矢部顕大氏と、副業で働くエンジニア4人に集まってもらい、「副業ってどうですか?」とストレートに聞いてみました。皆さんのお話から、スタートアップ企業とエンジニアの双方にとってメリットがあるやり方が見えてきました。
※情報開示:Coral Capitalはファンファーレの株主です。
副業だからこそ、優秀なエンジニアが「お試し」で参画してくれる
——さっそくですが、スタートアップが副業でエンジニアを採用するにはメリット、デメリットがあると思いますが、それについて教えてください。
ファンファーレ矢部さん:会社とエンジニアの双方にとって、副業から入るやり方はメリットが大きいんです。会社側のメリットは、レベルが高いエンジニアが興味を持って「お試し」として参加してくれることです。小さなスタートアップは大企業と比べると会社が不安定だったり、業務内容が特殊だったりすることもあるので、「お試し」ができる意味は大きいと思います。
実は私も最初は手弁当のような状態で、ファンファーレCEOの近藤を手伝っていました。なので私も副業から入ったようなものです。さらに言うと、今のファンファーレの社員エンジニアは、みんな副業から入ってくれた人たちです。
また、今日話すメンバーのひとりであるhkdnetさんも大学時代からの優秀な友人で、私がファンファーレに転職するタイミングで泣きついて副業してもらっていました。社員ではないですが長くコミットいただいています。
会社にとってのデメリットは、単純にマネジメントが多少難しくなることです。それと、副業の方はフルタイムの人より稼働工数が少なくなるので、その中でどう情報共有するか。ここにはかなり気を使っています。
なぜ副業? エンジニアたちの本音
——副業エンジニアの皆さんは、どんなふうに感じていますか?
山田さん:私は本業と事業ドメインが近く、抱えている問題意識がファンファーレのミッションや事業と近いので、そこに興味を引かれました。ファンファーレでは異なる環境、異なるチームで開発できることも魅力です。
zuckeyさん:副業をやりたかった理由は、本業の仕事がエンジニアリングマネージャーになりつつあって、コードを書く時間が減ってきたからです。そこでコードを書く副業をしたいと思いました。仕事という目標があった方が、コードを書くモチベーションも上がります。
実際にファンファーレでの仕事は、CTOの矢部さんの仕事ぶりや、メンバーへの仕事の落とし込み方、優秀なメンバーの働き方などを見ていて学びがあります。それも副業を続ける動機のひとつです。
本業と副業の切り替えは、正直言って大変なことはあります。本業で潜って思考した後に、違う方向に思考を変えるのは腰が重いこともあります。でも、土日を使ってリフレッシュしたりしています。
hkdnetさん:副業のいい点というと、一般的には「普段と違う技術に触れる」ことでしょうが、実は私の場合はそれが当てはまりません。全速力を出せるように慣れた技術を使っています。ただし、本業の成熟したサービスを触るのと、副業で新しく自分達で立ち上げて行くことの違いはあります。開発以外でいうとファンファーレでは資金調達や採用などの話題が多く出てくることも楽しいですね。
困る点といえば、本業で忙しいときに副業が忙しくなることです。自分の中で「できること」に集中してがんばる形になります。それが苦手な人はいるかもしれません。本業と副業の切り替えは、私自身はあまり意識していません。パソコンの前にいるのは変わらないので。
フルコミットではなく副業で働いている理由は、現職でやりたいこともあるからです。
松本さん:私は自分で会社を立ち上げる目標があり、そのお金を貯めるために副業を探し始めました。その時に、ファンファーレで矢部さんや、フロントエンドのリードエンジニアの方と面談をして、DDD(ドメイン駆動設計)やクリーンアーキテクチャの話を聞いて、これは自分が持っていない知識も得られる、自分も学びたいと思い、副業として参画しました。
副業だからこそ、共有できる価値を大切にする
——スタートアップにとって副業が良い理由の1つは、採用のミスマッチが減るからと考えていいのでしょうか。
ファンファーレ矢部さん:そうですね。昨今はエンジニアの採用が難しくなっています。弊社のようにまだ名前が売れていないところに、いきなりハイレベルのエンジニアが応募することは、まず期待できません。その一方で、副業というフックがあると「話を聞いてみようか」と興味を持ってくれる人も多いことがメリットです。
——先ほどの「お試し」で働けるというところですね。副業で稼働時間が少なくても、来てくれるのはありがたいということでしょうか。
ファンファーレ矢部さん:はい。エンジニアとしての作業だけでなく、いいカルチャー、いい知識を弊社に共有してもらっているので。また、zuckeyさんはhkdnetさんの紹介で副業していただくことになったのですが、採用候補のエンジニアを紹介してもらえるメリットもあります。
工夫している点としては、単に仕事をお願いするだけでなく、その意義を伝えるようにしていることです。エンジニアはハイレベルな方ほど、仕事のやりがいを重視してくれます。しかし副業エンジニアは稼働時間が限られるので、仕事の意義を伝える機会を持つのが難しい。
そこでファンファーレでは、社員と副業エンジニアも交えて、事業進捗や開発課題に関する会議を月1回ペースで実施しています。前者の事業進捗はややフランクな会議で「できれば参加してください」というスタイル。後者の開発課題会議は、社員も副業エンジニアもなるべくみんな参加できるよう、予定を調整して開催します。顧客課題とそれに対応する開発課題を紹介するストーリーテリングの機会としています。
弊社のプロダクトはバーティカルSaaSという性質上、営業の言うことをそのまま実装するのではなく、お客様の課題をちゃんと理解しないといけません。エンジニアも、本当に求められているものは何か、見抜いて徹底的に理解する覚悟が必要です。なのでドメイン知識(業務に密着した知識)に向き合う覚悟が会社全体にあります。弊社の面白みはそこにあると思っています。
そういったドメイン知識を習得することは難しいので、そのための工夫としてはストーリーテリングを意識して行っています。単純に仕事をお願いするのではなく、「こういうお客様がこのシーンで困っていて、この機能ができると喜んでくれる」といったお話を共有する場としています。
エンジニアにとってのメリット——ドメイン知識に触れる、技術の引き出しを広げる
——「ドメイン知識」に触れられることは副業エンジニアにとっても魅力でしょうか?
山田さん:僕はドメイン知識への興味で参加しています。副業のきっかけはCoralのスタートアップ転職・副業支援サービスから届いたスカウトメールだったのですが、そこでのメールのやりとりの段階からドメイン知識の話にはピンときました。
ただ、会社に興味を持つ切り口はドメイン知識以外にも複数あっていいと思います。例えば「エンジニアとしてRuby on Railsを深く知りたい」でもいいし、「普段使っていない技術に触れてフルスタックの知識を身に付けたい」でもいいでしょう。
hkdnetさん:ドメイン知識の話でいうと、私の場合は本業とファンファーレは事業ドメインが違います。新しいことを学ぶのは面白いし、自分の引き出しが増える。異なる業務をまたいで業務を回すやり方を知ることができる。ここは面白いところです。ファンファーレの仕事では、作業時間に対する「設計の判断」の割合が高いんです。
ファンファーレ矢部さん:そこは特殊なポイントです。ファンファーレは規模が小さいスタートアップで、なおかつサービスを作っているフェーズなので、副業の人にも設計のタスクを渡すことができる。
——会社としては、フルタイムのエンジニアも副業のエンジニアも、両方とも必要なんですよね。
ファンファーレ矢部さん:もちろん、フルタイムで働く社員エンジニアは重要です。ドメイン知識をきれいに共有するには時間がかかります。お客様の要望に早くリアクションしたい。大きな開発をそれなりにスピーディに回したい。複数の人で同じことをやるのは効率が下がる。そういう局面では社員エンジニアが大事です。
スタートアップだからこその生々しい話の共有が開発のモチベーションにつながる
——その一方で、社員だけでなく副業エンジニアにもドメイン知識や課題を共有する工夫をしている訳ですね。
ファンファーレ矢部さん:ファンファーレはプロダクト作りを重視しています。CEOがUI/UXデザイナーで、プロダクトデザインにも関わっています。僕はAIの部分を担当しています。お客様やドメイン知識を徹底的に理解して、プロダクトに反映するぞ、という思いが強い会社です。
そういう所で、エンジニアにいかに楽しく効率的に価値があるものを作ってもらうか、それは欠かすことができません。
山田さん:私は6社で働いてきたのですが、ファンファーレは、社員か副業かを問わずメンバーに対して事業のこと、業界のこと、どんなプロダクトを作ろうとしているか、そこをレクチャー、共有してくれます。共有のために割く力の入れ方が、他社と比べて段違いに大きい。それが自分が副業を続けているモチベーションにもなっています。
副業でどこまでできるか、という課題はあります。他の会社だと細切れのタスクが降ってきたり、いまいち入りきれなかった経験もあります。ファンファーレはギャップを感じずに働けます。
zuckeyさん:僕も山田さんと同様で、時間をかけて知識をシェアしてもらっています。エンジニアは、「下手なものは作りたくない」という人が多いです。こういうお客様がこういうことで現実に困っていて、という話を聞くと納得感も持てる。その説明にコストを割いてもらっているのがいい。
例えば、廃棄物コンテナの細かい種類の違いを実際に調べて、「これがフレコン(注:廃棄物の容器)なのか」「これを実装しないといけないんだ」という感覚を持って、それが使われて役に立っている未来を想像しながらコードを書ける。そうした知識を共有しようという姿勢があります。
松本さん:スタートアップだからこそフィードバックも早くもらえます。改善のタスクでは「使いやすくなりました」というお客さんからのフィードバックをもらえて、実際に使われていることが分かる。そこにやりがいを感じます。
hkdnetさん:開発課題の会議では、矢部さんからの説明が毎回コンテンツとして面白いんです。「お客様との契約ができそうだったけど、できなかった話」とか。生々しい話も聞けます。
山田さん:あと、中長期の戦略の話も聞きます。エンジニアがものを作る上では、これが参考になったりします。
ファンファーレの副業エンジニアへの接し方ということでは、自分はサーバーサイドをやっていますが、実はRuby on Railsはほぼ未経験で入ったんです。普段はPythonやTypeScriptを書いています。レビューをしてもらいながらRuby on Railsのキャッチアップをしました。
松本さん:自分もサーバーサイドもやってみたい、と手を挙げたら次のタスクからRuby on Railsに挑戦させてもらえました。
——普段触れていない技術に関われることも、副業エンジニアのいいところ、ということなんですね。
ファンファーレ矢部さん:ファンファーレではドメイン知識が重要で、フロントエンドからサーバーサイドまで一気通貫で開発できることが理想です。とはいっても、そんな都合がいい人はなかなかいないので、1カ所でも強みを発揮してもらえれば大助かりです。その上で、普段触れていない技術に触れて活動領域を広げてもらえたら、会社にとっても、エンジニアにとっても価値が高まります。
ファンファーレでも副業からの参画を非常に歓迎しており、副業が活躍できる体制も整えています。はじめての副業としても非常にお互いにとってWin-Winなので、是非興味ある方はカジュアル面談から相談していただきたいですね。
※ファンファーレのカジュアル面談はこちらから
——副業エンジニアが働きやすく知識を増やせる環境は、会社にとっても良い環境であることがよく分かりました。お話を聞かせて頂き、ありがとうございました。
Contributing Writer @ Coral Capital