事業会社におけるCFOの役割ならば、財務・経理関連の管理だけでなく財務戦略の責任者として経営に寄与することといった具体的な仕事のイメージがわくでしょう。では、さまざまなスタートアップに投資を行う「ベンチャーキャピタルでのCFO」の業務となるとどうでしょうか。どのようなロールが求められるか、想像が付かない部分も多いのではないでしょうか。
2月14日に開催されたイベント「ベンチャーキャピタルでのファイナンス業務の魅力〜CFO候補募集中!」では、One Capitalの浅田慎二氏とCoral CapitalのJames Rineyが登場し、VCにおいてどのようなファイナンス業務が求められており、その魅力は何なのかを語りました。
日本のVCのCFOには、まだロールモデルがいない
JPモルガンを経てレジュプレス(現Coincheck)を起業、その後はDeNAで海外投資担当を務めた経験を持つJamesによると、「VC市場が成熟しているアメリカでは、VCにおけるCFOのロールモデルが多い」と言います。その一方で、日本のVCはこの数年間で市場が大きくなったものの、CFOのキャリア形成でお手本になるような人は存在していない状況だと指摘します。
そもそもVCにおける資金の流れは非常に複雑です。たとえばCoral Capitalの3号ファンドでは、ケイマン・ファンドとそこに投資する機関投資家があり、ジェネラル・パートナーが組成され、Coral Capital株式会社にマネジメントフィーが流れていきます。ポイントはそうしたファンドが複数組成されていくことです。
「いろいろなファンドを作ると、ファンドごとに異なるキャッシュフローやスキームがあり、法律もかかわってくるためかなり複雑になってきます」(James)。これらファンドから多数のスタートアップへの投資が行われるため、ファンド自体のキャッシュフロー管理にはじまり、マネジメントカンパニーのキャッシュフロー管理、投資先のポートフォリオ管理など、ファーム全体を把握していく必要が生じます。そこを担うのが、VCのCFOという役割です。
自らもスタートアップに挑みつつ立ち上げを支援するOne Capital
One Capitalは、SaaSスタートアップに特化したVCです。伊藤忠テクノロジーベンチャーズやSalesforce Venturesでファンドマネジメント経験を持つ浅田氏ら7人が創業しました。また投資を行うだけでなく、「バットも振ったことのない中で野球するのはやっぱりおかしいなと思った」ことから、同社独自のSaaSのプロダクトも開発しています。
「One Capitalは、リミテッド・パートナー(LP)のサクセスと投資先のサクセスを両立させないと存続できない会社体です」(浅田氏)。それを踏まえ、新たに募集するCFOにはLPサクセスに比重を置くことを求めています。
「LPサクセスの中身は細かく言えばキリがありませんが、端的に言えばキャッシュマネジメントとレポーティングです」(浅田氏)。キャピタルコールの払い込みや投資先への振り込みといったキャッシュマネジメントと、投資先の業績がどうなっているかをまとめて報告するレポーティング業務が全体の60%を占めることになるそうです。
ただ「決算書をくださいと言うだけのパッシブな接触だけでは、投資先の会社がどういう状況になっているかを深く把握できず、あまり仕事が円滑にいかないでしょう。これまでの知見を生かして、管理や守りの面でアドバイスをしていただきながら、財務諸表の情報をいただくような形でいい関係を築くため、投資先サクセスに20%の比重を置いてほしいと考えています」(浅田氏)
そして、One Capital自身が開発しているSaaS DBと事業計画SaaSというプロダクトにも10%程度のコミットを求めています。「自分でも事業を経験することによって、本を読んだり話を聞いたりするよりも、スタートアップが立ち上げで苦労している点を理解できると思います」(浅田氏)。最後の残りの10%を自分自身やファームの成長に使うようなイメージでCFOの業務を定義しているそうです。
日本のVC業界自体の成長に取り組むCoral Capital
Coral Capitalは、SaaSはもちろん、核融合や宇宙ロボットなど幅広い領域を対象に、約80社に投資を行ってきました。現在の運用総額は約300億円となっています。
「僕らのミッションは、ベンチャーキャピタルを超え、日本のVC業界自体を大きくしていくことだと思っています」(James)
既存のVC業界の在り方に風穴を開けるため、シードファイナンスのデファクトスタンダードになっているドキュメント「J-KISS」を作成・公開したり、スタートアップキャリアフェアの「Startup Aquarium」を開催したり、さらにはスタートアップ向けのワクチン接種プログラムを行うなど、投資とリターンという本業だけでなくさまざまな取り組みを行い、「スタートアップにWow!を届ける」べく新たなことにチャレンジしてきました。
そのCoralがCFOに期待している業務は、まずはOne Capital同様、キャッシュマネジメントです。ファンドそれぞれでのキャピタルコールのタイミングでの送金業務はもちろん、マネジメントカンパニーのキャッシュフロー管理も含まれます。「これからどんどん新たなことに取り組む中で、ファイナンスの観点で経営しなければいけません」(James)
もちろん、レポーティングやコンプライアンス対応、そして、投資先のサクセスを支援するポートフォリオマネジメントも業務の中に含まれます。「投資先のフェーズがシリーズB、シリーズCと進んでいく中でしっかり管理していかないと、上場準備が大変になります。早いタイミングで採用や管理などのベストプラクティスをお伝えし、コーチングしていくことも必要になります」(James)
さらに、次のファンド組成も視野に入れながら、ファーム全体の戦略、経営に関わってもらうことも重要な役割になっていくと述べました。
日本のVCでCFOとして働く醍醐味は?
One CapitalとCoral Capitalとで比率は違いつつ、キャッシュ管理を中心に多岐にわたる業務を求められるCFOという役割ですが、難しいチャレンジも多そうです。挑戦する魅力はどこにあるのでしょうか。
浅田氏は、1号ファンドで創業メンバーとして働くことができ、とにかく企業全体がフレッシュなこと、そしてプロフェッショナルファームやスタートアップでの創業経験を持つ優秀な人材と一緒に働き、多くのことを吸収できることを挙げました。
さらに、「One Capitalは、ゆくゆくは日本を代表するVCになっていきたいと思っています。その中でポジションアップし、日本のVCを代表するCFOになれることが魅力だと思っています」と述べました。米国の著名なVCでは経営チームの中に必ずCFOがおり、ファンドのみならず産業を底上げしているのと同じように、日本のVC業界を盛り上げていくのに関わっていけることが醍醐味だといいます。
一方Jamesは、「未来を作る人たちと密接に関われること」を魅力に挙げました。「我々の投資先には、核融合や宇宙ロボット、あるいは日本のエコノミー自体をDXさせるSaaS企業などが含まれています。日本を代表する会社をゼロから一緒に作っていけることが大きな魅力だと思います」
さらに、現在は数百億円レベルの資金運用を数千億円レベルに増やし、グローバルのトップファンドを作っていくチームに加われること、日々の業務がExcelを用いた属人的なやりとりに頼るのではなく、DX化、仕組み化されていることも魅力だと説明しました。
VCという世界では、投資に関わるフロント業務が花形と見なされがちです。One Capitalでは、そのフロント業務に携わるチャンスもあるといいます。
「One Capitalには、もともとスタートアップ企業でBIツールを作っていたエンジニアがCTOとして加わっています。彼はエンジニアプラスベンチャーキャピタルをやりたいと思ってOne Capitalに入社し、実際に2社、ソーシングを行っています。バックオフィス業務の担当者だから『それだけです』というのではなく、彼のように思いっきりフロント業務にも携わってほしいですね」(浅田氏)
一方Coral Capitalにはもともと、個人ではなくチームプレイで、適材適所でフロント業務を行い、メンバーがフラットにサポートする体質があるそうです。従って、積極的にソーシングを行うというわけではありませんが、CFOも、フロントのメンバーと一緒に投資先をサポートしていく形で関わるイメージになるそうです。
VCのCFOが「最強の人材」になる可能性
「VCの市場は8,000億、あるいは1兆円とも言われる規模に成長してきたのですが、大型化したVCファームをインフラや運営面でリードできる人材が非常に少ないのが実情です」とJamesが述べるほど人材不足の領域ですが、挑戦する価値は十分にあると言えそうです。
この先数百億円、さらには数千億円を運用するファームで経験を積み、国内外のステークホルダーと接点を作りながら実績を作ることで、Coral CapitalやOne Capitalで働いている時はもちろんですが、その後のキャリアパスにも大きく生きてくることは間違いないと両氏は言います。
「VCファームが増え、大きくなってきた一方で、経営ができるメンバーは足りません。ここでのスキルセットや経験があれば、大きな可能性が広がると思います」(James)
浅田氏はさらに「ここで働けば、VCの業務がかなりわかります。専門家になるには1万時間を費やす必要があると言われます。まだ小さいセグメントの中でがむしゃらに働き、出資時のディールメモを見たり、フロント業務を体験したりして専門家になれば、その後スタートアップのCFOも上場企業のCFOもできる、かなりの専門人材になれると思います」と述べ、産業を育成する経験を積むことで、「最強の人材」になり得るとしました。
もちろん、給与面をはじめ、福利厚生やキャリー報酬などの面で、それに見合うだけの待遇も用意していくといいます。
「スタートアップには破綻のリスクもある一方で、未来を作る人たちと一緒に働けるという魅力といろいろな経験ができるメリットがあります。VCにはその楽しさに加え、安定感があります」(James)
逆に、VCでCFOとして働くには、どんな資質が必要とされるのでしょうか。
Jamesは「リクルートからお借りした言葉になりますが、『圧倒的当事者意識』(ATI)を持ち、経営者目線で自律して動ける人。そして、成功して満足するのではなく、さらに上を目指すためにパラノイアであり続けること(満足しないこと)。そして、全体の方向性を見据え、自分で考えつつ他の人とのチームワークができる、音楽にたとえるとジャズを演奏できる人」と説明しました。
浅田氏が期待する人物像も、Jamesのそれと共通する部分が多いそうです。「ファウンディングメンバーという位置づけなので、主体性の塊の人、『自分だったらこうしたいです』と言える、ミトコンドリア人材と働きたいです。そして、われわれの会社のバリューはスピードですから、意思決定も行動でもスピードを体現している方、何よりこの仕事においては信用がすべてということを説明せずともわかる方に、ぜひチャレンジしてほしいです」とし、チャレンジングなこの仕事に、プロフェッショナルにこそ加わってほしいと呼びかけました。
ベンチャーキャピタルのCFOポジションに興味を持った方は、以下のページをご覧ください。
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