スタートアップの経営で欠かせないのは「バーンレート(会社が1カ月に失うキャッシュの量)」を抑え、「ランウェイ(会社のキャッシュがなくなるまでの残り時間)」を伸ばすことです。これは、資金面だけでなく、メンタル面についても同じことが言えます。事業が軌道にのるまでに、創業チームが「バーンアウト(燃え尽き症候群)」に陥ってしまったら、成功の可能性は限りなく小さくなってしまうからです。メンタル面のランウェイを伸ばすために、あなたや他のメンバーは、どんなことをしているでしょうか?
経営者をはじめ、スタートアップで働く人たちは、日々さまざまなストレスにさらされています。プロダクトをリリースする「ワクワク」、投資家にピッチする「ドキドキ」、クレームに対応する「ハラハラ」…。できごとの性質がポジティブかネガティブかに関わらず、あらゆる刺激が身体にとっては「ストレス」になってしまうからです。
たしかに疲弊してるけど、ストレス解消に使える時間もお金も限られているーーそんなときに個人的におすすめしたいのが、いまブームになっている「サウナ」です。この記事では、サウナの基本的な楽しみ方と、サウナと同様の効果が期待できるストレス解消法を3つご紹介します。メンタル・ランウェイを伸ばすために、ぜひ実践してみてください。
サウナの基本は交互浴と、目的に合わせた「締め」
まずは、サウナの基本的な楽しみ方を確認しましょう。サウナの本場・フィンランドでは、水辺に建てられたサウナで身体を温めて、そのあと冷たい湖や海に飛び込んだり、都市部ではシャワーや外気浴でクールダウンするといいます。
日本で「サウナ」といえば、サウナと水風呂の交互浴が主流です。いわゆる「ととのう」と表現される快感は、交互浴の合間または後で、外気浴をしているときにやってきます。これは、走っているときに感じるランナーズハイと同様、エンドカンナビノイド(最近までベータ・エンドルフィンと考えられていた)という、マリファナに似た作用をする神経伝達物質によるものとされています。
また、利用する時間帯や目的によって、サウナか水風呂どちらで「締め」るかが変わります。朝や日中なら、水風呂で終わるのがベストです。頭がスッキリして、集中力や判断力が高まると、シリコンバレーでも話題になりました。自己啓発やコーチングで有名なトニー・ロビンズも、毎朝ワークアウト→サウナ→水風呂の流れを習慣にしているそうです。
仕事が終わったあとや、就寝前に入るのであれば、「締め」はサウナで身体を温めましょう。睡眠と体温は関係が深く、人間は体温が下がると眠気を感じます。交互浴の最後をサウナで締めると、そのあと急に体温が下がっていくので、深い眠りにつくことができるというわけです。
サウナなんて行く暇ない…という方に、おすすめ施設
とはいえ、「サウナなんて行っている暇があれば、コードを書きたい or 営業メールを送りたい」という方は多いと思います。一日ずっと仕事に打ち込んでいて、生産性が落ちないのであればいいのですが、もし集中が途切れる時間帯などがあれば、思いきってサウナで気分転換(締めは水風呂)はいかがでしょうか?
都内を中心に、作業スペースがあるサウナ(参考:机や作業スペースがあるサウナ施設一覧)が増えており、気軽にサウナを楽しみたいビジネス・パーソンに人気のようです。仕事の合間や後にサクッと楽しめるので、仕事への影響や罪悪感が最小限に抑えられます。
また、Coral Capitalには投資先スタートアップも参加するサウナ部があり、都内の施設でサウナワーケーションを開催したそうです。もちろん、コロナ感染対策やマナーの観点から、基本的にサウナ内では私語禁止ですが、サウナ後の食事の場などで、清々しい気持ちで交流・親睦をはかれるメリットがあるようです。
とはいえ、従来のゴルフや飲み会のように、プライベートと仕事の境界が曖昧になり、参加できない人に不利にならないよう注意が必要です。Coral Capitalサウナ部がしているように、交流はサウナ後の食事等の場で、目的はプライベートでの親睦に限定する等、配慮をしていただくのがいいと思います。
サウナは苦手…という方に、おすすめストレス解消法
サウナの短期的な健康効果に関する報告はありますが、長期的な健康効果については、まだエビデンスが確立されているとはいえません。また、急激な温度変化は、体にかかる負荷も大きく、絶対に無理は禁物です。サウナが苦手だったり、持病があって入れなかったりする方には、次の3つの方法をおすすめします。
1つめの方法は、深呼吸をすることです。ポイントは、息を吐く時間を長くすること。試しに、4秒間息を吸ったら、ゆっくりと8〜10秒かけて吐いてみましょう。深呼吸をすると、リラックス時に働くとされる「副交感神経」の活動が優位となると言われています。瞑想やヨガなどをする際にも、深い呼吸を意識すると、ストレス解消効果が期待できるでしょう。
2つめは、歌うことです。副交感神経は声帯やノドの奥の筋肉、耳の内部などとつながっています。鼻歌でもいいですし、ガラガラうがいをしたり、思いっきり笑ったり、音楽を聴いたりすると、直接的な刺激となってリラックス効果を促してくれるでしょう。
3つめは、足裏マッサージ(フット・リフレクソロジー)です。研究によると、マッサージを受けて60分後、副交感神経の活発さを示す心拍変動が増加し、交感神経系の働きや血圧は下がったという結果が出ています。ストレスを感じたときには、足首を回したり、足裏を揉んだり、セルフマッサージをしてみましょう。
メンタルのバーンレートを抑える習慣をはじめよう
この記事では、サウナの基本的な楽しみ方と、サウナと同様の効果が期待できるストレス解消法を3つご紹介しました。すべてに共通しているのは、身体とのつながりです。近年の研究で、身体の感覚とつながることは、感情のコントロールや意思決定の質を高め、メンタルヘルスやウェルビーイングに役立つことが分かっています。
スタートアップで働く人たちは、頭の中では毎日を「駆け抜けて」いるのですが、身体はというと、キーボード上の指先しか動いていない…ということがあります。また、ストレス要因(開発作業、ピッチ、クレームなど)には対処しても、身体的なストレス状態(交感神経系が優位になっている自律神経系)を放置してしまうことも多いのです。
全速力の頭脳と、置き去りの身体ーーコロナを機に広まったリモートワークで、この傾向はさらに顕著になりました。「あぁ疲れた」と息をつく1日の終わりに、身体とつながりたくなるのは、無意識の本能なのかもしれません。サウナは、こうした身体の感覚とつながるための力強いツールです。
繰り返しになりますが、サウナの急激な温度変化は、体にかかる負荷も大きく、絶対に無理は禁物です。持病や体調に不安がある場合は、その他の方法でストレスを解消しましょう。いずれにしろ、仕事が最優先でストレスの絶えない毎日だからこそ、興奮した自律神経系が「ととのう」ような習慣を、こまめに実践してみてはいかがでしょうか?
Contributing Writer @ Coral Capital