Coral Capitalは、創業パートナーの澤山陽平によるシードファイナンス勉強会「#CoralSchool」を毎月開催しています。勉強会の内容は動画で全4回にわけて配信中ですが、時間がない人のために各回3分x5本で読める形で内容をお伝えします。第4回のテーマは「投資契約書&J-KISSコンバーティブルの仕組み」です。
【シリーズ目次】
第1回:ベンチャーキャピタルとは
第2回:株式による資金調達の仕組み
第3回:EXITの際の利益分配の仕組み
第4回:投資契約書&J-KISS(コンバーティブル)の仕組み(前編)※本記事
第5回:投資契約書&J-KISS(コンバーティブル)の仕組み(後編)
VCというのは、ある程度は経営に口を出したいものです。でも、基本的にVCが持つ株式は10〜20%くらいなので、持株比率だけで言うとパワーはありません。
持株比率が33%くらいなければ株主としての力は大きくないので、VCは出資するだけでなく、投資契約を交わすのです。
VCがスタートアップと交わす投資契約
投資契約は大きく分けて、どの価格でどのくらい投資するかを決める「株式引受契約」と、投資後の株主との関係を規定する「株主間契約」の2つがあります。
そのほかには、企業買収時のことを細かく決める「分配合意書」というものもあります。
株主間契約について補足すると、「株主にはこのくらいの頻度で報告してね」や「こういうことをやるときには事前に教えてね」といったことを決めます。
なぜ株主間契約を交わすかというと、起業家がいきなり事業転換したり、高額な買い物をしたりすると株主は困るので、起業家にある程度の縛りをつけるためです。
こうした投資契約ではさまざまな権利項目を決めるので、契約書は20〜30ページくらいになり、3つの契約を合わせると100ページに上ることもあります。その交渉で何度もやり取りを繰り返した結果、契約を結ぶまでに数ヶ月かかったり、弁護士費用がかさんでしまうこともあるのです。
シード投資の手間とコストを削減する「コンバーティブル」
日本の以前の資金調達は、ほとんどが普通株でした。しかし最近では、数億円以上の資金調達は優先株を使うのが当たり前になってきました。それによって、投資家のリスクをうまく調整できるようになったのです(第2回参照)。
ただ、優先株はさまざまなことを決めなければならず、副作用として、契約書が長くなってしまいます。数ヶ月で状況が変わることが多いシードステージのスタートアップにとって、コスパがいいとは言えません。
こうしたシード投資の手間とコストを削減するのが「コンバーティブル」という仕組みです。「面倒くさい契約は、本格的な資金調達時にやればいい」という発想のもとに生まれました。
J-KISSと転換社債の違いは?→負債じゃないので返済不要
コンバーティブルのひとつである「J-KISS」は、シード期のスタートアップがより簡単に、より早く資金調達するための投資契約書テンプレートです。Coral Capitalの前身である500 Startups Japanが作りました。
誰でも使えるように無償で公開していて、すでに多くのVCや大企業、投資家がJ-KISSを使って投資を実行しています。
J-KISSはシード期のスタートアップのための契約書なので、2つくらいの項目を決めるだけです。公開テンプレートのまま使うのであれば、弁護士費用もほぼかからないようにできると思います。
コンバーティブルのひとつとしては転換社債もありますが、あくまで「社債」なので借金になってしまいます。一方、J-KISSは「新株予約権」という仕組みなので、返済を求められることもないし、融資の際の審査で不利になることもないのです。
J-KISSが何株になるかは、あとから決める
J-KISSが何株になるかは、あとから決めます。つまり、株ではないので、契約に時間がかかる株主間契約を結ぶ必要もありません。いろんな手間がかかる交渉は後回しにする。それがJ-KISSのコンセプトなのです。
J-KISSでシード投資を受けたスタートアップは、順調に行けば1年から1年半後で次のシリーズA調達に進みます。J-KISSのテンプレートではシリーズAラウンドの定義として「株式で1億円以上の調達をするタイミング」で、J-KISSを消滅させて株式に変えることになっています。
後編では、J-KISSの転換価額の決め方について詳しく紹介します。
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