本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」のFinancing Optionsというシリーズの投稿を翻訳したものです。スタートアップの創業者向けの資金調達の選択肢について、各種の方法を紹介するものです。原文は全11回のシリーズとなっていますが、日米の違いから5本を割愛して、日本の創業者にも参考になりそうなものを6本ピックアップしました。本記事は「Financing Options: Bridge Loans」の翻訳です。
これまでの連載の翻訳は以下のとおりです。
第1回 資金調達の選択肢:家族と友人に出資してもらう
第2回 資金調達の選択肢:政府の助成金を活用する
第3回 資金調達の選択肢:顧客から調達する
第4回 資金調達の選択肢:ベンダーから調達する
第5回 資金調達の選択肢:優先株を活用する
第6回 資金調達の選択肢:ブリッジ・ローンを活用する
「資金調達の選択肢」シリーズの第6回となる今回は、ブリッジ・ローンについてです。ブリッジ・ローンは、次のイベントまでの「架け橋」になることからそう呼ばれています。つまり、会社が将来予定しているイベントまでのつなぎとして、資金調達することを目的とした短期ローンということです。
スタートアップ業界の外では、多くのセクターでブリッジ・ローンが活用されています。大手の銀行は取引を取りまとめている企業のためにブリッジ・ローンを組むことがあります。不動産では売買が完了するまでのつなぎに使われます。取引が完了するまでに組む短期ローンはビジネスにおいて一般的な概念です。
スタートアップ業界におけるブリッジ・ローンは興味深い資金調達法です。私はスタートアップに25年間に渡って関わっていますが、既存投資家や投資グループ以外の人がスタートアップにブリッジ・ローンで出資するケースをほとんど見たことがありません。スタートアップ業界におけるブリッジ・ローンのほとんどは、資金調達や売上が確定する前に資金が尽きそうな会社に対して行われます。ブリッジ・ローンは、トランザクションが発生しない限り返済されないリスクの高いローンです。そして期待しているトランザクションが起きないことも珍しくありません。
過去25年間に行われた、ベンチャーキャピタルおよびエンジェル投資家によるスタートアップへのブリッジ・ローンのデータを集めてみると、全体のパフォーマンスはひどい結果になっていることでしょう。私が関わったきた会社で行われたブリッジ・ローンのパフォーマンスについても大きくマイナスになっていると思います。損失率は非常に高く、うまくいった場合でもリターンは一般的なベンチャー投資と大差がないと思います。
では、なぜVCやエンジェル投資家はパフォーマンスが悪いのにブリッジ・ローンでスタートアップに出資するのでしょうか。理由は2つあり、それらは関連していますが同じではありません。
1つは、投資家は自分たちが出資した企業やチームの成功するチャンスを与えたいと思っているからです。VCやエンジェル投資家は、世間の思う現実的で合理的な投資家像よりずっとポートフォリオ企業に対して支援的であるということです。私は、スタートアップの投資家たちが「正しいことをする」という心情的なこと以上の意味を持たないフォローオン投資をしてきたのを何度も見てきました。
もう1つは、投資家は保身のためにローンを引き受けることがあります。彼らは、自分たちが明らかに弱い、あるいは悪い投資をしたことを理解していますが、減損をしてその事実を認めたくないがために、損の上塗りをしているのです。
なので、ブリッジ・ローンはしばしば後ろ向きに行われる悪い投資です。だから、他の投資家にとっては赤信号であると言えます。新しい投資家がブリッジ・ローンを組んでいる会社を見たのなら、すべてが順調に進んでいるわけではないというのを察します。だからといって、起業家がブリッジ・ローンを検討したり、受けたりしてはいけないということではありません。単に、投資家にブリッジ・ローンを行う理由を説明する必要があるということです。また、ブリッジ・ローンにより資金調達が難しくなることを理解しておきましょう。
ただし、会社の売却を見据えたブリッジ・ローンは少し事情が違います。売却が視野に入っているなら、ブリッジ・ローンを選ぶのには合理的な理由があります。投資家たちは売却が近づいているのを知っているので、株式による調達ラウンドは合理的ではありません。予定の売却価格より低い金額で新株を発行することは難しいからです。もし株価が期待される売却価格に近い場合、売却が完了したときのリターンがあまり得られません。なので、ローンが一番理に適っています。そして、このような状況ではブリッジ・ローンが最適なローンの形だと言えるでしょう。買収側は帳簿にブリッジ・ローンがあっても驚かないでしょうし、株式による資金調達とは違ってブリッジ・ローンを危険信号とは捉えません。
ブリッジ・ローンを行う際は、予定している取引に辿り着くまでに必要な分のローンを組むことが重要です。「橋(ブリッジ)」の例えはぴったりです。橋は、川を渡るのに十分な長さがなければなりません。そうでなければ何の役にも立たないのです。2本目の橋を取り付けるのはとても難しくなります。なので、会社を売却したり、資金調達をしたりするのに3か月必要だと思うなら、6か月分のブリッジ・ローンを用意するのがいいと思います。
投資家がブリッジ・ローンで出資する際の最大の懸念点は、予定している取引の確度です。投資家は「どこにも繋がらない」ブリッジ・ローンには出資したくはないので、実際にブリッジ・ローンを投資家に依頼する前に、ブリッジの目標となる取引の確度を高める必要があります。取引を成立させるのに、銀行員やアドバイザーを雇って彼らの力を借りるのは、投資家がブリッジ・ローンに出資する安心材料になります。取引が起きることを保証するものではありませんが、取引を実現するために力を尽くしているとを周りに示すことができます。
ブリッジ・ローンの条件は比較的、標準的です。ローンは会社が抵当に入れる資産によって担保されます。すでに銀行から借入や設備融資を行なっている場合、ブリッジ・ローンはそれらのローンより返済順位が後になります。また、銀行が関与している場合は、ブリッジ・ローンを組むのに銀行の協力が必要です。銀行の協力を得るのが難しい場合もあります。
ブリッジ・ローンは金利の状況に応じて6%から12%の金利が適用され、ワラントやディスカウントを付与します。(編注:金利については米国と日本では状況が大きく事情が異なると思われます。)ワラントやディスカウントの概念については、以前にこのシリーズで投稿したコンバーティブル ・ノートの回で説明した通りです(未翻訳ですが、こちらが当該記事です)。ブリッジ・ローンはコンバーティブル・ノートの特殊な形態であるとも言えます。
まとめると、ブリッジ・ローンはあらゆる業界で活用されているものです。スタートアップ業界におけるブリッジ・ローンは事業に問題があるサインになるので、できる限り避けるべきものです。けれど事業が沈んでいるとき、どんな資金調達の方法でも魅力的に見えるでしょう。ブリッジ・ローンも同じです。必要に迫られているなら手段を選ぶことはできません。ただし、会社を売却する段階であれば、ブリッジ・ローンが問題になることは少なく、売却が完了するまでの資金調達として適切であることが多いでしょう。
スタートアップの投資家にとってブリッジ・ローンは全体的にパフォーマンスの悪い投資であり、これを避けようとします。しかし、スタートアップ業界で利用できる他のどの手段とも同じように、ブリッジ・ローンもまた私たちの世界の一部で、ほとんどの投資家がどこかのタイミングでブリッジ・ローンを扱うことになります。そしてブリッジ・ローンは会社のライフサイクルの重要な時期における便利な資金調達の方法でもあります。
Editorial Team / 編集部