本ブログはニューヨークのベンチャーキャピタルUnion Square Venturesでパートナーを務める、Fred Wilson(フレッド・ウィルソン)氏のブログ「AVC」の投稿、「Time and Money」を翻訳したものです。
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スタートアップ投資であまり議論されないことの1つに、投資した会社にコミットする時間の評価というのがあります。
お金の部分は割とシンプルです。事業に出資する代わりに株式を得ます。双方とも取引内容を精査し、十分理解しています。もちろん、どちらも最終的な利益がどうなるかは分かりませんが、リスクを調整することができます。
投資における「時間」の部分はこれよりはるかに複雑です。
例えば、次のようなことです。
1/ 創業者は、投資家が自分たちのために時間を割いて価値を高めるという約束をどの程度果たしてくれるか分かりません。投資家の評判を調べることである程度分かるかもしれませんが、投資契約書には当事者らに対し、特定の時間をコミットするよう拘束する内容は書かれていません。
2/ 投資家は、投資先にどのくらいの期間(3年なのか、5年なのか、15年なのか)力を貸すことになるか分かりません。
3/ 創業者は、投資家グループの対応にどれくらいの時間がかかるか分かりません。口を出してくる迷惑な投資家なのか、それとも手を貸し、会社の価値を高めてくれる投資家なのか、あるいはその両方なのか分かりません。
4/ 投資家は、投資先のチームが毎日、たくさん手をかけて支えなければならない弱いチームなのか、それとも時々アドバイスや助言を与えるだけで良い、十分に自立したチームなのか分かりません。
例を挙げればきりがありませんが、言いたいことはわかってもらえたかと思います。
創業者にとっても投資家にとっても時間は貴重なリソースであり、双方がディールにおいて考慮すべき要素であるはずです。しかし、実際に考慮されていることはほとんどありません。
「パッシブ・キャピタル 」だけを求めているレイトステージの会社の資金調達は、ある意味、時間の要素が考慮されている分かりやすい例です。この場合、双方とも基本的に投資分析から時間の要素を排除し、純粋に資本と株式を交換する取引を行います。条件は分かりやすく、簡潔でシンプルです。
反対に、創業者が調達したい金額の5倍が集まっている激戦のシードラウンドの場合はどうでしょう。どの投資家もディールに加わろうと、会社の価値を高めるために手を貸すと約束します。創業者は投資金額とともに、各投資家がコミットしてくれる時間の価値についても評価しようとしますが、そのために必要な情報はあまり手に入りません。蓋を開けてみると、少数のシード投資家だけが約束以上の価値を提供し、残りの投資家は期待外れになる場合がほとんどです。
シードやシリーズAのスタートアップに多く投資するアーリーステージのVCとして、ディールで最も難しいのは、この「時間の価値」を正しく算出する部分であると感じています。私は投資の際、投資先にコミットする時間も考慮すべきと考えています。時間をかけずに済む投資案件は高く評価し、多くかける必要のある投資案件は割り引いて評価すべきでしょう。
ディールの交渉時にこの点についてよく検討しますが、未来が予見できるわけではないので予想を外すことが多くあります。投資先の状況を改善しようと多くの時間をかけたにもかかわらず、大きな変化はもたらせなかったこともあります。反対に、あまり手を貸さなくても、私たちに素晴らしいリターンをもたらした投資先もあります。
投資プロセスの一環にコミットする時間を評価する余裕があれば、双方ともうまく時間の価値を見積もれるでしょう。検討時間が少ない状況では正しい判断をするのは難しく、どちら側も価値を誤算してしまいやすくなります。
仕事でも人生でも人は失敗から学びます。経験豊富な創業者や投資家は、時間の重要性を理解していてそれを投資の意思決定に反映させています。それは業界にとってより健全な投資環境の醸成につながるでしょう。
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Editorial Team / 編集部