心不全や心筋梗塞などの心疾患患者において、患者が運動療法を始めとした心臓リハビリテーション(以下、心臓リハビリ)を行うと、その後の再入院率などが下がることがわかっています。通常、患者は心臓リハビリのために医療機関やリハビリ施設に通いますが、CaTe(カテ)はスマートフォンアプリとIoT端末を用いて自宅でも受けられるようにしようとしています。
※情報開始:CaTeはCoral Capitalの出資先企業です
日本で心臓リハビリが普及しないワケ
CaTeを創業したのは、現在も都内病院にて循環器内科医として勤務している寺嶋一裕さん。運動療法を始めとした心臓リハビリは治療効果が高いことが証明されているにもかかわらず、日本ではあまり普及していないのが課題だと指摘します。
「心疾患患者が退院後、検査結果に基づいた運動療法を週3回行い、適切な教育と指導を受ければ、例えば心不全の再入院率と心筋梗塞の心疾患死亡率が約30%低下します。しかし、日本の外来心臓リハビリ参加率はわずか7%にとどまります」
心臓リハビリが普及していない理由のひとつは、リハビリ施設が少ないこと。年間の心不全入院患者数の約29万人に対し、外来心臓リハビリ施設は全国に約700施設で、その多くは都心に集中しています。近年は新型コロナウイルスの感染拡大により、外来心臓リハビリを中止・縮小する医療機関も少なくありません。また、患者とその家族にとっては、リハビリのために通院すること自体が大きな負担になっているとも、寺嶋さんは指摘します。
「患者は十分な医療を受けられていない状況です。その結果、心不全患者の多くが入退院を繰り返していて、本人と家族が苦しんでいることに加え、社会全体としても多額の医療費負担がかかっています」
この問題を解決するため、CaTeは遠隔心臓リハビリシステムを開発しています。通常の心臓リハビリでは医療機関で運動療法を行いますが、CaTeはスマートフォンアプリとIoT端末を用いて自宅で心臓リハビリが受けられるのが特徴です。
「薬だけではなく、AIとIoTの力でも疾患を治療できる時代になっています。心臓リハビリ分野においても、特にそれらの強みが活かせると考えています」
iPhoneとApple Watchで自宅での心臓リハビリが可能に
心臓リハビリでは、リハビリを始める前に心肺運動負荷試験などの結果をもとにして運動療法を指導します。CaTeの治療用アプリでも同じように、検査結果から適切な運動療法を施行します。運動ごとの負荷を細かく測定し、患者の活動レベルと体調に合わせた運動メニューを提示することで、安全で効果的な心臓リハビリテーションを行います。
CaTeが提供する遠隔心臓リハビリ治療用アプリはスマートフォンとIoT端末を使います。現時点では、スマートフォンはiPhone、IoT端末はApple Watchを使いますが、今後Androidスマートフォンや他の活動量計・心電計にも対応する予定です。
アプリでは週3回以上の運動に加え、オンラインでの栄養指導・看護指導も行うことができます。また、バイタルデータの共有、生活・栄養管理、AIによる個人の性格に合わせた行動変容を促す機能も搭載し、包括的な心臓リハビリテーションが提供できるアプリにする予定だそうです。
心臓リハビリの治療用アプリとして薬事承認を目指す
CaTeは2020年3月創業し、家庭教師のスキルシェアサービス「ポケットスタディ」を展開してきました。新たに心臓リハビリ治療用アプリの開発を始めたのは、新型コロナウイルスによる医療のひっ迫があり、以前から考えていた遠隔医療の事業を立ち上げる必要があると考えたからと寺嶋さんは言います。
2021年12月には、Coral Capitalから1億円の資金調達を実施しました。調達した資金で、心臓リハビリ治療用アプリの開発と臨床研究を行い、保険適用を目指します。
近年では、医薬品や医療機器と同じように「治療用アプリ」が薬事承認を取得するケースが出てきています。2020年8月にはニコチン依存症向けの「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ及びCOチェッカー」が日本で初めて治療用アプリとして薬事承認を取得し、同年11月に保険適用が認められました。CaTeの遠隔心臓リハビリ治療用アプリが薬事承認を取得して保険が適用されるようになれば、心臓リハビリ普及の大きな後押しになりそうです。
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Contributing Writer @ Coral Capital