これを読んでいるあなたは、スタートアップへの転職希望者でしょうか?それとも、経営者か採用マネージャー?もしくは、投資家や支援機関の関係者かもしれません。
あなたの経歴や肩書きがなんであれ、筆者の私を含め、私たち全員に共通していることが3つありますーー「今日の自分は、昨日より老いている」ということ、「年齢に基づいたステレオタイプ・偏見・差別(=エイジズム)」を持っていること、そして、こうした事実を積極的には認めたくないことです。
年齢を理由に応募を断ったり、採否を決定したりする差別行為は法律で禁止されていますが、残念ながらステレオタイプ(考え方)や偏見(感じ方)は、一朝一夕に変化するものではありません。転職面接で、同じ質問に同じように答えても、年齢によって受け取られ方が変わってしまう可能性があるのです。
この記事では、年齢が高めのスタートアップ転職希望者向けに、面接の際に心がけたいポイントを3つご紹介します。「エイジズム」の壁に邪魔されて、スタートアップがあなたの能力や適性を見逃すことがないように、ぜひ実践してみてください。
スタートアップ業界の「エイジズム」とは?
従来は、企業におけるリーダーシップは年上であることと結びついており、「エイジズム」の悪影響を受けるのは、主に若手の社員でした。どれだけ貢献しても昇進・昇給は年功序列で決まり、会議で発言すると「生意気」と非難されたり、若いマネージャーへの風当たりが強かったり、年齢が若いという理由で不当な扱いを受けることが多かったのです。
一方、スタートアップ業界の「エイジズム」は、年齢が高い人材に不利になる傾向があります。この背景にあるのが、「スタートアップ」=「コンピュータ/デジタル」=「若者」というイメージです。日本のテレビや雑誌でも、「社員の平均年齢20代」というのが、事業の革新性の証であるように取り上げられるのを目にします。
シリコンバレーで多くのスタートアップが生まれ始めた当時は、たしかに「コンピューターが使えること」と「若さ」には相関関係がありました。結果として、若い世代の経営者がデジタルなソリューションを開発し、年上の世代が率いるアナログなビジネスを革新するという構図になり、「スタートアップ」=「若者」というイメージが定着したのです。
とはいえ、Google共同創業者のラリー・ペイジ氏が49歳、アップル共同創業者のスティーブ・ウォズニアック氏が71歳になった今、もはやデジタルであることは、「世代」ではなく、個人の「選択」としか定義できなくなっています。成功したスタートアップ創業者の平均年齢は45歳というデータや、還暦を目前にIT未経験でスタートアップに入社したり、80歳で第一線のエンジニアとして活躍したりというストーリーが、変化の証です。
さらに、日本のスタートアップ業界は、今や海外投資家からも注目される存在で、資金調達は社数・総額ともに増加し、転職者の年収水準も上場企業に肩を並べるまでになっています。豊富な経験やスキルに見合う収入を得ながら、より幅広い年代の人たちが、スタートアップで新たな挑戦ができる時代になっているのです。
「年齢不問」の裏にある採用側の本音とは?
スタートアップとしては、即戦力となる人材は大歓迎で、すぐに会って採用したいのが本音です。ただし、年齢の高い候補者の面接では「エイジズム」が働いてしまい、組織文化や既存メンバーとの相性に関して、下記のような懸念が自然と強まります。
- 過去の成功・経験・人脈に囚われていないか?
- 上下関係に厳しく、率直な議論ができないのではないか?
- 手足を動かして、泥臭いことをやらないのではないか?
こうしたスタートアップ側の懸念を理解していない候補者は、下記のようなシナリオに陥りやすくなります。
面接官:候補者に好意と敬意を示すため、過去の経験を褒める
候補者:経験が評価されていると感じて、過去のエピソードを中心に話す
面接官:「経歴に自信満々だな…新しいものを創る障害になりそう…」
面接官:フラットな議論ができそうか、現職の部下との関係について尋ねる
候補者:部下のマネジメントや評価に関して、哲学や方法論を語る
面接官:「うちの平等主義でフレンドリーな社風に合わなさそう…」
面接官:実際にどれくらい自分で動く人か、話の内容から探っている
候補者:直近の経験(=大企業のマネージャー職)を説明する
面接官:「アドバイザーならいいけど、社員は違うかも…」
このようなシナリオを避けるには、面接時のコミュニケーションで、どんなことを心がければいいのでしょうか?上記に挙げた懸念点を解消するポイントを見ていきましょう。
ポイント①「学習意欲」と「好奇心」を示す
年齢の高い候補者は、ほとんどの場合、豊富な経験値やスキル、人脈等を「強み」としてアピールします。ところが、強みは弱みの裏返しなので、面接官は「過去のやり方に囚われていないか」「新しいやり方で、新しいものを創れる人か」といった点を、あなたの言動から見極めようとしています。
この懸念をやわらげるには、あなたの「学習意欲」と「好奇心」を伝えることが効果的です。例えば、過去の実績を「自分がいかに素晴らしいか」という軸で語ると、「自慢話」や「武勇伝」のような印象を与えがちです。その代わりに、「キャリアの各ステージで、自分が何に好奇心を持ち、いかに学び続けて、結果につなげてきたか」というストーリーにできれば、今後も進化を続けていくあなたのイメージが、面接官の頭の中に湧いてきます。
また、あなたが過去にシリコンバレーやスタートアップ業界と関わりがあった場合、当時の知見だけで話をすると、「学びが止まっている人」として黄色信号が点ります。なるべくアップデートしておき、当時の経験をもとに話をするなら「今は変わっているかもしれませんが…」と前置きをするようにしましょう。
また、面接官に聞きたい質問は事前に用意しておき、質疑応答の時間が来たら、好奇心旺盛に尋ねてみてください。「学習意欲」や「好奇心」は、あなたのデフォルトの人柄であるだけでなく、その特定のスタートアップに対してであることを示すことができます。
ポイント②マネジメントは「コラボレーション」のツール
組織を拡大しているスタートアップにとって、マネジメント経験を持つ人材は貴重な存在です。ただし、年齢や肩書きに捉われないフラットな組織文化を重視する企業の場合、上下関係に厳しく、階層主義な文化を持ち込みそうな人材は歓迎されません。
スタートアップとの面接で、部下や年下の同僚との関係について話すときは、「上下関係」ではなく「コラボレーション」を連想させるような言葉を選びましょう。映画『アベンジャーズ』のように多様なメンバーが集結して、あなたがたまたまリーダー役を担ったイメージで、マネジメントはコラボレーションを円滑にするツールという位置付けです。
例えば、「何人のチームだったんですか?」という質問に、「下には、部下が◯人ついていて…」と答えると上下関係が強調されますが、「◯人のメンバーと一緒にやっていました」という言い方ならフラットな印象になります。人材育成の話であれば、若手を「育てた」ではなく、主体的な成長を「サポートした」という表現がおすすめです。
また、面接官が2人以上いた場合は、シニアレベルの面接官に視線や会話が偏らないような配慮をしましょう。ジュニアレベルの面接官に対して、公平に視線を配ったり、話を振ったりすることで、肩書きや年齢に捉われないフラットな姿勢をアピールできます。
ポイント③「泥臭い」仕事に対するオープンさ
スタートアップでは、たとえ「管理職」といっても、多くの場合はプレイング・マネージャー的な役割を求められます。あなたの直近の肩書きが、大規模な組織の部長職・役員職の場合は、「自ら手足を動かして、泥臭い仕事をしてくれるのかな?」「アドバイザー的な仕事と勘違いしているのでは?」という不安が生まれます。
面接では、あなたが想定している「泥臭さ」の度合いを、明確な言葉で共有しておきましょう。どれくらい手足を動かして実務をやるつもりがあるか、この仕事に週何時間くらい費やせるか、オフィスにどれくらいの頻度で顔を出せるかなど、期待値を擦り合わせておくことが重要です。
「大事なのは、実務の量とか時間じゃなくて、出せるバリューでは?」という反論もあり、これは確かに正論です。しかし、量をこなす中で次々に出てくる課題を解決し、刻一刻と戦略・戦術を調整している事業フェーズだと、実務なしにバリューを出すことが現実的ではないことがあります。もし「実務の量よりもバリューが大事」と考えているなら、面接官も同感か確認しておくと、オファー段階になって揉める心配がなくなります。
あなたの活躍が、「エイジズム」を壊していく
この記事では、採用面接に「エイジズム」が存在する前提で、あなたが個人としてできる対応に焦点を当てました。ただし、ジェンダーの不平等が、女性やLGBTQの当事者による行動だけで解決しないように、エイジズムの根本的な解決には、社会全体や雇用者側の意識向上や、ステレオタイプや偏見に左右されないシステムの構築が必要です。
欧米では、Facebook上の求人広告を出す際に、ターゲットを年齢別に指定できる機能の是非が法廷で争われる事態に発展したり、アルゴリズムによる年齢差別が指摘されたり、テクノロジーのインプットおよびアウトプットにおける「エイジズム」が批判を受けています。 “We hire old people” と書かれた求人広告が話題になったり、これまで見過ごされてきた不平等な扱いを正そうとする動きが出てきています。
私たちが、普段の生活で「もう〇〇歳だから、〜しないと」「まだ〇〇歳だし、〜は先でいいか」と、自分自身に言い聞かせていることはないでしょうか?「年相応」という言葉で表現されるような、ステレオタイプ(考え方)や偏見(感じ方)は、どこからやってきて、個人の言動を通じて、社会全体にどんな影響を与えているのでしょうか?
「スタートアップは、20代でやること」「テック業界に入るには、もう遅い」ーーそんな思い込みで、転職をためらっている人がいれば、ぜひ挑戦してみませんか?応募するのがためらわれる方でも、Coral Careersのように、スタートアップ企業からのアプローチを待つ方法もあります。あなたの活躍が、スタートアップ=若者というイメージを刷新し、多彩な経験を持つ人材が活躍できる業界のあり方を作っていきます。
最後に、スタートアップ経営者や採用マネージャーの方は、自分たちの中にある「エイジズム」を意識して、より多様な人材が応募しやすい求人広告や、活躍しやすい組織文化になっているか確認してみてはいかがでしょうか?
Contributing Writer @ Coral Capital