SaaS向けカスタマーサクセス管理ツールを提供するHiCustomer株式会社が6月30日、「カスタマーサクセス白書 2022」を公開しました。SaaS導入企業の成功体験づくりを支援する「カスタマーサクセス」の現状をとりまとめたもので、同社が2020年から毎年出しています。
最新の白書では、新たにSaaS導入企業の実態を調査。システム導入時には、ベンダーへの対応よりも、社内調整に苦労を感じていることなどが明らかになりました。この記事では、SaaSベンダーにとっても参考になりそうな、SaaS導入企業の「今」がわかるデータを8つのポイントにわけて紹介します。
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調査は5月9日から5月20日にかけてインターネット上で実施し、SaaS製品を仕事で利用している321人から回答を集めたものです。回答者の属性は以下のとおり。
※情報開示:HiCustomerはCoral Capitalの出資先企業です。
(1)導入の決め手は「機能」、一方で「導入コスト」も重視
SaaSのシステム導入に関わったことがある194人(上記左側の円グラフの60.4%に該当)を対象に「導入の検討ポイント」を聞いたところ、「価格」が21.6%で最も多く、「機能」が20.5%で続きました。
それに対して「導入の決め手」となったものは「機能」が19.1%で、「価格」の17.1%を上回る結果に。また、機能が決め手となっている一方で、「今後の拡張性」(12.2%)よりも「導入コスト」(13.9%)を挙げる人が多く、導入や運用のしやすさを重視する傾向も見られました。
(2)直近のSaaSシステムで苦労した:43.3%
SaaSのシステム導入に関わった人に「直近で行ったシステム導入の苦労度」を聞いたところ、「非常に苦労した」は15.5%、「ある程度苦労した」は27.8%でした。これらを合計すると4割を超え、苦労を感じなかった人(38.2%)を上回る結果となりました。
(3)SaaS導入のペインはベンダー調整よりも社内調整
SaaSのシステム導入経験者が苦労したポイントで最も多く挙げられたのは、「導入前のベンダー/営業担当との調整」(17.9%)でした。
その一方で、「非常に苦労した」と答えた30人だけに限定すると、苦労のポイントに変化が見られました。「導入前のベンダー/営業担当との調整」は12.0%にとどまり、「導入作業中の導入に関わるメンバーの調整」「導入後のシステム運用ルールの整備」(ともに15.7%)や「導入後の社内利用部門/メンバーへの啓蒙・巻き込み」(13.9%)のほうが多く、対ベンダーよりも対社内の調整にペインを感じる人の多さが伺えます。
(4)SaaS導入経験が多い人ほど苦労を感じている
SaaSのシステム導入の経験回数ごとに「直近のシステム導入時の苦労度」を聞いたところ、導入経験が多い人ほど苦労を感じる傾向が見られました。
システム導入の経験回数が1回だけという人は「苦労していない」が34.9%、「苦労した」が31.0%だったのに対して、10回以上導入している人では「苦労していない」が26.4%、「苦労した」が64.7%に上りました。
この結果についてHiCustomerは、「システム導入の経験者ほど、システム導入に対する目が厳しくなる」と指摘。その理由としては、SaaSベンダー側のオンボーディング体験が改善したことや、一般消費者として受ける顧客体験が向上したことを背景に、一度良い体験をしたSaaS導入経験者の期待値が上がっているためだと分析しています。
(5)導入期間の長期化が「苦労度」を高めている
アンケートでは、SaaS製品への事前の期待との乖離と、システム導入時の苦労度の関係についても聞いています。
それによれば、「システム運用開始までの期間が、事前のベンダーの説明・想定よりかなり長かった」場合は、すべての人が「苦労した」と回答。カスタマーサクセスによるサポートや機能面の期待値よりも、導入期間の長期化がシステム導入担当者の負荷を高めることがわかりました。
(3)の項目にあるように、SaaS導入時のペインとなっているのが社内調整です。このことからHiCustomerは、「SaaSベンダーはシステム設定だけではなく、ユーザー社内での摩擦を減らし、導入期間の長期化を防ぐことがオンボーディングの要」と言います。
(6)社内のSaaSを使いこなせていない:68.9%
SaaS製品を仕事で利用している321人に対して、社内のSaaSの活用度についてもアンケートを実施しています。それによれば、社内で利用しているSaaS製品について、「使いこなせていないものがある」と回答した人は68.9%と半数を超えました。
その理由としては、操作が複雑で使いこなせない担当者がいるなどの「使い勝手」が39.0%で最も多く、次いで「機能の多さ」が24.4%、システムに業務を合わせることができないなどの「運用に乗らない」および「属人化している」が9.8%の順でした。
(7)ユーザーはベンダーの積極的な関与を求めている
SaaSベンダーに求めるフォローの内容では「自分が困っていることを察知した先回りのフォローアップ」が18.7%でトップ。「定例会など、自社担当と定期的にコミュニケーションができる場」(16.3%)や「導入目的や活用までの ステップのすり合わせ、言語化を手伝ってくれる導入時の支援」(15.5%)の割合も高く、HiCustomerでは「ユーザーはベンダーの積極的な関与を求めている」としています。
(8)知り合いにSaaS製品を勧めたことがある:66.7%
SaaSを仕事で利用している人のうち、「利用しているSaaS製品を知り合いに勧めたことがある」は66.7%、「新たな職場で以前利用していたSaaS製品を勧めたことがある」は65.8%と、7割弱のユーザーが周囲にお勧めしていました。
お勧めした理由では「システムが便利だった」と「ベンダーの対応が良かった」という回答が多く、反対に「お勧めのシステムを聞かれたから」という回答は5%以下で、95%以上の人が自発的に紹介していました。
また、自身の職場へお勧めする場合は、知人に勧める場合と比較し、ベンダーの対応を重視していることもわかりました。
「カスタマーサクセス白書 2022」ではこのほか、例年行っているSaaSベンダーへの調査を通して、カスタマーサクセスチームの課題や、チーム運営年数ごとに見た業務比率の変化、さらにはカスタマーサクセス担当者の年収レンジなど、カスタマーサクセスの「今」がわかる数字が明らかになっています。
全117ページの全文は、こちらから無料でダウンロードできます。またカスタマーサクセスという職種に興味のある方は、Coral Insightsで過去に紹介した「成長SaaS企業のカスタマーサクセスづくり」もご覧ください。
Editorial Team / 編集部