2024年において、世界各地のスタートアップのエグジットはIPOやM&Aではなく、セカンダリー取引によるものが中心でした。実際、ベンチャーキャピタリストであるトマシュ・タンガズ氏によれば、流動性イベントのおよそ70%がセカンダリー取引だったと推定されています。
過去20年にわたり、スタートアップがエグジットするまでの期間は世界的に大幅に長くなってきています。スタートアップが以前よりも長く非上場のままでいるようになったためです。1990年代には、高成長企業が創業から数年で上場することは珍しくありませんでした。たとえば、Amazonは1994年の創業からわずか3年後に上場しています。ところが、今日では上場のハードルが上がりました。2002年のサーベンス・オックスリー法のような規制の変化により、新興の上場企業のコンプライアンスコストが増加し、その一方でプライベートマネーが大量に流れ込んだことで、スタートアップはIPOをせずとも大規模な資金調達が可能になっています。その結果、多くのスタートアップは10年あるいはそれ以上非上場のままでいる道を選ぶようになりました。アメリカでは、上場企業の数が1990年代の8,000社超から、現在は4,000社余りに減少しており、早期のIPOが減っていることを示しています。その代わりに、ベンチャーキャピタルやプライベートエクイティによる「メガラウンド」の資金調達が、かつて株式市場が担っていた成長資金の役割を果たしています。
当然ながら、初期のステークホルダーにとっての流動性は大きな課題になっています。IPOで一部の株式を売却していたはずの創業者、従業員、初期VCなどは、長年にわたって非上場企業の株を保有し続け、簡単に売却できない状況に陥っています。実際、初期段階のVCファンドの標準的な10年のファンド期間はもはや妥当性を欠き、15年程度継続するのが当たり前だと広く認識されるようになりました。アメリカでは、こうした流動性ニーズに応えるために、未上場株式のセカンダリー市場が活発に形成されています。ForgeやEquityZen、Nasdaq Private Marketといったプラットフォームが、年間数十億ドル規模のセカンダリー取引を支えています。また、大規模なレイターラウンドの資金調達にセカンダリー枠が組み込まれるケースも増えており、StripeやSpaceXが代表例です。Stripeはここ数年で複数回のテンダー・オファーを実施し、直近では650億ドル以上のバリュエーションで現従業員や元従業員に流動性を提供しました。SpaceXは半年ごとにテンダー・オファーを実施していると報じられており、上場や追加のプライマリー資金調達を行わずとも、従業員や早期投資家が一部の株式を売却できるようにしています。
日本では、以前にも述べたように、アメリカでIPOを遅らせる原因となったような規制は同じ程度には存在しなかったため、今でも比較的容易に上場が可能です。しかし、成長ステージ向けにプライベートマーケットで得られる資金が増え、創業者や投資家がより長く非上場を維持して大きな成果を狙う志向が強まる中、上場まで待つ期間が徐々に長くなってきています。その結果、セカンダリー市場もようやく発展し始めている段階です。2024年には、SmartHRがKKR主導で214億円の資金調達を実施し、その中で大きなセカンダリー取引が行われ、初期投資家が株式の一部を売却できるようになりました。ほぼ同時期に、Kepple Capitalがスタートアップの株式を既存株主から買い取る日本初の本格的なセカンダリーファンドを立ち上げました。そしてSmartHRの前CEOである宮田昇始氏が創業したNstockは、こうした変化を支えるインフラを整備しています。同社は株式やオプションを管理するプラットフォームを開発し、さらに、創業者や従業員が会社の定めるルールのもとで株式を売却できる、コンプライアンスに適合した社内向けセカンダリーマーケットプレイスの立ち上げを進めています。
日本において、今後数年は大きな変革期となるかもしれません。Nstockのようなプラットフォームが成功し、規制面での後押しが続けば、日本は世界でも類を見ないハイブリッドなモデルを築く可能性があります。つまり、比較的早い段階でのIPOもひとつの流動化の選択肢でありながら、活発なセカンダリー取引がもうひとつの選択肢となるような、活気あるスタートアップエコシステムです。Nstockの宮田昇始氏は、次のように述べています。
「日本からユニコーン、デカコーン企業を輩出していくうえで、(セカンダリー市場がないことは)ボトルネックのひとつになっている。スタートアップ・エコシステムをよりよくしていく民間側の旗振り役として土台づくりをしていきたい。」
しっかりと機能するセカンダリー市場が確立されれば、その影響は単なる流動性を超えて波及する可能性があります。IPOまで10年待たなくても株式のリターンを得られる見込みがあれば、スタートアップに参加する人は増えるかもしれません。また、創業者としても、途中である程度の個人的な流動性を確保できるという見通しがあれば、より大きな挑戦に踏み切れる可能性があります。さらに、日本におけるベンチャーキャピタルのリサイクル(資金の回収と再投資)を促進し、アーリーステージの投資家が早期にリターンを確定して次の野心的なスタートアップに再投資できるようになります。要するに、セカンダリー市場は単に流動性の問題を解決するだけでなく、日本のスタートアップエコシステムにおける次の成長期を切り開く鍵となるかもしれません。
追伸:このトピックにさらに興味がある方は、ぜひ直近のStartup Aquariumでの宮田昇始氏のピッチをご覧になることをお勧めします。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital