2020年、同僚のKenはスタンフォード大学が200社のシリコンバレー・スタートアップを調査して導き出した5つの「組織の青写真」を徹底的に掘り下げました。当時得られた教訓は明確でした。ブループリントは早期に選べ、ということです。なぜなら、たとえばエンジニア主導の文化から官僚的な文化に後から切り替えるのは、高度3万フィートで飛行機の翼を付け替えるようなものだからです。データは、コミットメント中心のチームが最も長く生き残り、スター中心のチームがIPO後に最大のホームランを放ち、独裁的または過度に官僚的な組織が最も早く崩壊することを示していました。あれからわずか4年、ChatGPTが登場し、AI革命を引き起こして、これまでの前提をおそらく完全に変えてしまいました。
Microsoftの『2025 Work Trend Index』は、この不連続性をはっきりと示している。知能は今や「蛇口をひねれば出てくる」存在だ。ビジネスリーダーの82%が、2025年は戦略と業務を再考すべき年だと答え、81%が自律型エージェントが18カ月以内にワークフローへ深く組み込まれると予測し、4分の1近くがすでにAIを全社導入しています。同レポートは、人間とエージェントの格子構造でスケールし、従業員数ではなく新たな指標「ヒューマン・エージェント比」で測定される「フロンティア企業」の台頭を描いています。
トマシュ・タンガズは同じ変化をさらに生々しく描写しています。すべての従業員が「エージェントの上司」となり、デジタル同僚の群れを管理するというのだ。彼はMicrosoftの調査を引用し、リーダーの83%がAIによってキャリアのはるか早い段階で戦略的な仕事に取り組めるようになるだろうと述べています。なぜなら、戦術レベルの業務の多くが、AIによる自動処理によって不要になりつつあるからです。
これらの事情を総合して考えると、従来のピラミッドは突然レトロに感じられます。旧来のブループリントは、20世紀で最も希少だった資源、つまり人間の専門知識―、に最適化されていたからです。Kenが指摘したように、スター組織はその専門知識を囲い込むためにプレミアムを払い、コミットメント組織は長期的にそれを育み、エンジニア文化は他社より高速で反復することを試みていたのです。しかし専門知識がタスク単位でレンタル可能になった今、論理は逆転しました。制約条件は技能の実行ではなく判断になります。このシフトは、これまでのブループリントの型を再構築し得るでしょう。
コミットメント文化は優位を保てるかもしれません。希少な才能を独占しているからではなく、かつてスター人材を引き留めていた忠誠という接着剤が、今やエージェントの上司にも適用されるからです。デジタル労働の代替コストがゼロに近づく世界では、本当に流出が怖いのは、方向を示す人間の方なのです。
スター文化は、これまでIPO前はコストがかさみ、IPO後は人材の離職が多いとされてきましたが、今やその経済性が大きく改善しつつあります。というのも、エージェントが定型的な業務の多くを担うことで、少数の真のスターたちだけで、より効率的に同等の成果を出せるようになるからです。ただし、これからのスターには、個人として優れているだけでなく、多数のエージェントをうまく活用・統率する力も求められます。
シリコンバレーでよく見られるエンジニア文化は、ここにきて再び勢いを取り戻しつつあります。コードが人間と多数のAI同僚とのインターフェースとなりつつある今、エンジニアとしてのDNAは依然として極めて重要です。しかし、純粋な技術力だけではもはや差別化につながりにくくなっています。これから重視されるのは、システム全体を俯瞰する思考力や、セキュリティ、そして自律的に動くワークフローを適切に管理・統制する力です。
かつてプロセスによってスケールしてきた官僚的な文化は、今後は一気に追い越されてしまうかもしれません。エージェントがリアルタイムでSOP(標準業務手順)を作成し、実行までできるようになると、従来のコンプライアンス業務に埋没していた人材は、そのままでは役割を失ってしまいます。今後も価値を持ち続けるには、自らガードレール(業務の枠組みや制約)そのものを設計する側へと舵を切る必要があります。
独裁的な文化は、最も早く崩壊していきます。エージェントが、ほぼゼロコストで無限の代替案を提示できるようになると、「俺がそう言ったからだ」といった強権的なリーダーシップは、もはや従業員に受け入れられません。彼らは一晩で、エージェントを活用した競合サービスを立ち上げてしまうかもしれないのです。
2025年のレポートでは、「キャパシティギャップ」「インテリジェンスリソース機能」「ワークチャート」といった新しい語彙が提案されています。これらは、10年前に「OKR」が登場した当時と同じくらい、今では重要な概念と感じられます。なかでも「ワークチャート」は特に注目に値します。これは従来のように機能ごとに固定された組織図ではなく、成果を中心に据えて構成され、人間がエージェントと一時的なチームを組んで目標を達成し、その後は映画の撮影クルーのように解散するという考え方です。
創業者はこれにどう対応すべきでしょうか。第一に、コンテクストの「持ち運びやすさ(可搬性)」を意識して設計することです。コミットメント型であれスター型であれ、意思決定の背景や文化的な判断基準(ヒューリスティック)を文書化し、新たに加わるエージェントの群れや新任のエージェント上司が、数分で立ち上がれるようにしておく必要があります。
第二に、「インテリジェンスリソース」担当を、必要とされる前の段階で早めに任命しておくことです。今は時期尚早に感じるかもしれませんが、12カ月後には、HRBP(人事ビジネスパートナー)を置くのと同じくらい当たり前になるはずです。
第三に、かつて「従業員1人あたりの売上高」を追っていたように、これからは「人間とエージェントの比率」を指標として把握・管理していくべきです。
結局のところ、AIは組織設計そのものを消し去るのではなく、その結果をより強く増幅させるのかもしれません。設計図(ブループリント)を間違えれば、フィードバックループは急速に回りはじめ、失敗のスピードも加速します。一方で、正しい設計を選べば、実行スピードは指数的に高まり、成果を出すたびにその勝ちパターンが即座にエージェントにコード化され、永続的な資産として組織に残っていきます。このように、「フロンティア企業」とは単なる第6のアーキタイプではなく、これまでの5つのモデルの優れた特性を組み合わせた存在であり、かつてそれらを特徴づけていた「人員数の制約」からも自由になっているのです。AIの時代は、組織図を不要にするのではなく、むしろそれをより決定論的なものにしていく可能性があります。
Founding Partner & CEO @ Coral Capital